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襲撃。

 パシェは一日の疲れをいやすために夢をみた。ホロス・トゥループはパシェの英雄資格復活を狙ってしつこく接触してきている。ぼんやりとした意識はいずれ大自然の原風景に向けられた。やがて夢の中に入っていくと、あたりは一面の霧に包まれた。精霊の残滓、アエーアに満たされている。


 花園にの中心で丸くあいたギャップとよばれる花のないくぼみの中で、ある少年が、パシェはそれをすgにニネアだときづいたが、ニネアと思しき額に目のある少年が、彼は囲まれて踊ることを拒んでいた。しかし拒むと、周囲の子供たちは両手をつないで輪を縮める。そして彼の耳元で何かをささやく。そんなことがくりかえされ、空が開けては暮れ、同じ日が何日も続くとついに彼は耐えられなくなった。

「うあああ!」

 均等に咲いた花びらの用に、囲んでいた子供たちが倒れる。叫んで周囲の人間たちをふきとばした。二つの手でできるようなことではなかった。

「いじめた」

「うそをついた」

「できるといったのに」

「どうして皆と一緒に仕事をしないの」

 ある喪服のように真っ黒な黒いキルトドレスの女性が近づいていくと子供たちは彼女にだきついた。そして子供たちは全員似た顔の色をしていた。

「いわれた通りにしたよ、先生」

「彼が次のニネアになるんだ、僕らは処分されるけど」

「次のニネアだ」

 そう発した次の瞬間、全ての目がパシェのほうにむけられ、彼ら一人一人の額に第三の目が開いた。


 気が付けば、暗黒の中にたっていた。脳の中に声がひびいた。

「本当のペテンは人類か?魔王か」

「誰?」

 呼びかけても返事はない。瓦礫となった古代都市の中に一人だっていて、動けば動くほどスポットライトがおってくる。スポットライトが照らした世界しか自分は見る事ができない。

「自分が知っていると思うために力を使った覚えは?お前が逃れられないペテンをおしえてやろう、お前に力があると人に思わせるすべてのことは、人間以外には通じない」

「私が何をしているって?」

「お前は英雄の力を取り戻す事を望んでいる、人々は作られたものをすべて規格化し、解釈しやすいものばかり好む」

「私はしらない!」

「さっきの映像をみただろう、あれは二代目のニネアだ!」

「ニネアのクローンだ」

「お前たち英雄は魔術師でありながら魔術は存在しないと口にする、都合のいいレトリックだ、問題のないところに問題をつくり自分たちが神だと主張した後に信仰したものばかりを救った場合は?」

「賢者のこと?」

「さあ?未熟なものを全能だと思わせることほど簡単な支配はない」

 漆黒が烏の姿で目の前に現れた、光と暗がりの境界線、公衆電話の天井にのっている。

「望む世界のために、事実を捻じ曲げようとする意志こそがプネウマだ、お前は望まないか?もしすべての出来事が自分の解釈した通りであったとしたら、もし自分の信仰こそが、知識より多くの意味と支配する力をもったとしたら、自分の偏見こそが、他者の認識よりも優位に立つのだとしたら、自分が知らない事を知ったふりができる、全ては支配欲だ」

 次第に明かりは広がっていく。

「そうした運命と予定の“消費”その奴隷が、我々だ、態度の順応は、能力全てを現す指標ではないにもかかわらず、能力の順応が予想よりも多くの意味を持つと思ってしまう。そのために“主従契約”の魔術は強い。

魔王のスティグマ、英雄のスティグマ」

 やがて明かりは町全体を覆った。間違いない、滅びた都市、イケイ人がかつて住んでいた北東の島にあった計画都市、アルカポリスだ。まるで亡霊のように透き通った人影が、0と1の情報を刻まれ、都市を散策し始めた。

「法則の掌握によって他者を支配する欲求そのものこそが、最優先順位なのにもかかわらず、まるでていのいい大義名分をつけている偽善者、人の心に欠陥をつくったとき、人は安心するのだ、名前や地位、力さえあれば、自分の失敗を人の責任にできる、すなわち、人を思い通りにできるということさ、まさに魔王の支配だ」



