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 クラバルトに何故か騒ぎをおこさないようにと注意を受けつつ講堂に移動する。

なかに入るとクラスごとに分かれて座るようだ。

 リッテのためだけに学園に来ていたクラバルトとは、ここでお別れだ。

好きな場所を選んでいいようだったので適当な椅子に座ると、しばらくして生徒も全員集まり入学式が始まった。

 ラナメリットは同じクラスだったらしく、リッテの斜め前に座っている。

 その姿を眺めながらやはり飛び抜けて可愛いなと思いつつ壇上からのスピーチを聞き流していると、ふと、あれれと思った。

 ここは中等部でリッテは十三歳だけれど、何故ラナメリットと知り合ったのかと。

 ゲームは高等部入学式からなのに。

 うーんと思わず唸ってしまう。


(よく考えたらいるよね、中等部)


 貴族ならば全員、中等部から入学は当たり前だ。

 ゲームの世界には間違いないと思うけれど、明らかにおかしい。

 クラバルトのいるコミカライズも舞台は確か高等部だったと記憶している。

 ゲームは設定がガバガバだったからこの世界も影響を受けているのだろうかと思うけれど、いやいやまさかと首を振る。

 そんなことをつらつら考えていると入学式はいつのまにか終了時刻になっており、退場することになった。

 席を立ちあがったらラナメリットが振り返り、パチッと目が合う。

 にっこりと微笑まれて。


「かっわい」


リッテは思わず口走っていた。

そして考えてもわからないことは面倒くさいからほっとこうと決めた。

真知子は仕事以外では引きこもりになるような緩い人間なのだ。

教室に戻り色々と学園の説明を受けたら今日はもう終わりだ。

帰れるぞーとウキウキ気分で廊下に出ると、何故かルーヴィッヒがいた。


「待っていたよリッテ嬢」

「何かありましたっけ?」


 待たれる理由がまったく思いつかない。

 美しい顔を直視しづらく若干目を細めるリッテに、ルーヴィッヒは呆れたような眼差しを向けてきた。

 そんな顔もご褒美ですと思ってしまう。


「生徒会に入れろと言ったのは君だろう。生徒会室に案内するために来たんだ」

「あう、そういえば⋯⋯」


 リッテはノブレスオブリージュの精神で高位貴族たるもの人の上に立って働かねばとかたくなに信じていた。

 能力が追い付かなくて断られても、融通のきかない真面目さでゴリ押ししたことが記憶に残っている。

 ハッキリ言って迷惑以外のなんでもないだろとツッコミたい。


「なんか、すみません。働きたくて⋯⋯」


 語尾をごにょごにょとごまかしながらも、一応役に立ちたい気持ちだったのだとは口にしておく。

 ルーヴィッヒは特に何かを感じさせるような表情もせず、肩をすくめただけだった。


「もう決まったことだからね。行こう」

「はい」


 決まっちゃったことは仕方ないと諦めることにした。

 ここでやっぱりやめるとか言う方がどうかしていると思われるだろう。

 それは嫌だ。

 もと社会人としてちょっと選べない選択だ。

 歩き出したルーヴィッヒについていくけれど、キラキラと眩い姿に鼻血拭きそうで困るなと思い、リッテは少しずつ距離をあけて足を進める。


「何で離れてるんだい」


 とうとうルーヴィッヒに声をかけられる頃には廊下の端っこをこそこそと歩いていた。

 広いところを歩くときには、つい端に行ってしまう小心者なのだ。


「ええと、殿下が麗しすぎて」


 引きこもりは対人スキルが皆無なのだ。

 それに小学校からぼっちを極め、仕事も事務で人と関わらずお昼もロッカールームで電子書籍片手のぼっち飯だった。

 正直、業務報告以外で人と喋ることはなかったのだ。

 不満がなかったので仕方ない。

 それに加えて最推しである。

 挙動不審にならないようにと気を付けていれば、自然と距離が開いてしまった。

 なんだか微妙な表情を浮かべるルーヴィッヒにへらりと緩くごまかしな笑みを浮かべると、ますます訝し気にされてしまう。

 タイミングよく生徒会室に到着したらしく内心、ふひーと額の汗を拭う気持ちだった。

「ここだよ」と扉を開けたルーヴィッヒに続く。

 室内には一番奥に大きな執務机があり、そこにルグビウスが座っていた。

