40話 支配の女神
(ここは何処だ?)
僕は深い海の中にいた。
(俺は死んだのか?)
僕はどんどん海の底に向かってゆっくりと沈んで行った。
(もういいか、このまま沈もう…)
僕はもう這い上がる力は無かった。
「お兄ちゃん!起きて、兄ちゃん!!)
何処かで聞いた懐かしい声がする…。
「さな!!」
僕は思い出した。先の声は僕の妹のさなだ。僕は勢いよく起き上がった。
「お兄ちゃん」
僕の妹のさなは僕を起こした。
「ああ、さな。ごめんごめん。うとうとしてて」
僕は妹のさなにそう返した。大きな駅の外のコンコースと呼ばれる駅を使う人達が通る大きな通路の端っこに僕達はいる。僕は先まで見ていた夢を忘れた。大切な事だった気がする。だが考えるのを止めた。これが現実だからだ。
僕とさなはホームレスだ。父と母が交通事故で亡くなり、父は事業の為に色んな所から莫大な金を借りていた為、僕は危機感を感じ荷物と家にあった金を持ち、妹と共に遠くに逃げた。現在八歳の僕と六歳の妹は路頭に迷いここで段ボールを敷き靴磨きをしている。逃げる時に持ってきた物の中に靴磨きセットがあった為、僕は百均ショップで椅子を買って駅の外で靴磨きをして金を稼いでいた。
僕は今日も客引きをし靴磨きをしてお金を貰った。
「今日もこれだけか…」
僕は今日稼いだお金を見て溜め息をついた。
「家に帰ろうか」
「うん」
僕と妹は無けなしの金で安いスーパーで野菜を買い。少し歩いた場所にある河川敷へ向かった。
「着いた」
「お兄ちゃんお疲れ様」
僕と妹は河川敷にある段ボールで作った自分達の家に帰って来た。ちょうど大きな橋の下にあるので雨を凌げる良い場所だ。
「よし、ご飯作るぞ」
僕はまな板で野菜を切り、カセットコンロに火を付けフライパンで野菜を炒めた。そして家にある焼きそばを取り出し、フライパンに入れて炒めた。
「よし、完成だ」
焼きそばの完成だ。僕は二つの皿に焼きそばを盛った。一つの皿には大盛りでもう一つの皿には小盛りの焼きそばを載せた。
「ほら、さな。食べよう」
僕は焼きそばを大盛りに載せた皿を妹のさなに渡した。
「じゃあ、頂きますしようか」
近くの公園で汲んだ水道水を入れた水筒をコップに注いだ。そしてさなに渡した。
「お兄ちゃんの焼きそば少ないよ、ちゃんと半分こしよ」
さなは僕にそう言った。
「ああいいんだよ。兄ちゃん、余りお腹空いてないし」
僕は咄嗟に嘘を言った。
「我慢してない?」
さなは心配そうに僕に聞いた。
「我慢してないさ。それより早く食べよ、折角の温かい焼きそばが冷めちまう」
「そうだね」
「「頂きます」」
僕とさなはご飯を食べ始めた。ご飯はあっという間に無くなり寝る時間になった。僕達は寝支度をし、段ボールの家に入った。二人で一つの毛布に包まり、暖め合った。
「さな…」
「何?お兄ちゃん」
「この生活苦しいだろ?父さんと母さんが居ないから寂しいか?」
「うん。苦しいけどお兄ちゃんがいるから寂しく無いよ」
「そうか…」
僕は何も言えなかった。
「さな。兄ちゃんが何とかするから希望を捨てるなよ」
「うん」
でも僕は言葉を振り絞りそう言った。
「俺が何とかする。何とかこの貧乏生活から抜け出していつでも好きな物を好きなだけ食べられるようにするからさなは安心していいからな。この生活を抜け出せれたら父さんと母さんの墓参りして俺とさなで幸せに暮らそうな」
「うん。お兄ちゃん信じてる」
さなはそう言い僕を抱きしめた。
「ごめんな、兄ちゃん馬鹿だからさなにこんな生活させて…、ごめんな」
「いいよ、お兄ちゃんは頑張ってるから謝る必要無いよ」