 早朝、ダーハミール長老は、弟子たちに生活と修行に使う用水をバケツにませて、体をきよめていた。側について世話をしている側近のライルン・ダリオッテは兎のような耳を曲げてその様子をじっとみていた。彼女はヤガムの幼馴染で、ここ最近、ヤガムの失踪のあとから気が気ではなかった。さびしげな長いまつげと、穏やかで面長、面倒見の良さそうな顔立ちをしている。

「退屈じゃろう……おまえたち、少し席をはずしてくれ」

 小僧たちが去ると、ライルンと長老は、カーテンのような布の中で二人きりになった。長老の古びた樹木のような体をみて、ライルンは死を連想した。

「“復興の土地”の歴史はしっているか?」

「新領主のほとんどがそこで誕生しました、それはむろん、自動領主に置き換えられていきましたが、今でも尊敬を集めている、英雄が力を持ち始める前、人々は完全に諦め、魔王に統治されていた、魔王統治時代は100年前からはじまった、もともと代理統治の代わりにニネアへの信仰、ニネア教を普及させたものに、“英雄王”が土地の保護を許して、入植者が魔王の土地を開拓していった、それが一時領主だった、もちろんそこに住む人々を救済しながら、人々の役にたった、ここダーハミールもその名残です、保護区となってはいますが」

 長老は関心したように鼻を鳴らす。

「あるきっかけがおこるまでアセランもお前のように勉強熱心だった」

「きかっけ?」

 長老が水行をするのを手伝い、桶を頭にかかげる。

「あるきっかけとは、私の弟子同士の権力闘争、彼には仲のいい兄弟子がいたのだ、私は寛容なふりをしてほとんど無関心だった、それがいけなかった、ある時兄は、先代賢者の“賢者錠”を盗んだ、それを弟になすりつけた、私たち長老派はアセランがそんなことをしないとしっていた」

「あなたは何もしなかったの?」

「したさ、だがほとんどなにもしないのも同然だ、ダーハミールは建前上自然派で古来の伝統を守っているが、科学世界の発展の道理には勝てない、そしてそれらは人々に無意識に“適応しないものへの悪意”をうえつける、偏見は人を偏見通りに動くように仕向けてしまう、正しいとされる物語が秩序だったモラルをうしなっても、人々はモラルを信じたのだ」

「聞いたことがあります、アセランさんはここを出る前酷く迫害されたのだと、本当は魔術の力があったのに無能とののしられたと」

「力など、そういった性質のものだ、魔晶核につくられた“エンブレム”は肩書を示すが、それ以上のものは示さない、例え詐欺でも、力を発揮する」

 悲しそうな顏をした長老の意図を組んだ。

「私がヤガムを心配していると?」

「彼に関わっているのはほぼ間違いないだろう、小僧に調査をさせたのだ、アセランはかわってしまった、本物の英雄錠を盗むとは……あれは広場にあるものだ、偽装の可能性もすてきれぬ、何しろ噂は多いからな」

「英雄ダイドの……英雄錠」

「秘密にしておいたほうがいいこともある」

「なんのことです?10年前の?」

「パシェは、裏切りによってのろわれたのだ、私と神父の裏切りだ、しかしそれは……良い裏切りだった、我々は記憶を英雄錠に封じた、パシェにとって大事な、父の最後の言葉を」

 

 仕事を終えたパシェは、ある禁則地へ向かっていた。それは10年前に封鎖された25番クレーター。結界によって閉じられた領域。ナナルはパシェの姿をみて、すぐに呼び止めたが、パシェはずかずかと奥へむかった。ただごとではないと察して、ナナルはパシェをとめた。