 そして他にも男子生徒が二人。

 しかし生徒が使う部屋なのに広々とした空間に驚いた。

 ルグビウス以外が座っている机もそれなりに立派で大きいし、応接用のソファーもある。

 これ学校の備品だよねと確認したくなる程度には、どれも高級家具に見えた。

 とりあえずここがゲームの主な舞台となる生徒会室だと、リッテは内心テンションが上がりっぱなしだ。


「アケリム、サイール、彼女がリッテ・シュバルハ令嬢だ」


 呼ばれて顔をこちらに向けた二人に見覚えはあった。

 まだ顔つきは知っているものより幼いけれど、攻略対象の二人だ。


「ああ、彼女が。どうも、副会長のアケリム・ロードダズだ」

「⋯⋯書記のサイール・レイズド」


 アケリムは侯爵家で宰相の息子だ。

 茶色い髪に銀縁眼鏡の理知的な顔立ちだった。

 真知子は眼鏡属性はないので、あまり興味がなかったなと思い出す。

 苦々しそうな顔のサイールは伯爵家だ。

 濃紺の髪に黒目の彼はルグビウスの騎士を目指しているのだけれど、硬派な性格で女と距離を置いているから、意外と攻略は難しかった記憶がある。

 今睨まれているのはリッテだからなのか女だからなのか判別はつかなかった。


「俺が会長のルグビウス・ハムストラムだ」

「それで私が会計だね」


 第二王子なのに、何故かルーヴィッヒが副会長ではない。

 ゲームのときも何故だろうと思っていたけれど、なんか色々あるんだろうと流すことにした。

 緩い性格なものだから、大体のことは流すのだ。


「リッテ・シュバルハです。微力ながら頑張らせていただきますので、よろしくお願いします」


 無理やり入ったんだしと、しっかり挨拶をする。

 予想外だったのか、ルーヴィッヒ以外の三人がポカンとあっけにとられた表情を浮かべている。

 ルーヴィッヒはやはり微妙な表情だ。


(元社会人なんだから挨拶はバッチリよ)


 ドヤ顔で胸を張ろうとして、今は侯爵令嬢だと慌てて我にかえりやめておいた。

 ここでそんな態度は悪い印象を与えかねない。


「とりあえず、そちらの机を使って書類の整理を手伝ってくれ」


 ルーヴィッヒに示された机に目をやると、頷いてからいそいそとリッテは書類整理を始めた。

 パソコンないから結構手間がかかるなと思いながらササッと目を通し分類し始める。

 全員が信じられないような顔をしているけれど、元事務員として仕事をしていたのだから本職だ。

 それくらいは出来る。

 ついでにいえば以前のリッテは要領が悪くから回っていて結果を出せないタイプだったけれど、今のリッテは努力型の人間で要領がいいわけではないが、頑張り方次第で結果を出してきたタイプだ。

 そこそこスペックは違うと思われる。

 警戒した眼差しを向けていた全員が、一応大丈夫そうかと思ったらしい。

 各々が机で仕事を片付け始めた。


「こら、ルーヴィッヒ」


 ルグビウスのたしなめるような声にリッテが顔を上げると、ルーヴィッヒが包み紙を外して口に小さなチョコレートを入れるところだった。

 なんでいきなりチョコレートを?と思っていると。


「さてはまた食事を抜いたな」

「本を読むのに忙しくて」

「まったく、食事はちゃんとしろ」


 なにこのやりとり。

 リッテは理性を総動員して無表情を装った。

 内心は嵐の海のように荒れ狂っている。


(甘党なんて設定なかったよね!しかも双子の仲良し加減!ゲームにこんなのなかったけど最高だわ!)


 鼻息が荒くならないように意識しながらもじっと二人を見てしまう。

 きみキラの中身はひたすらヒロインがほのぼのと過ごす内容で攻略対象者同士の絡みはほぼなかった。

 双子の仲だっていいも悪いもなかったけれど、この様子だと仲は結構いいのだろう。

 なにそれ眼福と思いながら変な声を出さないように、しっかりとお腹に力を入れる。


「何を見てるんだい」

「いいええ!」


 ルーヴィッヒに胡乱な眼差しを向けられて、あからさまに視線をそらした。

 声が裏返ったのは気づかれなかったと思いたい。

 チラリと横目で見れば不審人物を見る目を向けられている。

 危ない。


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