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ITSUREN武勇伝  作者: 音央
3/6

ITSUREN武勇伝 ―Star Festival―

「ねえねえ、なんてかいた?」

「……まだかいてないんやけど……」

「えー? おねがいないの? ぼくはあるよ。たなばたなんだから、おねがいしなきゃ!」

「…………」

「あっ、なにかいたの? おしえてよ! ぼくのもおしえるからー」

「いい。おまえのねがいがかなったら、おしえたるから」


***


「それって10年以上前の話なんだろ? 覚えてるなんて気持ち悪いな。俺なんてそんな小さいときのこと忘れたぜ?」

「だよね……僕もそう思う。記憶力がいいわけじゃないんだよ? その頃のことなんて、それ以外覚えてないし」

「ま、それだけお前はアイツの『願い』が気になってるってことだろ」

 僕(本名・小鳥遊樹)とハイジ(本名・反町高次)はケーキを食べつつ昔の話をする。とは言うものの、思い出話に花を咲かせるとかいう感じじゃなくて、ただグダグダと話してるだけなんだけど。

 一方その横では、ハイジの彼女のクララ(本名・穂波紅楽々)と僕の想い人、蘭さん(本名・藍葉蘭)が話している。あっちはあっちで楽しそうだけど、何の話をしてるんだろう。少なくとも、今の僕とハイジみたいに、何の意味もないくだらない話じゃないんだろうけど。

「おーい、樹。この漫画で合うとるか?」

「ん、合ってる。ありがとう蓮。出来る限り早く返すよ」

「お前に貸すと一ヶ月は返ってこんのは分かっとるから、期待せずに待っとくわ。……つーかお前ら。俺はいいにしても、何で主役の蘭よりケーキ食っとるんや」

 自分の部屋から、さっき僕が貸してほしいと頼んだ漫画を持ってきた蓮(本名・藍葉蓮)は、僕とハイジに向かって大きくため息をつく。まあ、確かに主役が蘭さんと蓮であることに間違いはないけど、兼七夕なんだから、僕たちが食べまくってたって悪いことはないはずだ。

 そう。今日は『蘭&蓮の誕生日兼七夕パーティー』だ。

 僕の家と蓮たちの家は隣同士。親が仲良しで、もう2歳とか3歳の頃には一緒にいたと思う。僕は僕で、双子っていうのが珍しかったから、よく二人を観察してたんだ。ちなみに僕が蘭さんのことを好きなのはその頃から。ついでに僕と蓮の仲が友達と呼ぶには相応しくない関係なのもその頃から。悪友と呼ぶにも何か違うしなあ。

「で、話戻すけどよ。それって幼稚園……年中くらいか?」

「うーん、確か。今日みたいにパーティーで、蓮の家にいたんだ」

「お前らどれだけ昔の話しとったんや……」

「で、樹。お前は短冊に何て書いたんだ? 『お願いしなきゃ損』とか言うくらいだから、お願いしたいことがあったんだろ?」

「決まってるじゃないか。『蘭さんと両想いになれますように』的なことを」

「……良く言えば一途、なんだけどな……。10年そんな感じでグダグダやってるくらいなら、とっとと告白しちまえばいいのに」

「この世の全人類がハイジみたいな奴だと思わないでね」

 ちなみにハイジは中学に入学してすぐクララに一目惚れ、1週間後には告白して、しかもそれが成功したというすごい経歴の持ち主だ。この世の全人類にハイジみたいな勇気があれば、恋愛ものの少女漫画とか成立しなくなるんじゃないだろうか。

「ねえ、ところで藍葉くん。この短冊って書いていいの?」

「え? あ、まあな。書いたらそこの笹に飾っとけ」

「分かった」

 クララがいつの間にか手に短冊とペンを持って、何かを書き始めている。正直、クララが何て書くのかものすごく興味があるな。やっぱり、『ハイジとずっと一緒にいられますように』とか書くんだろうか。

