ミズーリ州コロンビア親善大使との会見が促した次期天子としての心構え
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
山東省青島市嶗山区。
我が中華王朝でも屈指の経済大省の南東部に位置するこの市轄区は道教の聖地である事は勿論じゃが、黄海から捕れる新鮮な魚介類を用いた海鮮料理でも国内外に広く知られておる。
しかし街中を散策すれば、そうした紋切り型の観光ガイドではあまり触れられていない魅力にも気付けるであろうな。
「ほう、これはこれは…フローズンカスタードにバターケーキ、それにチョコレートサンデーか。西洋菓子の店が意外な程に並んでおるのう。しかも大半がアメリカ式なのじゃから。」
事前の下調べで知識として理解したつもりじゃったが、現地で直接見聞きするのとではやはり大違い。
こうして国内の様子を己が肌と目で知覚するのも此度の公務の重要な役割であるし、中華王朝の次期天子である妾にとっては将来の糧となるのであろうな。
「仰る通りで御座います、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下。この青島市嶗山区はアメリカのミズーリ州コロンビアと姉妹都市提携を結んでおります故、アメリカ式の菓子店も多う御座いますね。」
「うむ。然りじゃな、紀志喬。」
側近として同行させた太傅に頷きながら、妾は此度の公務の主目的であった昨日の式典に思いを馳せたのじゃ。
雲一つない晴天の空の下で執り行われた、姉妹都市提携の周年式典。
そのクライマックスを飾るのは、公務で訪れた妾とホスト役でもある嶗山区の区長、そしてコロンビアより来訪された親善大使のコロン女史による記念植樹じゃった。
ミズーリ州の州花であるアメリカハナズオウの苗木を前に広報用の記念写真を撮影した後は、国内外のニュースに使用する短い対談映像の撮影が執り行われたのじゃ。
「我が中華王朝の次期天子であらせられる愛新覚羅麗蘭第一王女殿下に、親善大使のコロン女史。御二人を御招きする事が出来て誠に恐悦至極に御座います。」
今にも最敬礼をしかねない、鯱張った有り様じゃった。
そんな緊張感を隠せぬ嶗山区長とは対照的に、コロン女史は至って泰然自若とした御様子じゃったよ。
「この度は御招き頂きありがとう御座います。今はまだか細い苗木であるアメリカハナズオウも、やがてはこの地に根付いて大樹となるでしょう。その時には是非とも、また嶗山区に御招き頂けたら幸いです。」
アップスタイルに結い上げられた緑色の御髪と同様、コロン女史は容姿も所作も実に上品で優雅であった。
妾の母君である愛新覚羅芳蘭女王陛下もそれは気品に満ちた貴人であるが、コロン女史も母君に勝るとも劣らぬ優雅さじゃ。
妾も女王への即位までには、二人に負けぬ品格を身に付けた貴婦人に成長しなくては。
そう改めて実感させられた次第じゃよ。
「此の度は謁見の機会を下さりまして誠に光栄で御座います、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下。山東省青島市嶗山区とミズーリ州コロンビアとが、そして中華王朝とアメリカ合衆国とが永遠の友情を育んでいく事を願って止みません。」
「それは私も同じ思いで御座います、コロン女史。この愛新覚羅麗蘭、あのアメリカハナズオウと共に女史の再訪を心よりお待ち申し上げておりまする。」
こうしてニュース映像用にセッティングされた短い対談は、至って円満に締め括られたのじゃ。
分刻みの多忙なスケジュールを抱えるコロン女史は昨日のうちに国際便で発ち、妾もまた嶗山区の視察を行う必要があった。
故に晩餐会はおろか茶会さえ出来なかったのは、些か心残りじゃな。
「のう、紀志喬。この地で営まれているコロンビア風の洋菓子店で日持ちのする菓子を注文してみてはいかがじゃろう?北京の紫禁城に妾達が帰城する折に届くよう、配送日程を調整してな。」
「成る程…コロン女史との茶会の代わりという形で御座いますか。それは良い考えで御座いますね、殿下。」
そうして他の侍従に指示を出す太傅を横目に、妾は嶗山区の街並みに目をやったのじゃ。
何時の日かコロン女史が再訪された時に胸を張って案内出来るよう、この青島市嶗山区の良さを引き出したい物じゃ。
そして妾自身もまた、立派な貴婦人へと大成せねばならぬのう。
いずれにせよ、此度のコロン女史との会見は妾の次期天子としての自己認識と決意を新たにする良い機会となった訳じゃよ。