プロローグ: 新大陸
「さむい……さむいよ……」
『寒い……すごく寒い……』
『もう、これ以上は進めそうにないや……』
『お母さん……』
『お父さん……』
『ごめんね、これが私のやるべきことだから……』
『みんなのために……』
あれ以来、一人の見知らぬ男が、非常に謎めいた目的を抱いたまま、山の中で低体温症により命を落とした。しかし、彼の魂は、ある場所、ある目的、あるいは一人の誰かを求めて、広大で果てしない宇宙を旅している……。
『起きて』
頭の中に、若い男の 声が響いた。
声の主は若い、あるいは、少なくとも 彼はそう思った。
地面に突っ伏した彼の顔には、隠しようのない 疲労がにじみ出ている。
彼は重い身体を引きずるようにして 目を覚ました。右腕を額にかざし、眩しそうに 眉をひそめる。
「よくやったな」
先ほどの声だ。そこには、明らかな 嘲笑の響きが混じっていた。
「これからは全部、俺に任せてもらおうか。お前はただ 思考を止めればいい。そうすれば、何も痛まないさ(……そう願うがね)」
頭の中の主が告げた 簡潔な説明を、彼は 瞬き一つせずに受け止めた。
反論も、涙も、不満の言葉も一切ない。ただ、静寂に満ちた 諦念だけが、そこに あった。
「ーーが、あ、あああああああッッ!?」
少年は絶叫した。それは肉体的なものだけではなく、文字通り彼の魂そのものを引き裂くような、凄まじい激痛だった。
苦悶にのたうち回る中、彼の瞳の色は急速に変色し、白銀の髪の先からは、じわりと不吉な黒い斑点が浸食していく。
ーーその瞬間、少年の意識は唐突に、まるで深い夢の底へと突き落とされるように、精神の最深部へと転移していた。
だが、その『夢』の領域の先には、一人の影が立っていた。
姿形は少年と酷似している。しかし、決定的な違いがあった。少年のような神秘的な白髪ではなく、それはまるで普通の人間のような、鈍く濁った漆黒の髪。
ーーいや、待て。あの人間は……数日前に低体温症で孤独に凍死したはずの、彼自身ではないか。
「へえ、まさかこんなにあっさりと受け入れるなんてね。まあいいさ、ここからは僕にすべてを任せて、君はそこの光の隙間から大人しく見てなよ」
黒髪の青年は、不敵な笑みを浮かべて語りかける。
「……一応、人格が入れ替わる前に聞いておくけど、君の名前は?」
少年からの返答はない。ただ静寂だけが返ってくる。
「あ、そっか。喋れないわけね、そりゃ困ったな。それじゃあ……なんて呼ぼうか? あ、そうだ。これからは『ジャック』ーー『ジャック・アダセット』って名乗りなよ。なぜジャック・アダセットかって? 僕らは別の世界の同じ人間だからさ。おっと、もう時間がないや。それじゃあ、僕流のやり方ってやつを、特等席でじっくり拝んでなよ」




