その①
この車で「おまたせ!」と言われた時は、何かの冗談かと思った。
車の横には印刷ガッチリ「次郎寿司」、車種はハイエースH50系(いわゆる「配達バン」)。仕出し弁当屋とかがよく使ってるタイプで、ご丁寧に「配達迅速 03-○○-○○○」なんて書いてある。
この番号に電話したらどこにつながるんだろう?
だって彼、寿司屋でもナンでもないし。
「寿司屋マニアなんだよね!」と陽気に説明してきたのだが、うーん、どこから指摘してやれば良いのだろうか…。。。
法的に問題無いのだろうか?いや、恐らくは無いのだろう。たぶん、モラルだけの問題だ。
「自分の車?」私はまず聞く。
「もちろん!」と、元気いっぱいな彼。無邪気に、そして爽やかに。
"もちろん"という言葉は "当たり前でしょ?" "聞くまでもないでしょ?" という意味も含まれていると思うのだが、私は一体この状況のどこが "当たり前" なのかが、全く理解できない。一体、付き合い始めの女の子をこれからどこかに連れてくぜ!って大切な局面で、配達バンでやってくるヤツがいるのだろうか?
配達バンは業務用、デートに行くのは自家用車、このルールを彼は軽々と超越し、配達バンでデートに登場してきたワケだ。
「次郎ってのがシブいだろ?一郎でも三郎でも四郎でも五郎でも無いんだ!」
うーん、どう答えて良いのやら…。。私は可能な限り精一杯の笑顔を見せて、ただただ笑っていた。ああ顔の筋肉って偉大だ…。
走れば車だ。移動出来るのなら、車なら何でもいい。確かにそういう考えもあるのだが、これから海に行こうって時に、配達バンはどうしたものか…。
言ってくれれば、レンタカー代ぐらい出してあげたのに…。
ただ彼は、"これがカッコいい" と頑なに信じた結果、それを見せびらかしたい子供のような気持ちで、私の前に登場したのだと思われる。
風になびく髪、満面の笑み。白いシャツの裾が風になびく。彼は太陽が良く似合う。不思議と日に焼けない彼。白い肌は、青い空を前にするとまるで雲のようだ。
長い指、細い腕、だけど肘から上の二の腕や、胸にはしっかりと引き締まった筋肉がついている。
彼と出会ったのは、川辺で肉を焼く集い(つまりバーベキューだ)の、ワタシの友達の男友達の会社の同僚の友達という、なんとまぁ普通だったら巡り合わなかったハズの遠い位置にいるハズの人と偶然出会ったワケで。
最初から彼は圧倒的に目立ってたワケです。
でもってなんとなく何か話しかけよう!と思い、「川好きなんだよねー」なんて、すごくつまらない発言したら、「オレは海も好きなんだよね!」と言って、そのまま海行こう!なんて話になって。
つまりまぁ、ワタシはまんまの彼の光線(こう呼ばせくれ!)にヤラれてしまったワケなんです。
だって、男前。ワタシは男前に弱い。
ただ、配達バンでやってくるとは…
(続きます!)