「パシェさん!」

「……」

「パシェさん!やめてください、私も一緒に戦います、繭へいきましょう、繭のほうへ、本物の英雄錠の場所へ!」

「あなた……ホロストゥループはしっていたの?封鎖された場所、10年前噴き出した魔流穴の上に“どす黒い繭”が生まれたことを……」

「ええ、でも、あなたの判断は突然すぎます、いきなりあそこに行く前に私たちを頼ってください」

「いやだ」

「え?」

 パシェの手首をにぎるナナルの手は思ったよりも力強かった。それでもパシェは、涙をためながら訴えた。

「もう、嘘をついたままはいやだ、彼女が思い通りにならないのは」

「話を聞かせてください」

 公園のベンチに座ると、パシェはおずおずと2週前のことを話しはじめた。

「気が付くとあなたがたっていた、そして妹を助けてくれたね」

「ええ、あの日は貴族のパーティがあって、ハイナさんが魔物に襲われて……」

「そう、魔物は、結界の網目をくぐって街にあらわれる、不思議な事じゃない」

 ぐっとこぶしを握る。

「私はあの日予期していた、きっとよくない事がおきるって、それでも何もできなかったの、英雄はヒールスキルも持っているはずなのに」

「私はあの時あなたに手を差し伸べた、私じゃなくてもきっと誰かが」

「そうじゃなかったら?私は予期の中でだれも助けない映像をみた」

「それです、パシェさん、あなたは魔王とつながりがあるのでは」

「いずれわかる、それに巻き込まれているのが私だけじゃないって」

「えっ?」

 パシェは右腕をとっさに隠した。常に手袋で覆っている右手を。

「私は魔法訓練を忘れてしまった、剣技で倒すしかない」

「危険です、順を追ってやりましょう」

 パシェは振り返った瞬間、言葉も発する隙も無いほどの危機が迫っている事にきづいた。驚いたのはナナルのほうだろう。

「よけて!」

 ふりむくまもなくナナルめがけてパシェは短剣をとりだして、つきさした。もしナナルに働いた慣性が少しでも予想と違っていたら、彼女の腹をひきさいたかもしれない。それにもかかわらず、一部恐怖を克服したかに見えたパシェをみて、ナナルは笑っていた。

「キィエッ!」

 クリーチャーである。モンスターの上位に位置し、魔王の瘴気にふれたものが侵された姿。

「まさか……残滓の芽がついたクリーチャー、パシェさん」

「いいえ、大丈夫よ」

 飛び上がったクリーチャーは軽々とパシェの斬撃をよけていく、数十回も切っ先を振るうが何の傷もあたえられない。パシェのなまりをあざわらうかぼようにクリーチャーは背後にまわってパシェの背中に飛び乗った。その瞬間だった。

「とりこまれないで!」

 クリーチャーは、残滓の芽(まるで黒い宝石のような発芽した芽のようなもの)をパシェにぴたりとひっつけた。これで、クリーチャーは人を浸食することがある。

「あなたと彼は違うわ!」

 しかし、パシェの頭の中には魔王のしてきた残虐非道な世界支配の映像が浮かんだ。奴隷、拷問、差別、放置された格差。ありとあらゆる非道の限り。ナナルはすぐにてをだそうとしたが、パシェが左手を口元に添えて静寂のジェスチャーをすると、ナナルはその様子を杖を構えて眺めた。

「フッ」

 パシェは右手の手袋をはがして背中にのせていた。残滓の芽はパシェの体にふれていなかった。ということは……パシェの右手には“秘密兵器”でもあるのだろうか。クリーチャーは跡形もなく内臓をまき散らし、砂の用にきえていった。クリーチャーの特徴で、実体は極めて怪しい砂状の魔力の集まりとなっている。


 パシェとナナルは、封鎖領域を眺めた。封鎖領域は街であれ、魔王の残滓による浸食や、自然の浸食がすすんでいて、魔物が生存可能な土地であり、外囲に結界がはりめぐらされている。まるで鳥居のような青い扉に手をかけると、背後から声をかけられた。

「まちなよ、お嬢さん」

「危ない!!」

 振り返ると、ナナルが自分に覆いかぶさった。それでもその上から飛び上がったヤガムが右腕を自分の伸ばして唱えた。

「リンクスキル!ヌース!!」

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