第3話 王の命令
ウリンはすでに走り出していた。
「ウリン!待って!」リナリアが叫んだ。
しかし、その声は届かない。
ウリンは小道を駆け抜け、木々の間を抜けて――村へと戻っていた。孤児院へと戻っていた。
背後で、リナリアは唇を噛む。
アリヤへと視線を向けた。
「ねえ、アリヤ!あなたはマリアをしっかり守って。私はウリンを追うから!」
「お待ちください、姫様。」
顔色を青くしながらも、アリヤはすでに立ち上がっていた。息はまだ荒い。
「そのドレスでは、ウリンを追えません。」
リナリアは自分の長いドレスを見下ろす。確かにその通りだ。
「わかったわ……でも急いで!」
アリヤはうなずく。
三人は近くに停めてある王家の馬車へと急いだ。リナリアが飛び乗り、アリヤとマリアが続く。
「村へ!今すぐ!」
リナリアの号令とともに、馬車は森を抜けて疾走した。
――
小道を駆けていたウリンは、ついに村の入り口へと辿り着いた。
目の前に広がるのは、惨状だった。
狼たちが家々の間を走り回っている。
あちこちで炎が上がり、悲鳴が夜を切り裂く。
村人たちに襲いかかる影――。
「急がないと……!」
その時、赤ん坊を抱いた母親を追う狼の群れが目に入った。
ウリンは地面を蹴り、一気に間合いを詰め――その前へと飛び込む。
狼たちの動きが止まった。
その目が、一斉にウリンへ向く。
「お前たち……手を出すな!」
次の瞬間。
狼たちが口を開き、風の球が一斉に放たれた。
ウリンは剣を振るう。
風の球を切り裂き、そのまま踏み込む。
一匹、また一匹――斬り伏せる。
一匹の狼が血を引きながら逃げ出した。
「どこへ行く!」
追おうとした、その時――
ウリンの視界に、何かが映った。
燃え上がる家の屋根の上。
背に赤い線を持つ白い狼が、こちらを見下ろしている。
他の狼とは比べ物にならない巨体。
その目は、赤く燃えていた。
狼は背を向けると、屋根から屋根へと跳び移り――遠ざかっていく。
「あの方向……まさか……」
孤児院だ。
「おい!待て!俺と戦え!」
叫びも虚しく、狼は振り返らない。
追いかけようとした――その時。
「た……助けて……」
振り返ると、一人の村人がいた。
服は焼け、腕の中にはぐったりとした妻。
「どうすれば……」
ウリンは歯を食いしばる。
その時――
「ウリン!」
声に振り向くと、リナリアたちの馬車が到着していた。
彼女は飛び降り、そのまま駆け寄ってくる。
「孤児院に行って!ここは私たちに任せて!」
「でも――」
「早く!」
ウリンは唇を噛む。
リナリアを見て――
そして、白い狼が去った方向を見る。
「……わかった」
走り出そうとした、その時。
「待ってくれ、ウリン。」
アリヤが近づいてくる。
背から、布に包まれた長い物が外された。
「この剣を使え。」
差し出されたそれを、ウリンは受け取る。
重い。
そして――
じんわりとした温もりが手に伝わった。
「ありがとう。」
それ以上言葉を交わすことなく、ウリンは再び走り出した。
走る途中、布がほどける。
現れた刃には、美しい彫刻――凍りついた星の光のような輝きが刻まれていた。
――
孤児院。
庭では、シスターと子供たちが狼に囲まれていた。
隅で身を寄せ合い、震えている。
一匹の狼が飛びかかった――
その瞬間。
ウリンの剣が、眩く輝いた。
気づけば――
彼はすでに、シスターたちの前に立っていた。
剣が振り抜かれる。
スッ――
狼の首が宙を舞い、地面へと落ちた。
「はぁ……はぁ……」
荒い息。
それでもウリンは剣を握りしめ、前を見据える。
「今度こそ……みんなを守る!」
背後で、シスターが息をのむ。
脳裏に蘇る記憶。
幼いウリンが同じ剣を握っていたあの日。
そして――泣き崩れるマリア。
「それは……あの剣……」
呟きは届かない。
視線は、後退する狼たちへ。
だが――
アアアウウウ……
遠吠えが響く。
狼たちが道を開き、その奥から現れたのは――
背に赤い線を持つ白い狼。
「お前が親玉か?」
ウリンは剣を強く握る。
心臓が激しく鼓動する。
狼が突進してきた。
迎え撃とうとした瞬間――
横から、無数の風の球が飛来する。
ウリンは剣を振るい、次々と弾き落とす。
その隙を突き、白い狼が風の爪を放った。
衝撃。
ウリンの体が吹き飛ばされかける。
「なるほどな……」
痛みの中で、口元を歪める。
「じゃあ――今度は俺の番だ!」
次の瞬間。
ウリンの姿が消えた。
狼たちが周囲を見回す。
――背後。
一閃。
一匹が倒れる。
横から、さらに一匹。
次々と斬り伏せられていく。
白い狼が咆哮した。
巨大な風の渦を生み出し、身を守る。
だが――
気づけば。
ウリンは元の位置に立っていた。
剣を頭上へ掲げる。
金色の光が、刃を包み込む。