「うううううううううっ…」
さなは僕を抱きしめた。さなも涙を流した。
僕はお客様に小言言われ傷ついてもめげずに毎日靴磨きをしてお金を貰った。
「お兄ちゃん…」
「何?さな」
「私もお兄ちゃんみたいに靴磨きしてみたい。私だけいつも見てばかり、私、お兄ちゃんが靴を磨くところずっと見ていたからやり方覚えているから大丈夫」
「そうか…。分かった。さな、ありがとう」
僕はさなの頭を撫でた。そうだな。もし俺が居なくなったらさなが困るもんな。さなにも仕事のやり方を教えないとな。僕はそんな事を思った。
僕は次のお客様の靴磨きをさなにやらせた。さなにとってはこれが初めての仕事。僕はさなを見守った。一人目のお客様はさなの仕事振りに感心してくれて多めにお金をくれた。さなは喜び僕に見せた。僕も嬉しかった。僕だけ休む訳にはいかないので百均ショップで椅子と靴磨き道具を購入し二人態勢で靴磨きを始めた。僕とさなは朝から晩まで一生懸命働いた。二人で働いた為収入は上がった。それでも生活は苦しかった。
ある日。
「おいコラ、ガキ!!」
僕が一生懸命お客さんの靴を磨いている時、罵声が聞こえた。さなのお客さんがさなに怒鳴っていたのだ。
「どうしました?お客様」
僕は急いでさなに駆け寄りお客様に聞いた。
「このガキ、靴磨くの下手くそなんだよ」
男性のお客様はそう僕に言った。
「申し訳ありません。お代は結構ですのであちらのお客様が終わり次第、私がお客様の靴を磨かせて頂きますのでどうか許しては頂けないでしょうか?」
僕は丁寧に提案した。
「ああ?こっちは忙しんだよ。そんな時間無いの!分かる??」
男性は僕とさなに怒鳴って色々言ってきたが僕はずっと謝った。さなは震えていた。
「お代は要らないんだな?」
「ええ、大丈夫です」
「そのガキちゃんと教育しとけや。まあ、教育してくれる親は居ないから無理だろうがな」
「おい。メスガキ、謝れよ」
「ごめんなさい」
さなは震えた声で謝った。男性は椅子を蹴り飛ばしさなはびくびくした。
(さなが何したっていうんだ)
僕は怒りが込み上げて拳を強く握るがぐっと堪えた。お客様はその場から去った。
「さな、大丈夫か?今日はもう家に帰ろ」
さなは静かに涙を流し、震えていた。僕はさなを抱きしめ慰めた。さなも落ち着き荷物を持って家に帰った。食事を終え寝支度を終え二人で毛布に包まって寝た。
「………」
さなはまだ震えていた。
「明日からはさなは靴磨きしなくていい、さなはここまでよく頑張った。さなは兄ちゃんが靴を磨いてる所を見守っててくれ。それだけで兄ちゃんの力が湧くから」
僕はさなを抱きしめそう言った。
「うん」
さなは頷いた。その日も僕とさなはくっついて寝た。
僕は次の日からも一生懸命靴磨きをした。僕とさなは無事に夏を超え、秋を超え、冬になった。僕とさなはゴミ捨て場に捨てられていた暖かいアウターやマフラー、手袋、ニット帽を冬を超す為に予め手に入れて段ボールの家に仕舞っていたのでそれを秋になると身に付けて靴磨きをした。
十二月の終わり頃、さなは熱を出した。僕はさなを病院に連れて行こうとしたがさなにお金が無いから行かなくていいと言われたので近くのドラッグストアで風邪薬を買って来て風邪薬を飲ませた。僕は寝床の近くで火を起こし栄養のある食事を作ってさなに食べさせ水分補給をしっかりさせた。僕は何日間も看病するがさなの体調が良くなる事は無かった。
一月のある日の朝。 僕は朝目が覚めて、さなを起そうと身体を揺らすがさなは目を開けなかった。さなの身体は凍りつきとても冷たかった。僕は無けなしの金を持ってさなを負んぶして近くの病院まで運んだ。僕は病院の先生に助けを求めた。病院で手を尽くして貰ったがさなは目を覚ます事は無かった。
