第2話 勝利への鍵
静かな夜、満月が空高く輝き、銀色の光で闇夜を照らしていた。
孤児院の中で、ウリンはベッドに横たわっていた。目は閉じているが、体は落ち着かず、何度も右へ左へと寝返りを打つ。――何度も右へ左へと寝返りを打つ。眉は深くひそめられ、激しい不安の表れだ。
夢の中で、ウリンは全力で走っていた。マリアを連れ去る黒い影を追いかけている。
「ウリンくん!助けて!」マリアの恐怖に満ちた叫び声。
影は一瞬だけ振り返り、狡猾な笑みを浮かべると、さらに速くさらに速く駆け去った。ウリンはウリンは立ち止まるしかなく、息を切らした。
「ウリンくん…助けて…私を…」
その声は今度は背後から聞こえた。ウリンが振り返ると、マリアが倒れていた――剣が彼女の体を貫き、傷口から血が流れている。
「ど…して…?どうして来てくれなかったの…?」マリアの声は弱々しく、ほとんど聞こえない。
「ち…違う、僕は…僕は―」
言葉を終える間もなく、何かがウリンの胸を貫いた。
ドキ…ドキ…ドキ…
ウリンは飛び起きた。冷や汗が顔を濡らしている。胸を押さえ、息は荒い。悪夢のイメージがまだ強く焼き付いている。
「はあ…はあ…はあ…」
荒い呼吸だけが、静かな部屋に響いていた。
「アオオオオオ…」
突然、遠くから長い遠吠えが聞こえた。ウリンは窓に向き直る。くっきりと浮かぶ満月がそこに輝いている、まん丸で明るく。
「…!」
ウリンはすぐに立ち上がった。クローゼットから服を取り出し、何枚かの防護服を重ね着すると、部屋の隅に立てかけてあった鉄の剣を手に取る。迷うことなく部屋を出て、長い廊下を伝い玄関へ向かう。
トン…トン…トン…
「ウリンお兄ちゃん…?」
小さな声が足を止めさせた。ウリンが振り返ると、廊下の真ん中で、目がまだ半分閉じている小さな少女が立ち、片目をこすっている。もう一方の手にはクマのぬいぐるみをしっかりと抱えている。
「ハナ?どうしてまだ寝ていないの?」
「ウリンお兄ちゃんこそ、どうして真夜中に剣を持っているの?」
「ああ…これは…」
「行かないで。」
ハナの後ろから別の声がした。シスターが心配そうな表情でそこに立っている。
「行かなくちゃ。」ウリンはきっぱりと言った。
「外はとても危険よ。」
「でも、外にはマリアがいる。彼女が心配なんだ。」
「それはあなたの気のせいよ。」
ハナが目を輝かせてウリンを見つめる。「ウリンお兄ちゃん、どこに行くの?」
ウリンはしゃがみ込み、そっとハナの頭を撫でた。「ちょっと村の周りを見回りに行くだけだよ。」
シスターはため息をついた。「わかったわ、行ってもいいわよ。でも長くはしないで。」
「約束する。」
ウリンは立ち上がり、ドアをくぐって外へ出た。冷たい夜が彼を迎え、突き刺すような月明かりが照らしている。
ウリンは全力で走る。前方には、二人の兵士が守る村の入り口の門が見えてきた。
「誰だ?」一人の兵士が目を細める。
「まさか…ウリンか?」
「こんばんは、ケンタロウおじさん!ヤマグチおじさん!」ウリンは軽く挨拶すると、足を止めずに門を通り抜け、そのまま森の中へ消えていった。
「おい!こんな夜中にどこへ行くんだ!?」
ウリンは答えない。ただ走り続ける。
「こりゃ…俺たち怒られちゃうかもな。」もう一人の兵士がつぶやいた。
木々の葉がざわめく。ウリンは木々、茂み、地面に張り出した根を越えていく。
「アオオオオオ…」
長い遠吠えが耳に届いた。ウリンはすぐに方向を変え、右手は既に剣の柄を握っている。息は荒い。しばらくして、彼は深い森を抜け、一本の小道に出た。
そこには、黒いシャツに白いインナー、蝶ネクタイを締めた男が立っていた。
「大丈夫ですか?」ウリンが尋ねる。
「後ろだ!」男が叫ぶ。
瞬時に、巨大な狼が後ろからウリンに飛びかかった。ドンッ――ウリンは何とか剣を掲げた。彼は倒れ、狼が上に覆いかぶさるが、刃が大きく開かれた顎を食い止めている。
