ダブルキャスト
※お題「ダブルキャスト」「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」で書きました。
暑気の収まり始めた日曜の朝、そのトラックはやって来た。引っ越しの荷物が山と積まれている。助手席の扉が開き、彼女が降りてきた瞬間、ぼくの人生は変わった。
「ねえ、双子さんたち」
今まで気にも留めなかった母の呼びかけに抗議する。
「止めてよ、母さん。弟と一緒にしないでくれる!」
ぼくと弟は一卵性双生児だ。顔形や背丈、声も同じである。
「あらあら。難しいのね」
母は、取り合わない。
「大人になったんだよ」
感慨深げに父が頷いた。
「兄貴はポンコツ」
弟は、掌を天に掲げる。
「おはよう!」
弟とスクールバスを待っていたぼくに彼女が話しかけてきた。近くで見る彼女は、昨日より何倍も可愛らしい。
「おはよう!」
慌てて返事をするぼくの隣で弟も彼女と挨拶を交わしていた。
「こっちの学校は授業が進んでるってママが言ってたんだけど、本当?」
顔を寄せてきた彼女からミントの香りがする。たぶん歯磨き粉の匂いだ。
「どうかな? そんなに違わないと思うけど」
答えながら、顔が熱くなってくる。ぼくは、彼女の名前を知りたくて居ても立ってもいられなかった。
「先生に訊いてみたらいいよ」
弟が割り込んでくる。
「うん。そうしようかな。どうもありがとう」
彼女は弟に笑いかけた。顔をしかめたぼくに弟は吹き出している。なんて憎たらしい奴だ。
「一ポイント、先取だ。間抜け!」
スクールバスへ乗り込みざま、弟が囁く。ぼくと弟は、押し合いへし合いしながら彼女の隣の席を争った。