僕は看護師さんに言われた。例えお金が無くても治療は出来たと…。無理してホームレスせずに国からお金を貰えばさなは不自由の無い生活が出来た筈だと。僕が其れ等を知っていればさなは死なずに済んだ筈だった。全部俺の所為じゃないか…。
さなは病院の霊安室に安置された。僕はその場所に行き、さなの手を握った。その手はとても冷たくさなの死を感じた。
「ごめんな、さな。全部俺の所為だ…。俺がさなと夜逃げなんかするからこうなった。俺がしっかりしていればこうはならなかった」
僕がさなを看病している時、さなが僕に言った言葉を思い出した。「お兄ちゃん…、ありがとう…」さなは熱で苦しい筈なのにか細い声でそう言ってくれた。
「何でさなが死ななきゃいけないんだ!!死んでも良いのは俺だろ!!」
僕の声は霊安室に鳴り響いた。
「金さえあれば…。金さえあれば!!!」
僕は地面に膝を落とし項垂れ、両拳を地に叩きつけた。
(金さえあれば…)
僕は悔やむに悔やみきれない思いだった。
僕は再び深い海の中にいた。
(もう疲れた。何も考えたくない)
僕は海の底に近いのか視界が真っ暗だった。
(やっと死ねる。もう辛いのは嫌だ、殺してくれ)
僕がそう思っていると声が聞こえた。
「父さん、起きて!父さん!!」
「………」
僕は目を覚ました。どうやら僕は走馬灯を見ていたようだ。僕は何も言わず、空を眺めていた。
「僕、本当は分かっていたんだ父さんは家族を想えるとても優しい人だって。父さんありがとう、僕と真正面から打つかってくれて」
「さよなら…、父さん」
ハルは僕の手を握るのを止めた。そして何処かへ行こうとした。
「!」
「行かせない!」
僕はハルの足を掴んだ。
「父さん、離してくれ。僕には行かなきゃいけない所があるんだ」
ハルはそう言うが僕は離さなかった。
「ハル、お前は人類の創造主だからって罪を償う必要は無い。皆、人類の創造主を憎んでいる。お前、あの世界に行くと甚振られるぞ」
「分かっているよ、父さん」
ハルは悟った目を僕に向けた。
「ハル、行くな。俺の傍に居ろ。頼む…」
僕は涙を流しながら頼んだ。僕の手は震えていた、息子をあの地獄に行かせる訳にはいかないから。
「分かったよ、父さん。父さんの傍に居るよ」
ハルはそう言い、地面に座り再び僕の手を握った。
「ありがとう、ハル」
「父さん…」
僕は上半身を起こし、ハルに抱擁した。ハルも僕を抱きしめ返した。
「すまんな、ハル」
「父さん…?」
僕はハルに眠りの魔法を掛けた。僕はハルを抱きかかえ、王都にあるホテルに行き、置いてきた。
僕は王都の街中を歩いていた。
「お父さん!!」
僕の娘のメアリが僕を呼んだ。
「お父さん、これから何するつもり?」
「ハルが行こうとした世界に行こうとしている」
「観光じゃ無いよね?」
「ああ、観光じゃ無いな」
僕は答えた。
「俺はハルを甚振ろうとする奴らを皆殺しにする」
「お父さんには家族が居るんだよ。お父さんが罪を犯せば家族も被害を受けるんだよ」
「ああ、分かっている。だが奴らを放っておく訳にはいかない」
「ハルは今はまだ甚振られていないじゃない!!」
メアリは僕にそう訴える。
「ここで何時まで話しても平行線だ。俺を止めたきゃ俺を殺せ」
「!」
僕がそう言うと火の刃が三本飛んで来た。僕は近くを歩いていた女性の手首を引っ張り引き寄せ火の刃を女性で防御した。それをメアリは信じられない様子を見せた。
「!」
