エピソード1 完全なる月
冷たい石の床に血が広がっていた。
ウリンはそこに倒れていた。引き裂かれた胸から赤い血が流れ、暗いキャンバスに咲く花のように床をゆっくりと染めていく。息は切れ切れで、視界は霞み始めている。それでも彼の目は、目の前の影に釘付けになっていた。
一人の男が、影の中に立っている。
その手に握られた剣、まだ血が滴り落ちていた。
「……答えろ」
ウリンは〜
「アリヤ……」
男は沈黙したままだった。
一歩。そして、また一歩。
靴音がゆっくりと近づき、ついに血にまみれたウリンの顔のすぐ前で止まった。
剣がゆっくりと掲げられる。
「……あの人たちの信頼を……」ウリンはかすかに笑った。苦く、そして今にも砕け散りそうな笑い声だった。「守るって……言ったんじゃなかったのか?」
答えはない。
ただ静寂だけが残された。
そして、剣が振り下ろされた。
ウリンは目を閉じ、目を閉じた。
数年前、遠く離れた村で。
金髪の青年がベッドに横たわっていた。
ドアが開いた。
二人の男の子と一人の女の子が部屋に入ってきた。彼らはまだぐっすり眠っている男のベッドに近づいていく。
「ウリン兄ちゃん、起きて!もう朝だよ!」と女の子が言った。
しかし返事はない。女の子はウリンの体をゆさゆさと揺すった。
「もう、起こすときはこうするんだよ」と一人の男の子が言い、閉まっていたカーテンを開けた。太陽の光が差し込み、ウリンは布団をかぶって身を隠した。
すると、もう一人の男の子がお尻を布団の中に突っ込んだ。
ブッ
おならの臭いが布団の中にこもり、ウリンはその臭いを吸い込んで飛び起きた。
「ゲホッ!ゲホッ!くっさ!」ウリンは目の前に立つ二人の男の子を睨みつけた。
「起きた!」「逃げろ!」
二人の男の子は部屋から飛び出し、ドアを閉めた。外から子供たちの声が聞こえてくる。
「また寝たら責任持たないからな!」
「シスター、ウリン兄ちゃん起きたよ!」
「あいつら……またか」とウリン。
「ウリン兄ちゃん、朝ごはん食べに行こう!パンがなくなっちゃうよ!」と女の子。
「わっ、やばい!そうだな、行こう!」
ウリンはすぐにベッドから飛び降り、外へ歩き出した。
「おい、このいたずら小僧ども!この前のことは……!」
朝日が小さな村を照らしていた。
村はずれの小さな広場で、ウリンは下着一枚で剣の稽古に励んでいた。
「ヒャッ!」
彼の剣が古い木の幹を叩く。
汗が額から滴り落ちるが、呼吸は安定している。
「ふぅ……」
剣を肩に担ぎ、青空を見上げる。
この村は小さい。
平和な場所だ。
魔物さえ、めったに現れない。
「今日も平和だな……」
「どこが平和なの?」
突然、背後から声がした。
「うおっ——?!」
ウリンが下着をまくって汗を拭こうとした。
振り向いた瞬間——
「きゃあっ!」
少女の悲鳴。
次の瞬間、拳が彼の腹にめり込んだ。
ドスッ!
「ぐはっ——!」
ウリンの体は後方に吹き飛び、木の幹に激突した。
茂みの陰から子供たちの笑い声が爆発する。
「ははは!ウリン兄ちゃんまた負けた!」
「ゴリラ・マリアにやられた!」
「誰がゴリラだって?!」
少女が怒って叫んだ。
マリアだ。
茶色い髪を揺らし、腰に手を当てて立っている。
「いきなり女の人の前で肌を見せないでよ!」
「せめて後ろにいるって教えてくれればいいだろ……」
ウリンは腹をさすりながら起き上がる。
子供たちはまだ笑っている。
マリアはただため息をついた。
「もう…子供の頃から全然変わらないんだから」
「お前だってな?」
ウリンは微笑んだ。
マリアもつられて微笑む。
こんな日々。
ウリンはいつも願っている――ずっと、このままでありますように。
ウリンとマリアは並んで、村の家々と木々の間を歩いていた。
しばらくして、ウリンが尋ねた。
「そういえば、なんで俺を探してたんだ?」
マリアは少しためらった。
「んー…ちょっと挨拶しに来ただけ」
「挨拶?」
「うん。おじさんと隣の村に行くの。注文された荷物を届けに行かなくちゃいけなくて」
「そうか…じゃあ俺も行こうか?」
マリアは首を振った。
「いいよ、ウリン。私もう十六だよ。子供じゃないんだから。それに、ちょっと行くだけだから」
ウリンの足が止まった。
孤児院の前に着いていた。
マリアは手を振りながら歩き去る。
「また明日ね!」
気がつけば、時間は過ぎていた。
ウリンが孤児院に戻った時には、もう日が暮れかけていた。
村中に油灯の明かりが灯り始める。子供たちはもう寝静まり、静かな夜が訪れていた。
ウリンは建物の前の木の階段に腰かけた。
夜風が優しく吹く。
「マリア、隣の村に行ったのか……」
夜空を見上げる。
なぜだか、胸の奥が少しざわつく。
何かが起こるような――そんな予感。
「ああ…気のせいか」
立ち上がり、中に入ろうとした。
その時、遠くの方で――
村へ続く道の向こうに、ゆっくりと動く松明の明かりが見えた。
一台の馬車が、闇の中を進んでいた。
馬車の中には、長い白い髪の少女が座っている。
彼女は窓の外を見つめていた。
「もうすぐ?」
冷たい声で尋ねる。
御者台から、黒い髪の男が答えた。
「はい、リナリア姫。あと数キロで、あの村です」
少女はかすかに微笑んだ。
「いいわ」
彼女は小さく呟いた。
「ようやく…また彼に会える」
馬車は夜を突き進む。
ウリンの住む小さな村へ向かって。
村の誰も知らない――
彼らの日常が、もうすぐ変わり始めることを。
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