月と狐
私は孤独だった。自分の体のことで学校ではいじめられて、家でも両親に気を使って毎日毎日疲れた。ある日どうせ私の居場所なんてないんだ、今日ぐらいいいだろうと、その日は学校に行かなかった。と言っても私の家の近くはショッピングモールとかがあるわけでも無くて、暇が潰せるところなんてなかったから、なんとなく、家の近くにある神社に行ったんだ。そう、その日初めて私は1人の狐のお面を被った少年と出会った。
「ねぇ、あんた」
「私?」
「あんた以外に誰がいるの」
「そっか、そうだよね」
「変なの、てかあんたなんでこんなところにいんの」
「ん、なんか色々とめんどくさくてさ、というか私ちゃんと名前あるから。結衣って名前、神無月 結衣」
「結衣、ねぇ……。まぁどうだっていいけど」
「どうだっていいって何よ」
その子は背丈が私よりもちょっとだけ高くて、多分、同い年なんだと思う。あの後、何度か名前を聞いたことがあった、答えてはくれなかったけど。なんでも「聞いたらこちら側に来てしまうから」だそう。変なの。やっぱり学校サボることなんて滅多にできないし案の定家に帰ったらお母さんにも怒られてしまったけど。それでも気休めにはなったしあの子と話すのは楽しかった。その日から私は学校帰りにほぼ毎日、あの神社に通った。あの子とも時が経つにつれて話す事は増えってった。
「ねぇ、明日この辺でお祭りやるんだけど一緒に行かない?」
「お祭り?」
「うん、夏祭り。今年は行けそうでさ」
「悪いけど俺は行かないから」
「じゃ、なんか買ってからこっちくるよ」
「は?なんで、そのまま帰ればいいじゃん」
「だって一人で行ったってどうしようもないし、どうせなら食べ物だけでもって思って。美味しいらしいよ、あのお祭りのりんご飴と焼きそば」
「言いきろよそこは」
「だって子供の時行ったくらいでその後行けたことないし」
「別にそこは否定してないじゃん」
「絶対持ってくるね」
「期待せずに待っとく」
「うん、またここで待ち合わせね」
思い返せば私はこの神社で会って話すのがどうしようもなく幸せだった。嗚呼、いつまで、いつまで私はこの子と、この人と話していることができるのだろうか。
ある日から高校生ぐらいの女子が神社に遊びに来るようになった。かつての自分と同じ、どこを見てるんだか、何を考えてるんだかわからない目をした少女。俺はよくわからない未練があったんだかでこの神社に留まっている。要は死人だ。だから自分から接しに行ってはいけないのだ。死んだ人間が今生きている人間と関わってはいけない。それなのに気づいたら声をかけてしまっていた。彼女は結衣という名前のようだった。自分の名前を名乗ったらこちら側に彼女を引き込んでしまうから実際に呼ぶ機会は無かったけれど。ちなみに彼女はすごく不服そうだった。その日から彼女はここに通うようになった。毎日1人だったもんだから俺も来てくれるのを楽しみに待つようになってしまっていたのだ。
「ねぇ、明日この辺でお祭りやるんだけど一緒に行かない?」
「お祭り?」
「うん、夏祭り。今年は行けそうでさ」
「悪いけど俺は行かないから」
本当は行きたかった。それでも、俺はこの神社から、鳥居の外に出られない。これ程に自分がまだ生きていればと思うことは無かった。
けどそれも束の間で
「じゃ、なんか買ってからこっちくるよ」
「は?なんで、そのまま帰ればいいじゃん」
「だって一人で行ったってどうしようもないし、どうせなら食べ物だけでもって思って。美味しいらしいよ、あのお祭りのりんご飴と焼きそば」
「言いきろよそこは」
「だって子供の時行ったくらいでその後行けたことないし」
「別にそこは否定してないじゃん」
「絶対持ってくるね」
「期待せずに待っとく」
「うん、またここで待ち合わせね」
ずっと孤独を持て余していた日々を、その「また」で全てを彼女が塗り替えていくのだ。そうか、自分は死んだ身だと言うのに大層贅沢な感情を抱くのか。
けど、その日から彼女は、神無月 結衣は。
ここに、来なくなった。
いつかその日がくることは頭では分かっていたと思っていた。けど、それでも脳が拒むのだ。彼女は必ず来ると。
嗚呼、いらない期待を抱くようになってしまったな。
俺はこの神社から出られない。この鳥居の中には神社と墓地があった。あの日彼女が来なくてもいつか来るだろうとあてにならない確信を持って待っていた。それでも、何日、何週間、何ヶ月待っても彼女がここにくることはなかった。もう、諦めかけたそんな日、暇で墓地を回っていた。
「まぁ〜た墓地巡りしてるの?バチ当たるよ?」
あの声がする。優しくて愛しくて、密かに声をかけるのを楽しみにしてた声。思わず気持ちが舞い上がって振り返ったそこに彼女は結局いなかった。代わりにその時見つけたんだ。
見つけて、しまったんだ。
『神無月 結衣』
「あんたの名前ってどうかくの」
「なんで急に」
「なんと無く」
「たまによくわかんないよね君って」
笑って鞄に入っていたノートの出して書いてみせてきた漢字と、全く同じ漢字を。
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
嘘だと、思いたかった。でも確信してしまった。
「この髪飾り?あー……、おばあちゃんの形見なの。大切なおばあちゃんの」
あの髪飾りが、祖母の形見だと大事そうに触っていた髪飾りがポリ袋に入ってそこにあったから。
私はもともと体が弱かった。昔から、もともと長くないって言われていて、クラスでも「ゾンビみたい」って「気持ち悪い」って言われることが多かった。でも、あの人はそんな私を見ても何も言わない。前に聞いたことがある
「ねぇ、私の顔見てなんか思ったりしないの」
「何、褒めないよ」
「そうじゃなくて、私昔から肌の色とかで気持ち悪いって言われること多いから」
「……。別に、あんたはあんたじゃん」
あの人はなんとも思ってないんだろう。でも私にはその一言が、そのたった一言が本当に嬉しかった。まだ生きていたいと思った。ただあのお祭りの日、急に容体が急変した。
ああ、やだなぁ…、わたし、やくそく、まもれてないのに。
たとえ死んでしまったとしても、私はあの人との約束を守りに、たとえ守れなくても、必ず会いに行くんだ。
彼女が死んだと分かったあの日。またつまらない日々が続いた。なんだ昔に、あいつに会う前に、戻っただけだろ。
ああ、つまらない、寂しい、さびしい
あいたい
「まぁ〜た墓地巡りしてんの?バチ当たるよ?」
「は」
幻聴かと思った。現実を突きつけられたあの日から
何度も望んだその姿
何度も望んだその声
あまりにも都合が良かったから
でも、見間違える訳がなかった
そこには、自分と同じ狐のお面を着けた彼女がいたのだ
「おま、死んだんじゃ」
「あれ、知ってたの?まぁ、でも約束守れなかったの謝りたくて。それに
会いたかったから」
嗚呼、本当に夢みたいだ
「俺もだよ」
もう一度君に会えてよかった
ねぇ、君に、結衣に話したいことが
言いたいことが沢山出来たんだ
狐は無い月の手を取る
この作品はpixivに投稿した小説を少し直したものです。