僕は火の刃で息絶えた女性をメアリに向かって押し出した。そして僕は黒い大剣を作り出し大剣で女性の身体を貫きメアリにも貫こうとした。
「………」
メアリはバリアを展開し防御した。
「おお、先の攻撃を防御するとは…。関心関心」
僕はメアリを褒めた。
「止めて、お父さん」
メアリはそう言うと空間が歪んだ。そして元の状態に戻った。僕に大剣で貫かれ死んだ女性は普通に歩いていた。僕はメアリに起こるかもしれない未来を見せた。
「お父さんが罪を犯そうとするなら私がお父さんを殺す」
メアリは僕を睨んだ。
「そうかそうか、俺を殺すか。果たして本当に出来るのか?」
「ぐっ!!」
僕は身体のバランスを崩し、地に片足突いた。
「効いたようね」
メアリは冷たい目でそう告げた。
「くっ」
僕は見えない小さな何かを掴んだ。掴んだ物は姿を現した。妖精だ。この妖精が僕に向けて毒の粉を振りまいていたようだ。
「妖精…」
「いたっ」
僕はぐっと強く握る。小さな妖精は僕が強く握った所為で痛みを感じ声を上げた。
「メアリ、助けて」
「お父さん、止めて!」
妖精はメアリに助けを求める。メアリは僕に向けて手を向ける。
「お前、妖精と手を組んでいたのか」
「うん、そうだよ」
「糞がっ」
僕はメアリの言葉を聞いてそう吐き捨てた。
「お父さん、妖精を離してあげて」
「駄目だ。お前、妖精の本性は分かっているのか?」
「本性?妖精は皆、良い人達だよ。妖精は世界の調和を目指していて私、それを知ってとても感銘を受けたの」
メアリは答えた。
(ああ、此奴はもう駄目だ)
僕は呆れた。
「今から妖精の本性見せてやる」
ボキッ!
「あああああっ!痛い!!」
僕は妖精の腕を折った。
「助けて、メアリ」
「止めてお父さん!!」
「いや、止めない」
「次は羽を毟ろう」
「本性を見せろ」
ブチチチチチ!!
「いだい!!」
僕は小さな女の妖精の羽を毟り取った。
「止めて…。妖精の本性は善良なの。だから止めて」
メアリは懇願する。
「ん?何だ?」
僕の目は霞む。
「これか」
僕は別の妖精を掴んだ。その妖精は男だった。
グシャッ!
僕はその男の妖精を虫を殺すように握り潰した。握り潰した手を離すと男の妖精の亡骸は地面に落ちた。
「メアリ、お前には伝えたい事がある」
「昔、俺がこの世に受肉した時に育ててた息子が居たんだが、俺の息子は妖精に連れ去られた」
「俺は息子がいる場所を見つけ、息子の亡骸を見つけた。息子はそこで何をされたと思う?メアリ」
「……。分からない」
メアリは首を振った。
「俺の息子は妖精に甚振られていた」
「嘘よ!」
メアリは叫んだ。信じられなかったから。
「息子の無残な死体を見たら何をされたか分かった。まず息子は両足の踵に大きな針を刺され、爪は全部剥がされ、それから…」
「もういいよ!!」
メアリは僕の紡ぐ言葉を遮った。
「フフフ、とても面白い話をするじゃない、今でも妖精達の間で語り継がれているわ。あの私達の最大の敵の息子を甚振ったって。貴方の息子を甚振った時、私も見ていたんだけどとても心地の良い苦痛の叫びが響いていたわ」
「何を…言っているの?」
妖精はべらべらと話した。それを聞いたメアリは信じられない様子だった。
「もう分かったろ。これが妖精の本性だ」
「メアリ、よく聞いとけ。妖精の最後の断末魔を」
僕はそう言い、焼き鳥を食べるかのように妖精を軽く噛んだ。
「アンタ達の一族は私達、妖精族が必ず全員殺す。私はもう死ぬから悲鳴を聞けなくて残念だわ。お前等全員、地獄に落ちろ!!!」
妖精は叫んだ。
「地獄に落ちるのはお前等だ」
ブチッ!!
