第12話 ミロス
サークスを無事に出て草原まで来たライトとシェニミアは、さっそく封印石を解放することにした。
「いいか、封印石を手に持って魔力を流し込むんだ、そうすればいずれ封印石にひびが入って封印されたものが出てくるだろ、ただしこいつは大昔に封印されたくちだから、解放と同時に襲ってくる可能性もあるその時は俺が倒す、いいな?」
「わかりました・・・」
そう言ってさっそく集中して魔力を送りはじめるシェニミア。サークスに来るまでにある程度魔力の扱いには慣れていたようでそれほど苦労せず、魔力を流し込めた。
魔力を流し始めてわずか10秒、さっそく封印石に小さなひびが入った。そのひびは少しずつ広がっていき遂に全体にまでいきわたり、突然周囲が光に満ち溢れた。
『これを解放せし者はそなたか?』
突然声が聞こえてきた、耳にではなく頭に直接響くような声だった。シェニミアはびっくりしたがなんとか声を出した。
「は、はいそうです。」
『これは1000年前に我が封印した物だ、これはその昔災厄を齎すとして人から忌み嫌われていたものでな、それを嫌ったのかこれ自ら封印を求めて来た、それから十分時も過ぎたおそらく今は何の害もないだろう、これの名はミロス、天を翔け、地を風の如く動く事ができる誇り高き者だ。ではよろしく頼む。』
突然聞こえた声が途切れた、どうやらライトにも聞こえていたらしく、説明をしてくれた。
「たぶん今のは下級神だな。」
「下級神?」
シェニミアが聞き返す。
「下級神ってのは世界を常に見ている奴等のことだ、滅多に出て来ないがたまに気まぐれで降りてくる事もある。」
ライトが簡単な説明し終わったすぐ後またしても突然声が聞こえた。
『ちょっとちがうな、下級神はこの世界だけに居るんじゃない、一つ一つの世界に必ず居る存在だ。言うなれば世界そのものと言ってもいい。』
その声は何時の間にか目の前にあった光の球体から聞こえた。これにはライトも少し驚いていた。
『この封印を解いたのはそっちの小娘だったな、ではこれに触れてくれ、そうすれば小娘が思う形になることができる。』
「こ、こうですか?」
シェニミアは恐る恐る光の球体に手を伸ばして触った、すると光の球体が柔らかく歪んでいきある形で変形を止めた。
「ほう、なかなか可愛らしい形だな。」
そうライトはバカにするように感心していた。シェニミアは目に可愛い、という文字が見えるように見とれていた。
(な、なんだこの姿はぁ!?)
さっきと同じように口からではなく頭に直接聞こえてくる声を出す目の前の生き物、一つ違うのは随分と声が可愛らしい事になっていたことだ。
生き物の姿は小狐だった。肩に乗せるくらいがちょうどいいという大きさの狐だった。
「私一回だけ狐さんの親子を見たことがあるんです、その子狐が可愛くて可愛くて。」
なんだか惚気にも聞こえてきそうな声を出す、そう言って小狐に手を伸ばすシェニミア。
(もっと威厳のある姿は思いつかんのか!?)
小狐は動揺を隠せないらしく自分の尻尾を追うような感じで同じ所をぐるぐる回っていた、そんな姿を見ても可愛いと思えるのは人間の本能なのかもしれない。
シェニミアに撫でられ気持ちがいいのか草原の草にごろん、と寝転がった。
じゃれてる1人と1匹を見てライトは少し微笑ましい気持ちになった。
「んでたしか・・・ミロスだったか、お前はシェニミアの使い魔って形でいいのか?」
(ん?ああそうゆう事だな封印を解いてもらった借りもあるし。)
「じゃあそろそろ出発したいんだが、その前にミロス今お前は本当の姿に成れるのか?」
ライトが確認するように言う、本当の姿、という言葉に首を傾げるシェニミア。
(無理だな、このまま魔力が回復していけばその内できるようになるが、それまで楽しみにでもしてるんだな。)
なるほど、とライトが呟いた、シェニミアは本当の姿という言葉に興味を示したが、再びミロスとじゃれ始めて、そのことを忘れてしまった。
封印を無事に解く事ができて、今だに草原を歩いているライト達。ミロスはというと久しぶりに見た外の環境に浸っていた。
(それにしても、久しぶりに出てきたが、随分と寝てたようだな。)
「ミロちゃんが封印される前はどんな風だったんですか?」
ミロちゃんと呼んでいるのはもちろんシェニミアだ、ミロス、という名前は呼びづらいという事でそのような形に変形させられたのだ、ミロス本人は相当嫌がったがキリがない事を悟ったのか、しかたなく承諾してしまった。
(なに、世界そのものは変わりないさ、ただ比べて見るとどうしても違いがあるものなのだ。ところでお主よ。)
ミロスは曖昧な感じで返答して、前方を歩いているライトに話掛けた。
「なんだ?」
(お主、その所構わず殺気を出すのは止められんのか?)
ミロスは見透かしたように言った。ライトはそんな事か、という感じに笑った。
「俺とこれから一緒に居るんだからそれは慣れてもらうしかないな、此れは修行時代の癖で直そうにもまた戻ってしまうからこのままにしてるんだ。」
(ふむ、修行か・・・それなら仕方ない。だが直した方がいいと助言させてもらおう。)
「助言だけありがたくもらっておこう。」
「そういえば師匠は修行時代なにをやったんですか?」
シェニミアが興味本位に質問した、ライトの師匠はクラストというのは聞いていたのでその弟子であるライトがこれから自分になにをさせるのかという事も興味があったのだ。それにさっきの会話を聞くかぎりどうやらライトは四六時中殺気を出さなければならない修行を行っていたという事になる。そんな修行をするなら死んだ方がましと思えるシェニミアは確認のためにも質問した
「俺の修行時代か、そうだな主に体力トレーニングから始まって、その後は大体実戦ばかりしてたな。」
とても曖昧に言って詳しくは言わなかったが、ライトの顔を見ていたシェニミアははっきりと見た、ライトの顔が一瞬だけ死ぬ直前、と言わんばかりの表情が出ていたことを。
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