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5.強くなりたいと

「ご主人っ!」


 一気に囲まれ、前方の敵をぶっ放した瞬間、後ろにいたご主人がもたれかかってきた。危ないとは知りつつ、反転し確認すれば、腕に裂傷を負ったご主人が、腕を抑えていた。


「大丈夫か?」


「何とか。俺は邪魔にならないようにいるから」


「了解。さっさと倒してくる」

 

 端的に後は頼んだ、と伝えてくるご主人は、剣を仕舞い、避けるに特化したようだ。腕を抑える手から、血が滴っている。

 ――あれは、結構深い。

 見ただけで素人では、治療は不可能だということが察せた。


「ちっ」


 思わず舌打ちを漏らす。一瞬の油断がこれだ。

 前方をにらめつける。

 こんな餓鬼でしかも女のツラでにらめつけても怖くはないとは思うが、ようは気合だ。それで相手が後ずさってくれれば、儲けモノなんだから。

 実際賢明な何人かが、血にまみれた私の金髪と顔を見比べみるみるうちに青くなっていた。

私の異名に気づいたらしい。死神、とつぶやいて、後ろへ下がっていった。

 思わずにやりと笑えば、さらに青ざめて下がっていく奴が数名。

 いい子だ。

 この業界では、そう言う勘の良さで生き残りが決まるんだからな?

 死んで特攻なんてやる奴は、アマチュアか、余程の変態だ。


「来いよ。死神が纏めて相手してやる」


 さらに数名逃げたな。

 余計な血は流したくないんだ。剣の手入れが面倒だから。

 さっさとどっかへ。

 どっかへ行ってしまえ!

 

「どうした? 死後の世界に導いてやるよ」


 内心とは裏腹の声。

 挑戦的な笑みを浮かべ、手招きさえしてみせる。

 私の名を知らないならば、キレて向かってくるのが大半だろうが。

 ――さぁ、逃げろよ。

 私の手に掛かって死にたくなければ。

 お前らは変態じゃないだろ? 賢明なプロだろ? だったら速く……。


「へへへ、お前が死神かぁ。依頼主には犬のような忠誠心を持つというねぇ」


 人生思惑通りにはいかないように仕組まれているらしい。

 輪が崩れたと思ったら、にまにまと気色悪い笑みを浮かべた頭らしき男が


「……チッ」

 

 居たよ、変態が。

 たまに居るんだ、私を倒して名を手っ取り早く上げようという馬鹿が。んなもんしなくとも、生きてれば、何らかの仕事が入るはずなのに。……死に急ぐ、変態が。

 まれに、私より強い奴が来て、まぁ、ご主人を引きずってとっとと逃げるときはあるが、見る限り、こいつはその範囲に位置していない。ようするに、ただの変態だ。


「ビジネスだ。持ってて何が悪い?」


「いいやぁー、それなら依頼主を殺したらぁ、俺についてくれるかなぁーとぉ」


 ……余程死にたいらしい。

 男の部下らしい奴らが四方八方から向かい掛かってくる。

 あの変態を除いて、計九人。

 どうにかなる範囲だ。

 

「ご主人、伏せて」


「ん」


 文字通り、ペタンと伏せたご主人の上を敵の剣が飛ぶ。

 前方四人、後方五人。

 前四人を叩き斬る。

 抵抗など無く、真っ赤な血しぶきが降りかかる。

 それにかまう暇など無く、後ろから来た剣を篭手で弾く。

 中々重い。

 空中に飛ぶと、奴らに致死性の毒を仕込んだ針を叩き込む。

 一瞬で動かなくなった奴らを一瞥し、頭と見えるあの変態を眺める。


「で?」


 ものの数秒で消えてしまった命。

 それを前に、変態のあの厭らしい笑みは消えていた。否、固まっていた。


「死神の領域に触れて、何がしたかったんだ?」


 倒れた部下を下に何を思うか。

 血を払いながら見ていれば。


「は、ははは。はははははっ」


「……壊れたか」


 珍しくも無い光景だ。

 力の差を見せ付けられ、頭がおかしくなっただけ。

 ――それでも変態根性は直らなかったらしい。


「死ねよ!」


 何の策もなく突っ込んできた。

 ご主人に。


「あ」


 呆然としたご主人の顔。

 それが鮮明に見えて、焦燥が走る。

 重い得物を投げ捨て、手を伸ばす。

 ――届け!


「こ、壊れてやがる」


「お前が言うか」


 熱い痛みが手に走る。

 手に短刀が突き刺さっていた。

 痛みを無視して、ぐっと握る。力の差か、短刀は変態の手から、すぐに外れた。無造作に引き抜く。焼き鏝を突きつけられたような痛み。

 それでも、言っておかなくては。


「ご主人に手をだしてみろ。――楽には死なせないからな」


 どんな顔をしていたのかは分からない。

 でも、逃げ出しかけていた男たちの顔は恐怖に染まり、転がるようにして逃げていった。

 残された変態といえば、みっともなく尻餅をついてあとずさっている。


「た、助け、て……」


「貴様は阿呆か? 楽には逝かせんと言った筈だ」


 懐の針を取り出し、男の耳元で囁く。

 淡々と。

 ただ淡々と事実を脳内に刷り込む。


「これは拷問用の薬が塗ってある。どんどん自分の感覚が無くなっていく薬だ。生きたまま、自分が廃人になっていく感覚ってなんなんだろうな」


「ひぃ……」


「解毒剤なんて、私は持ってないぞ? 打ったらそこでお終いだ。私は拷問屋じゃないからな」


 鬱蒼と笑う私を男はどのように見たのだろう?

 口から泡を吹いて気絶してしまった。


「えげつないなー」


 振り向けば、ご主人が苦笑気味に笑っていた。


「ご主人に手を出す奴が悪い」


 一言ですますと、コートに閉まってあった医療道具を取り出す。

 その中から、針を取り出す。火であぶり消毒を済ますと、ご主人の傷口にアルコールを掛けた。


「っぅ!」


「すぐに済ませるから」


 丁寧に傷口を縫い合わせる。これ位なら、跡はあまり残らないだろう、


「お前」


「ん?」


「自分の手の傷は?」


「ご主人のを縫った後にやる」


「お前の方が重症だろ……」


 呆れたように言うが、しょうがない。あれ位なら、あまり大したことじゃない。痛いことには痛いが。


「無茶はするなよ」


「それこそ無茶だ」


「それでもだ」


 死んだら、俺はどーするよ。と無茶苦茶な事を言うご主人。

 空いてる右手でわしゃわしゃと、私の頭を撫でる。

 気が散るから止めてくれ、といいたいのに、何故か言葉が出なかった。


「ミシェル。お前が死んだら、元も子もないんだからな」


「ご主人が死んだら、それこそ元も子もない」


「でもなー、お前が死んだら、俺一人なんだけど」


「そんな勝手なこと言うな」


 こんな滅茶苦茶な事を言う主人なんて初めてだ。

 ため息を吐きたくなる衝動を無理矢理押さえ、手を進める。

 ――それでも。

 人のために、強くなりたい、と思ったのは、この人が初めてだ。

 

 もう少し。

 その力が欲しい。

 そうすれば今回のようにご主人を傷つけないで済むかもしれないから。


 生きるための手段を失わないためにか、このご主人のためかは私には分らない。

 判別しようとも思わない。

 どちらにせよ、ツールは変わらないのだから。


 けれども、こんな風に思わせたのはこのご主人であることは間違いはないだろう。




またずれたのかもしれないです。反省。

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