僕は妖精を歯で噛み切った。そして地面に吐き捨てた。
パチパチパチ。
「とても素晴らしい物見せて貰いました」
人型の男の妖精は拍手した。
「誰だ?お前」
「私の名はバルカ。妖精女王の子供です」
「貴方が殺した彼女は私の古くからの仲なのでとても残念ですがまあ、仕方ありませんね」
人型の妖精バルカはそう言う。
「お前は仇を取るのか?」
「ええ、まあ」
「そうか、じゃあ戦おうか。場所移動するぞ、ついて来い」
僕とバルカは王都の外の荒野に移動した。
「どうせあの鎧を使うんだろ。早く姿を変えろ」
「くくっ」
バルカは少し笑った。
「暗黒超常」
空気中にある無数の膨大な魔力がバルカを中心に集まる。バルカの身体は少し浮かび、魔力はバルカに向かって流れ包み込み、深い緑の渦の球体となった。そして球体は割れ地面に破片が落ちた。バルカの宙に浮いていた足は地面に着いた。
バルカの姿は変わり、深い緑色の鎧を身に纏い、深い緑色の見たことの無い古代の文字が刻まれた首輪を身に付けた姿となった。鎧の下には黒いコンプレッションウェアを着ていて、臍が見えるような鎧とインナーを身に付けていた。頂点二つが上にくる正六角形の形の胸の鎧の部分にVの文字が浮かび上がった。鎧の胸の部分の形は平べったいのでは無く、膨らんでいて前に正六角形の形が出っ張っている形であった。
バルカの両眼の角膜の色は深い緑に変わり、瞳孔は黒く鋭く尖った。バルカの目の光りは失われ冷たい目となった。手は指先から手首まで禍々しい深い黒色の化け物の手になり、指先の爪はどんな物でも斬り裂く鋭利な爪になった。足は化け物みたいな禍々しい深い黒色の三本鉤爪のみで足の爪の部分に二本、踵に一本の鉤爪だった。人の頭を鷲掴みし、粉砕する事の出来るような大きな爪であった。バルカの足の三本鉤爪の先から黒いオーラが煙のように流れ揺らめいていた。バルカはその場に佇んた。
「どうだ?アンタの息子から奪い取った鎧を見た感想は」
「………」
「何だ、黙りか」
バルカは僕の反応を見て呆れていた。
「ならアンタにやる気出して貰えるよう、良い事を教えてやろう」
「アンタの最愛の妹さなを寒さで死ぬようにしたのはこの俺だ」
「あ……」
「やっと良い目をするようになったじゃないか!」
バルカは笑った。
「まあ、お前達の両親を死なせたのもお前達が貧乏生活をするように仕向けたのも全て俺がやった」
「笑えるよな」
「あはははははははははははははっ」
僕の家族の記憶がフラッシュバックする。俺は此奴に全て奪われたんだ。
「ぶっ殺してやる!!」
大風が僕を中心に流れ包み込み、風の渦となった。そして球体状の風の渦はは消え、僕の姿を見せた。
「暗黒大禍・第二形態」
頂点二つが上にくる正六角形の形の胸の鎧の部分に黒色の二本の縦の平行線が浮かび上がり、白い蜘蛛の巣が僕の鎧の中央と両肩に張り付いた。僕の両眼の角膜の色は赤に変わり、瞳孔は黒く鋭く尖った。
僕の目の光りは失われ冷たい目となった。そして両眼の下に黒い刻印が浮かび上がった。その刻印は目の下一センチ空けて、眉毛と平行な直線で鼻の近くから耳の耳介付近に向かって伸びている。そして直線の真ん中から耳垂に向かってて一直線に黒い刻印が伸びている。まるで耳に向かってYの文字の上の部分が横に倒れているかのような刻印だった。
口の中の下顎の両方の第一大臼歯は発達し、硬い物を簡単に貫くかのような上に突き上げた黒い大顎となった。黒い大顎は僕の目の辺りに向かって突き上げた形となり大顎は角張った形をしていた。
両手は真っ白の陶器のような色の天翼族の大翼となり、両足は化け物みたいな禍々しい深い黒色の三本鉤爪のみで足の爪の部分に二本、踵に一本の鉤爪となった。人の頭を鷲掴みし、粉砕する事の出来るような大きな爪であった。僕の足の三本鉤爪の先から黒いオーラが煙のように流れ上に揺らめいていた。
球体状の風の渦が消え、中が露わになった時、僕は蹲んだ状態でいて片膝を地に突き、両翼を自分の横の地面に着けていた。そして僕はその場で咆哮した。
「やっとその姿を見せたか…、天翼の支配者。支配の女神に愛されし者」
バルカは僕の姿を見てそう呟いた。
「大嵐の渦」
「!」
僕はバルカに向かってここままの蹲んだ状態で口から横並びの三つの回転する風の渦を生み出し放った。途んでもない威力のトルネードが地面をごっそりと削り取った。
「くそがッ」
トルネードが消えバルカの姿が露わになった。バルカはバリアを張っていたのだろうバリアの破片が落ちていた。バルカは両膝を突き血を吐いていた。
「超自然回復」
バルカがそう唱えると回復魔法が発動しバルカの傷を癒やし体力、魔力も回復した。
「先の攻撃で死んだかと思ったよ。はは…」
バルカは立上がった。
「殺してやる」
僕は風魔法で自分自身を包み込み宙に浮いた。そしてバルカに向かって物凄いスピードで低空飛行した。
「死ね」
ドオン!!
