1.君を守る為の刃
1.君を守る為の刃
一刃、二刃。
少女の身の丈程ある剣が半円を描く。
目の前に居た男が血を吹きゆっくりと倒れていった。
それを確認することも無く、また振り下ろす。
敵を視認すると、少女の瞳が獰猛な獣のごとく光った。
無造作に振るわれたそれは、取り囲んでいた敵の一角を一掃してしまった。
「ちっ」
年頃の女に似つかわしくない舌打ちが少女から漏れた。
ちらりと後ろを見れば彼女の主人らしき人が、すでに懐の刀を抜いていた。
「冗談じゃない」
それこそ似つかわしくない凄みだ。
顔を盛大に顰める。
剣を一振りし、べったりと張り付いた血を振り払う。
細腕には似合わない大剣を恐るべき筋肉で支え、まっすぐと構える。
「掛かってこいよ? 私は面倒なのが嫌いなんだ」
自分の体重の半分程あるだろうに、震えもしない。
唇には不敵な笑み。
幾つもの死線を潜り抜けてきただろうと推測せざる終えない。
血に濡れて、妖しい艶を帯びた少女。その佇まいは死神を錯覚させる。持っている獲物が大鎌でないのは、少々残念ではあるが。
「どうした? 小娘相手に怖くて動けないわけじゃないだろう」
にやにやとした彼女のささやかな嫌味に彼らは。
一瞬で乗り。
「……他愛も無い」
一瞬で露と消えた。
軽蔑と呆れた視線を、物言わぬ彼らに向け、愛用の得物に戻すと、血を一振りして鞘に戻した。血なまぐさいのは我慢しなくては。
くるりと後ろを振り向けば、頬に血をつけた青年が一人。
構えた刀には少々血が付いていた。
「ご主人、無事か?」
「俺はご覧の通り。お前は?」
「血で汚れた位」
べったりと血に濡れた自らを指差す。
金髪の短い髪までが真っ赤に染まっていて、原色が分からないくらいだ。
少女の姿を一瞥し、青年は申し訳なさそうに顔を歪めた。
「ごめんな……。ここんとこ、お前を巻き込んでばかりだ」
「何を今更」
ぐさっと来たらしい。
青年はうっ、とした顔をして、押し黙った。
勇ましい少女剣士は、その様子を楽しげに見ると、当然のように断言した。
「私はご主人の剣だ。その位当たり前さ」