「よし。出来た」

「クララちゃん、見ていい?」

「あ、僕も見たい!」

「うん。構わないよ」

 僕と蘭さんはクララの書いた短冊を覗き込む。そこには僕なんか足元にも及ばないような綺麗な字で……


『藍葉くんを越えて学年1位になれますように』


……と書いてあった。

「って、ちょっと待って! クララ、これが最重要事項!?」

「え? うん。毎回毎回藍葉くんには勝てないから」

「彦星や織姫に頼んだところで、俺がトップの座を譲る気はさらさらないけどな」

「分かってるよ。これはあくまで気休め」

「穂波……お前、顔に似合わずリアリストやな」

「そうじゃなくて!! ハイジとのこととかそういうのは!?」

「? 何言ってるの、小鳥遊くん」

 何言ってるのって、そりゃ言うよ! 彼氏よりも成績の方が大事なんて、

「高次くんとのことは、織姫様や彦星様に頼るより、自分たちで決めた方が確実だし。恋愛関係で神頼みって、あんまり好きじゃないから」

 うわ、何この御方すごいカッコいい。

「さすがクララ。んで、藍葉姉も何か書いたのか?」

「へ!? ちょっと、見ないでよ!!」

「ん? ……なるほど、恋愛関係か?」

「蘭ちゃんらしいかもね」

「さっきクララちゃんにああ言われた後じゃ余計に見せづらいよ! 絶対見ないで! 皆が帰ってから飾るんだから!」

「蘭。お前、俺が見たら絶対目潰しするやろ」

「当然よ。ある意味一番見られたくないもん」

 蘭さんの好きな人……そういえばいるって、いつだか蓮が言ってたな。すごく気になるけど、まさか聞き出せるはずもないし。

「で、樹は? まあ何書いたかは大体想像つくが」

「はい」

「どれどれ……おい樹。お前肝心なところで漢字間違えてるぞ」

「え? どこ?」

「ほらここ。『両想い』のとこだ。『両相い』になってる」

「へ? ……あ、あぁぁっ!!!」

 確かにハイジの言う通りだ。ひょっとして今までも僕、間違えて書いてたんだろうか!? うわ、初めて勉強できないことが恥ずかしいと思った!

 そんな感じで、その後も他愛ない話をしながら、僕らは普通に楽しい時間を過ごした。


***


「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るか。送ってくぜ、クララ」

「ありがとう、高次くん」

「いつものこととは言え、見せつけてくれるよねー」

「お前はどうせもう少しいるんだろ? 藍葉姉と親密度を上げるには絶好のチャンスだぜ」

「ギャルゲーや乙ゲーみたいに言わないでよ。何さ、親密度って」

 でも僕の部屋と蓮の部屋は向かい合ってて、その気になれば窓から行き来できるっていうまさにギャルゲーみたいな状況ではある。……いや、誰もギャルゲーなんてやったことないよ、ハイジから聞いて知識があるだけで。しかも相手が蓮じゃ、その設定も限りなく無駄だし。

 ハイジとクララを玄関で見送ってから、僕はリビングに戻った。自分の家かよというツッコミは受け付けない。まあハイジたちにはもう少しいるとか言ったけど、一応もう暗いし帰る準備を……。

