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どこかの病室で…

「萩原一家惨殺事件で逮捕され、死刑宣告を受けていた【萩原紀一はぎわらのりかず】被告の死刑執行が、本日行われます。」

 私は病院のベットの上で横になりながらテレビを見ている。私の名前は【萩原香澄はぎわらかすみ】私が何を考えていようと、関係なく、テレビの中でアナウンサーは事実を淡々と述べていく。


「この萩原一家惨殺事件は2年前、当時16歳だった被告が起こしたもので、被告人の両親、【萩原和夫はぎわらかずお】【萩原和子はぎわらかずこ】を台所にあった包丁で滅多刺しにし、殺害した事件です。そして唯一の生き残りである妹の【萩原香澄】さんも事件のショックで意識不明になり、意識が復帰した後も、記憶喪失になっていました。被告は事件以前特に問題はなく、突然発狂して犯行に及んだものと考えられます。」


 そう…この事件は私たち家族で起きたこと…。そして、その犯人は、大好きだったお兄ちゃん。

 私が記憶喪失になったと言っていたが、それは事件の直前と直後だけ…。だから事件のこと以外は覚えている。あんなに優しかったお兄ちゃん。

 私が泣いてる時はいつも助けてくれたお兄ちゃん。私が落ち込んでる時は自分がどんなに辛くても…励まして私を笑顔にしてくれたお兄ちゃん。

 そして、私を絶対に守るって言ってくれたお兄ちゃん。

 なのに…なんでこんなことをしたの?私は、事件の記憶がない。だから、未だにお兄ちゃんが犯人だなんて信じられない…。でも、警察の方が言うには、「外部から侵入された形跡もなく、包丁には家族の指紋しかついてなかった」とのことだった。だから…犯人はお兄ちゃん以外にありえなかった。

 そして、その残虐性、無実の家族を殺した猟奇性から、何より、本人からの自白もあり、死刑判決を受けたのだった…。

 その執行日が……今日。そんな死刑執行の最期の日でも…私は病室のベットからその様子をテレビで知ることしかできない。


「たった今、萩原紀一の死刑執行が終了したとのことです。」

 私の状況なんてお構いなしに世間は動く、時間は進む。ここで何を考えていても…お兄ちゃんの死刑は執行され、終了した。両親が死んでも、お兄ちゃんが死んでも、時は変わらずに進んでいく。




 数日後。


 私は、心身共に回復良好との事で退院することになった。長いことお世話になったこの病室に感謝の念を浮かべながら、荷物の整理をしていく。両親が死んでしまったので、私は遠くの祖父母のところに預かってもらうことになった。

「そこのお嬢ちゃん。」

 そんな時、後ろから声をかけられた。

 その声を聞いて私が振り向くと、そこには、黒いローブを頭から羽織って水晶玉を持っている老人が居た。ローブは体全体はおろか、顔まで覆っていて、性別は分からない。でも、声を聞く限り…女性だと思う。

「何ですか?」

 私は、少し警戒したような声で聞く。明らかに変質者…いや、不審者って言った方がいいのかな?まぁ、どっち道大体意味はほとんど同じだからいいだろう。見た目変だし。そんな人が私に病院で話しかけているんだから、警戒して当然だと思う。

 しかし…


「貴女…何かの真実を知りたくはない?」


 その言葉を聞いた瞬間、私の心臓はドキンと跳ね上がった。言い当てられたから…私の思いを…言い当てられたから。

「貴女が知りたい真実は…何かしら?」

 私の様子など無視して彼女は続ける。

「私は、この水晶で全ての真実を見抜けるわ。」

 あまりにも、胡散臭いセリフだ。占いなんて私は信じていない。年頃の女の子だけど、そんな抽象的なものに興味がなかった。でも、何故か…この人のは、世間一般に言う占いとは違う…何かもっと具体性のあるものに思えた。

「おや?信じていないのかい?じゃあ些細なことから当てていってあげよう。萩原香澄・・・・さん」

「え、何で…私の名前を…。」

と、思った瞬間、あぁ事前に調べたんだろうという結論を見つけた。それと同時に、この程度なのか…という感覚もあった。こんな…程度…


「貴女は小学6年生の2月23日に生まれて初めて遊園地に行ったね?名前は…デズニーパーク」


「えっ!?」

 私は慌てて昔書いていた日記を確認する。


『2月23日、晴れ。

今日は、お兄ちゃんとお父さん、お母さんと一緒に初めてデズニーパークに行ってきました。

初めての遊園地だったので、とってもワクワクしました。』


 この人は…本物だ。直感で私はそう思った。もう、占いとかそういう次元じゃない。この人は…全てを知っている。

「教えてあげるよ?真相。」

 この人なら、知っているかもしれない。あの事件の真相を…。私は何で、お兄ちゃんがあんなことをしたのかがわからなかった。だから、この人に聞いたら分かるかもしれない。そして、この人の言うことならきっと…納得すると思う。

 でも、私の中で、知るんじゃない。という警報を鳴らす思いもある。


 でも…それでも私は…


「…2年前に起こった私たち家族の事件の真相を知りたい」

 私はそう言っていた。でも、私の中でやっぱり警報が鳴り響いている。だから、私は遠回りに聞いていく。

「あの事件の…何が知りたいんだい?」

「おにい…兄は、どうして発狂したのですか?」

 私の問いに対して、彼女はこう答えた。

「…いえ、貴女のお兄さんは事件当時、冷静でしたよ」

 私は、お兄ちゃんが冷静なのに事件を起こしたんだ…。そう思うと不思議だった。だから、続けて質問をしていく。

「なぜ兄は両親を殺したのでしょうか」

 それに対して…彼女はこういった。


「いいえ、貴女のお兄さんが殺したのは…たった一人だけです」




 それを聞いて…私は…わたしは…ワタシハ…ワタシハワタシハワタシハ………



 全てを思い出して…泣き叫んだ。


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