「シャキーン!」
別の剣が狼の腹を刺した。獣は苦痛に吠え、血の跡を残して逃げ去った。
「大丈夫か、ウリン?」男が尋ねる。
「どうして俺の名前を?」
「ウリン!」
この声は…ウリンが振り向く。茂みの陰から、青ざめた顔のマリアが現れた。
「マリア!どうしてここに?」
「実は…私、おじさんと旅をしていたの。そしたら突然、狼たちが現れて襲ってきたの。助けを求めて叫んだら、この人が助けてくれたの。」マリアは途切れ途切れに説明した。
「そうだったのか…本当にありがとうございます。」ウリンは男に頭を下げた。
「おい、感謝するのはまだ早いぞ。」
ウウウウ…
森の中から狼の群れが現れた。口を大きく開け、涎が地面を濡らしている。
「こんなにたくさん…」ウリンは息を呑む。
「あいつらはA級モンスター――西方の山狼だ。なぜこんな所にいるんだ。」男が真剣な口調で言う。
狼たちが襲いかかってきた。
ウリンは剣を振るい、向かってくるものを次々と斬り裂く。しかし、一頭の狼が大きく口を開けた。その周囲の空気が渦巻き、小さな空気の球を形成する。
「ガアアッ!」
その攻撃はウリン目がけて速射された。彼は驚き、動けずにいた。
「危ない!」
男がウリンを突き飛ばし、倒れた。空気の攻撃が彼の腹を直撃した。
「ぐはっ!」男は腹を押さえてうずくまる。
「おい!大丈夫か?」ウリンはすぐに彼を助け起こす。
「俺は…大丈夫だ。前を向け。」彼は息も絶え絶えに言った。
ウリンは唇を噛んだ。汗が顔を濡らす。狼の数はさらに増えていた。一頭、また一頭と歩み寄り始める。
突然…
ブオオオ…
激しい風が吹き荒れた。前列の狼たちの脚が凍り始め、氷の層に閉じ込められる。数頭がパニックになり、空気の球で氷を壊そうとする。
「冷気の息吹!」
次の瞬間、狼たちは一斉に凍りついた。それと同時に、近づく足音が聞こえてくる。
ウリンは剣をしっかりと握りしめた。
「ウリンくん!」
「え?」
足音はさらに速くなり、小さな体が飛びついてウリンを強く抱きしめた。
「ウリンくん!すごく会いたかったよ!」
「あ…あの?どなたですか?」
「もう~、ウリンったら!私だよ、私!」少女は少し離れて、口をとがらせた。
「あっ!リナリア王女様!」ウリンは目を見開いた。
リナリアは首を左に傾げ、可愛らしい笑顔を浮かべた。
「リナリアって呼んでね!」
「で、でも…なぜこちらに?」
「パパに言われて来たんだよ!」
「そ、そうですか。」
「王女様、お邪魔したくはありませんが――」
ドスッ!
小さな拳が男の腹にめり込んだ。
リナリアは、その男の腹を拳でぽかっと叩いた。
「あなたは黙ってて!」彼女はリスのように頬を膨らませて、ぷりぷりしている。
男はただ小さくうめき、先ほどの空気の攻撃を受けたばかりの腹を押さえ続けている。その様子にウリンは思わず笑いそうになったが―
「アオオオオオ…」
遠くから遠吠えが響き渡る。深く、長く、そして違う。先ほどの狼たちとは比べ物にならないほど、ずっと大きく。
周囲の空気が変わった。
半分凍っていた狼たちがもがき始める。まだ自由な数頭は耳を立て、そして―合図もなく―向きを変えて走り去った。ウリンたちを残し、声のした方へと逃げていく。
静寂。
「…逃げたの?」マリアが信じられない様子でささやく。
ウリンは答えない。狼たちが消えていった方を見つめている。遠く、木々の向こうに、ぼんやりとオレンジ色の光が見えた。炎の光だ。
村からの火。
ウリンの心臓が激しく打つ。夢の中で影に追われていた時よりも、ずっと速く。マリアが死にかけているのを見た時よりも、ずっと速く。
「…僕の村。」
その声はほとんど聞こえなかった。
「ウリン?」リナリアが彼を見つめ、笑顔が消えた。
「ハナ…シスター…みんな…」
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