僕は大翼をバルカに打つけた。だがバルカはバリアを展開し防いだ。大翼とバリアが打つかり鈍い音がする。
「くっ」
バルカは僕の攻撃の威力に押され、後ろに十数メートル移動した。余りの威力にバリアに罅が入る。
「ふんっ!」
バルカは後ろに押されながら身体を何とかずらし僕の翼攻撃を払い除けた。僕はそのまま真っ直ぐに進み上へと上昇し翼を動かし宙で滞空した。僕の大翼は僕の身体よりも大きく、誰が見ても神聖な姿だった。
「見せてやる」
「火祀火術:火景火羅万象・火刃」
バルカは掌を合わせ唱えた。するとバルカの周りに禍々しい無数の深い赤色の火の刃が現われた。火の刃は燃えていた。
「死ねよ!!」
バルカは無数に生み出した火の刃を僕に向かって放った。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッ!!!
火の刃は飛んできた。僕は風を切りながら空を飛び無数の火の刃を躱した。
「がああっ!!」
だが数本の火の刃が僕の翼に刺さっていた。全てを避ける事は出来なかった。僕は余りの痛みに悲鳴を上げた。
「これはどうだ」
僕の周りを全方位囲むように禍々しい無数の深い赤色の火の刃をバルカは生み出した。
「死ねええッ!!」
バルカは勝ちを確信した。
「プロテクト」
僕は大翼をクロスさせ防御の姿勢を取り、風の渦を自分を中心に生み出した。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギンッ!!!
火の刃と風の渦が打つかり合い、金切り音が響き渡る。
「………」
「ふふ」
僕を包み込んでいた風の渦は無くなり僕の身体には無数の火の刃が刺さっていた。バルカはそれを見て少し笑う。僕は空中から地にゆっくりと降りた。
バリンッ!!
僕は自分の周りに風を生み出し、自分の身体に刺さった火の刃を消し去った。
「地上で戦う気か?」
「………」
僕がバルカに歩いて充分に近づくとバルカは僕にそう聞いた。バルカは二つの盾を空間魔法で取り出した。
「ブレード」
僕の大翼は刃のように硬くなった。
バリンッ!!バリンッ!!バリンッ!!バリンッ!!
僕は大翼の刃をバルカに打つける。バルカは盾で防御する。
バリンッ!!バリンッ!!
僕は攻撃を止めない。僕の攻撃の威力にバルカの盾は弾かれ、手から離れ隙が生まれる。
「終わりだ。死ね!」
ズサンン!!
僕は大翼の刃をバルカに上から下へ振り下ろす。
「うぐっ!」
バルカの鎧は砕かれ、身体から血が噴き出す。
バルカは地面に倒れ、死んだ。
「あーあ。死んじゃったね」
空から声が聞こえた。天翼族の女が地に降り立った。
「やあ、お父さん。久しぶりだね」
「ミネルヴァ。何故、お前がここに?」
「妖精女王にバルカを助けるように頼まれちゃってさあ、ここに来たんだけどもう死んじゃってるね」
バルカを見てそう答えた。
「どういう事だ!お前が妖精女王と…」
僕は動揺していた。
「これから大きな時代が来る為、私達、天翼族は妖精族と手を結びました」
僕はそれを聞いて信じられなかった。
「今から数年後、自分達の願いの為に血で血を洗う戦いが始まるの。勿論、お父さんも参加するよね」
「さあ、鳴動大戦を始めよう!!」
ミネルヴァは声高らかに宣言した。




