第30話 出発
ライトは床で正座をしていた。目の前には仁王立ちのシェニミアがおり今にも炎が着くくらいの怒りが見て取れた。
「師匠・・・死んでいたかもしれないのに起きてすぐにどこかへ行くなんて・・・頭がおかしいんですか?」
「い、いや待てシェニミア、お前が再生魔法をやった傷口はもう塞がってるし、もう命に別状はないぞ」
軽く焦っているライトは身振り手振りしながら言い訳をしていた。
「そんなことは関係ないんですよ・・・問題はなんでまず私に言ってくれないんですか・・・」
「いや寝てたから・・・」
「なんで起こさないんですか?・・・」
言葉と言葉の間が短くてライトは会話がきつくなってきたようすだった。
ミロスはというと珍しくシェニミアの肩には乗らずに近くの椅子に座っていた。
「それにミロちゃんも・・・なんで師匠が起きた時起こしてくれなかったんですか?」
(うっ・・・)
シェニミアの怒りがミロスまで飛び火して、ミロスは椅子から降りライトの横に並んで座った。
「なんで2人は私を除け者にするんですか?」
「いや除け者にしてるわけじゃ・・・」
(そ、そうだ、私達は別に除け者にしようとしてるわけじゃない)
何とか弁解しようとミロスも言い訳するが、シェニミアは聞く耳持たずにどんどん追い詰めて行った。
「今後私を除け者にしたら、体中に魔法陣を仕込みますからね」
殺人予告をするとシェニミアは、まったく、と頬を膨らませて椅子に座った。
「えっと・・・シェニミア?これからの予定を話したいんだが・・・いいか?」
挙手をしてシェニミアに恐る恐る聞くライト、シェニミアはライトの顔を見ずに小さく、どうぞと言った。
「えっとだな、準備ができ次第当所の目的の極東に向かう、ここから出発するとおよそ15日くらいで港に着く、そこから10日かけて極東に向かう、途中の町によっていくからもう少しかかるかもしれんが」
(具体的に極東のどこに向かうんだ?)
床ではなく椅子に座っているミロスがライトに質問した。
「目的は天獄山、地鳴りの調査とか言ってたな」
(ふむ天獄山か、たしかあそこには神獣がいたななんだったかは忘れたが)
特に重大なことでもないように軽い感じで呟くミロス、ライトも大して重要視していないのかそのまま話は続いていく。
「うっし、それじゃあ準備するか」
「!?もう行くんですか!?」
いままで後ろを向いていたシェニミアがここで勢いよく振り向く。
「まだ怪我も治りきっていないのに!?」
自ら再生魔法をしておきながら治りきっていないとは、中々楽しい勘違いをしているシェニミアはライトの顔を見た。
そこでライトは上着を少し上げて怪我をしている場所をシェニミアに見せた。
「そういえばまだ礼を言ってなかったな、シェニミア助けてくれてありがとよ」
ライトは服を元に戻しシェニミアの頭に手を乗せた。
「私には、師匠しかいないんです・・・私を1人にしないでください・・・勝手に行かないでください・・・」
今まで言いたかったことをやっと吐き出したのかシェニミアは肩を小刻みに震えて、目から涙をこぼした。
神殿を出る際もう一度ココの元へライトは向かった。
「やぁやぁ、それにしてももう行ってしまうのかい?」
いつも通り笑顔でココはライトを向かいいれた。
「ああ、剣はもらったしここに居る意味はもうないからな」
ライトは腰にあるメメントモリを軽く叩いて言った。
「まさかあの剣まで使いこなすとはね、それで今代の名前はなんなんだい?」
「今代、ね・・・やっぱり受け継がれてきたわけか・・・今代の名前はメメントモリだ」
ココは楽しそうな顔でライトの話を聞いていた。
「メメントモリか・・・良い名前だね意味は・・・なるほどねぇ」
名前の意味を見破ったのかココは楽しそうな顔をしていながらも少し目を細くした。
「下級神として最後に忠告しておくよ、これからどんな事が待ち受けているとしても君は最後まで立っているだろう、でもそれまでに倒れる人は数えきれないだろう、わかっているだろう?君はもう立ち止まれない、なら進み続けるしかない良いか悪いかは関係ない君自信が望む道を行くといい、それは正しい道だ」
言い終えるとココはいつも通りの笑顔に戻った。
「な~んて言ってみちゃったけど君は見てて飽きないからね、これからも期待してるよ~」
そのままココはどこかに歩いて行ってしまった。
「正しい道ね・・・・・・・」
ライトは一人そんなことを呟いた。
シェニミアは絶賛質問攻めにあっていた、ライトがココに会いに行くというので部屋で待っていることになり、部屋にいると下級神が押し寄せてきたのだ。
「き、君!少し質問が!痛って!」
「私が先よ!私の質問に答えて!ちょっと!!どきなさいよ!!」
「うるさいわね!!あなたがどきなさいよ!!」
質問があるというのはわかるのだが、要件を言う前に勝手に喧嘩を始めるのでどんな要件かはわからない。
そこにライトが現れた、するとなぜか一瞬で場の空気が静まった。
シェニミアはなにかわからない様子だが、先ほどライトが発した殺気が下級神全体に伝わったらしく、すでにライトは恐怖対象として位置づけられたらしい。
「もう行く要件があるなら紙にでも書いとけ」
そう言うとライトは部屋を後にした、シェニミアは慌ててマントを羽織りライトの後を追っていくと、部屋を出た所で女の下級神に話かけられた。
「これをあげるわ、もし困ったことがあれば遠慮なく呼んでね、名前はアニスよ」
「え?あ、はい、ありがとうございます」
渡されたのは巾着袋だった、中にはなにか入っているらしかったがシェニミアは受け取ると、頭を下げまくりライトの後を急いで追った。
(どういうつもりだ?)
「あら、人間に興味が湧いたのよ、ここで会ったのもなにかの縁じゃない、名前くらい教えておきたかったのよ」
アニスと名乗った女は腕を組みシェニミアの後ろ姿を見ていた、ミロスはなにかを危惧しているのかアニスを軽く睨んでいた。
(なんにせよ我が主に手を出してみろ、ただじゃ済まさんぞ)
ミロスは脅すように言うと、アニスが何か言う前にシェニミアを追って行った。
「愉快過ぎる仲間たちね~」