「って、あれ? 蘭さん一人だけ? 蓮は?」

 リビングにいたのは蘭さんだけだった。おかしいな、神隠しにでも遭ったんだろうか。それならそのまま帰ってこなくていいんだけど。

「あ、樹くん。うん、蓮は外の風に当たりたいって屋根の上に」

「蒸し暑いだけだと思うけどなあ……」

 ……ってちょっと待て。この状況って、蘭さんと二人きり……? 蓮が気を利かせたってことは100%あり得ないにしろ、これって……。

「ね、ねえ樹くん」

「な、何? 蘭さん」


「樹くんってさ……好きな人とか、いる?」


 ……………………は? 急な質問すぎて、脳がついていけない。呆然としてる僕に気づいたのか、蘭さんが慌てて訂正を入れた。

「あ、べっ、別に深い意味はないから!! ただその……ふ、普通に友達同士でもする話だろうし!」

「あ、うん、そうだよね! ……いるよ、一応」

「本当?」

「うん。そういえば蘭さんは、好きな人いるって蓮から聞いたけど。僕の知ってる人?」

「やだ、アイツそんなこと言ったの? ……うん。知ってる人。樹くんは……」

「え? えーと……蘭さんも知ってる人、かな」

 知ってるも何も、本人なんだけどね。

 っていうか、何だろうこの雰囲気。居づらくて仕方ない。何かこう明るい話……あ。

「そうだ、忘れるところだった! はいこれ、誕生日プレゼントね」

「え? ……あ、ありがとう! 大切にするよ!」

 蘭さんにプレゼントを受け取ってもらえてひと安心。中身? それはナイショだ。

「どうも。蓮には使い古しの物差しって決めてたから、お金にも余裕があったし」

「いいのに、そんなの。……にしても、蓮のプレゼント……本当にそうしたんだ……」

 (いないとは思うけど)事情が分からない人のために説明しておくと、3ヶ月前の僕の誕生日で蓮が僕にくれたのは使い古しの消しゴム。というわけで僕は蓮の誕生日プレゼントをこれに決めた。等価交換ってやつだ。詳しくは前話を読んでほしい。

「じゃあ、お礼ついでに……もう一つお願いしてもいいかな?」

「何?」

「その『蘭さん』っていうの、やめてほしいんだ。もう知り合って10年以上経つわけだし……」

「そっか、確かに。じゃあ……」

 ……だめだ、いい案が思いつかない。そもそも『蘭さん』だって相当の勇気を必要とするのに。苗字をもじってあだ名で、とか考えたって、あの蓮という男がいるせいでそれも難しいし……!

 ……仕方ない。

「じ、じゃあ……『蘭ちゃん』、とかでいいのかな?」

「う、うん。樹くん」

 …………きっと今、僕は顔真っ赤なんだろうな。

 告白、なんて多分まだまだ無理だけど、ちょっと距離が縮まったような気はした。


***


「でさあ、蓮。あの時のお願い、結局何て書いたの?」

「んな昔のことは忘れたわ」

「絶対覚えてるだろ!! さっきからお前すっごく挙動不審!!!」

「おお、よう挙動不審なんて単語知っとったな」

「今日朝のテレビで初めて聞いた」

「初めて……?」

 翌日、また学校で叫び合ってる僕と蓮。ハイジとクララも若干呆れた目でこっちを見てる。目で『お前ら本当に飽きないな』って言ってる感じだ。

「いや、口でも言ってやる。ホントお前ら飽きないな」

「地の文読むなって。この注意何回目だよまったく」

「まあまあ。……お、藍葉姉。また部活だったのか」

「まあね。おはよう、皆」

「蘭さ……じゃない、蘭ちゃん……あー、やっぱ恥ずかしい……」

「「…………え?」」

 ハイジとクララが目を丸くする。『お前らいつの間にそんな仲良くなったんだ?』ってとこだろうか。

「樹、昨日俺たちが帰ってから何があったのか、詳しく教えろ」

「蘭ちゃん。私も是非知りたい」

「二人とも、何でそんなに興味津々なんだよ!」

「ったく、お前らはいっつも気楽そうでええよな……」

 蓮がため息をついた。ため息をつくと幸せが逃げるって聞いたことがあるけど、それが本当ならもう蓮に幸せなんて絶対残ってない。

「……あんなこと、お願いせんかったらよかったんやろうなー……」

「へ? 蓮、何か言った?」

「何も言うてへん。とっとと教室帰れや。目障りやから」

「そっ、そこまで言うか!?」

 ……にしても、さっきすごく気になることを言ってた気がするんだけど……まあ、いっか。


***


「ところで藍葉弟。ガキん時の『お願い』って何だったんだ?」

「反町!? 何でお前が知っとるんや!」

「パーティーん時に樹から昔話聞いてな」

「あん時か……」

「で、何なんだ? 樹には言わないって誓うからよ」


「……『樹の願いが叶いますように』」


「…………そりゃまた……普通の友達みたいな願いだな……」

「俺と樹にも普通に仲良かった時期があってな……一瞬やったけど。だから後悔しとるんやって」

「……藍葉弟ってシスコn……いや、何でもねえ。でもお前の様子見てると、最近あの二人のこと満更でもなくなってきてるんじゃないのか?」

「はぁ!? そんなことある訳ないやろ!!」

「……何で俺の周りって、こう鈍い奴ばっかりなんだろうな……」

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