「エターナル・ライト……!」
振り下ろす。
光が空気を裂き、一直線に走る――
そして。
白い狼の体を、真っ二つにした。
静寂。
巨体が崩れ落ちる。
「俺は……やった……」
ウリンは微笑む。
体が揺れ――そのまま倒れた。
意識は落ちていく。
それでも口元には、微かな笑み。
――
やがて。
遠くで太陽が昇り始める。
金色の光が、静まり返った村を照らす。
孤児院の庭。
ウリンは地面に倒れていた。
その手には、伝説の剣が――まだしっかりと握られていた。
朝の光が霧を払う——まるで長い夜など存在しなかったかのように。
しかしウリンは知っていた——これは始まりに過ぎないと。
---
数日後、王族の一行は村を後にした。
馬車の窓から、ウリンは手を振る村人たちを見た。群衆の中にマリアと叔父を探す。見つけた。マリアは微笑み、小さく手を振っている。
ウリンは応えなかった。ただうつむいた。
隣には、布に包まれた剣。しかしその存在は、以前よりもずっと重く感じられた。
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さらに二日後。
エスメラルダ王国の謁見の間は静まり返っていた。息遣いだけが聞こえる——そしてウリンの心臓が、胸の中で激しく打つ音だけが。
彼は王の前にひざまずいていた。王の背後には、緊張した表情のリナリアが立っている。
玉座からの王の視線が重くのしかかる。
「ウリン・ソラリウス」
その声は穏やかだったが、部屋中に満ちていた。
「そなたは山狼を討ち、我が娘を守った」
ウリンはさらに深くうつむいた。
「ありがとうございます」
「違う」ウリンは答えた。「それが俺の役目ですから」
沈黙。
「しかし、それだけでその剣を使う資格があると証明されたわけではない」
ウリンは膝の上で拳を握りしめた。
「そなたは遠い昔に失われた英雄の末裔だ。そして、その剣に眠る力目覚めさせられるのは、そなただけだ」王は歩み寄り、その足音が石の床に響く。「だが、そなたの剣技は拙い。経験も乏しい」
王はウリンのすぐ前で立ち止まった。
「運だけに頼り続けるならば——」声のトーンが沈む。「無抵抗のまま死ぬことになるぞ」
ウリンの目が見開かれた。しかし頭は依然として下を向いたまま。
王は振り返り、衛兵の手から剣を受け取った。
「かつて」王はその刃を見つめながら言った。「英雄の末裔の一人もまた、この剣を手にした。経験もなく、力と運だけを頼りにして。そして、自分より賢い敵と戦った時、彼は死んだ」
「そして弟がその後を継いだ」
五百年ごと——前の魔王が倒されてから五百年後——新たな魔王が蘇る。そして今、その目覚めの年が近づいており、五百年前のような厄災が訪れようとしていた。
ウリンは息を飲む。静寂が部屋中に広がった。
「故に」王は再びウリンを見据えた。「ウリン」
「はい!」ウリンは反射的に答えた。
「そなたを航空アカデミーに入学させる。剣術、戦略を学び、経験を積むのだ」
ウリンは沈黙した。
「そしてその剣は、監視役——同時にアカデミーでのそなたの相棒が預かる」
謁見の間の扉が開いた。
タッ。タッ。タッ。
背後から足音が近づく。ウリンが横目で見ると——体が硬直した。
「すでに知っているな」王の声は穏やかだ。「彼は——」
「アリヤ・ラヴェンドール」
沈黙。
ウリンはアリヤを見た。アリヤもウリンを見返す。顔色はまだ青白いが、その目は——いつものように鋭い。
「反対です!」
リナリアが前に進み出た。ドレスが擦れる音。彼女は父の前に立ちはだかり、顔を赤らめていた。
「なぜアリヤがアカデミーに行かなければならないのです?」
「あそこでは剣士と魔導士が完全に分けられているからだ」王は静かに娘を見つめた。「だからお前は彼を監督できない」
「では私が剣術訓練に参加します!」
「お前に剣の才能はない!」
「……」
リナリアは沈黙した。拳を握りしめ、唇を噛む。
「……わかりました、父様」
声はほとんど囁きのようだった。
王は静かにうなずいた。「下がってよい」
ウリンは立ち上がった。足が重い。振り返るとき、彼の視線は、衛兵の手にまだ布に包まれたままの剣に落ちた。
あの剣は——待っている。
---
長い廊下で、ウリンは言った。「アリヤ、あの時のお前か?」
アリヤは振り返らずに立ち止まった。
「ああ。あの時の俺だ」
体を回し、肩を見せた。
ウリンは驚いた。拳を握りしめる。しかしアリヤはただ肩を服で覆い隠し、背を向けて歩き去った。
今度こそ、俺が英雄にふさわしいことを証明する。
ウリンはアリヤの背中を真剣な眼差しで見つめた。
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