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3話

 彼女の通勤途中には、商店街がある。亜人商店街。かつて多くの人が嫌い、治安がひどかったこの地区は、今ではすっかり活気にあふれていた。そして、人々はパシェに声をかけた。

「よう、パシェちゃん!」

「今日も麗しいね!」

「英雄パシェちゃん!」

 パシェは、苦笑いをする。かつて人々から嫌われ、亜人に対する差別の標的とされ、存続の危機にあったこの商店街。領主でさえ煙たがり、壊されそうになった商店街を立て直す手伝いをしたのは、ほかならぬパシェだった。パシェはかつて英雄として資格をとって、10年前その資格を失ったが、それも別に褒められたやり方ではなかった。子供のころは甘えん坊で、人を信用しすぎるところがあった。


「やさしさを取り柄にするな、やさしさは自分の奥深くの暗がりに隠せ」


 そう父に諭されていたからえらく葛藤したものだが、それでも自分を試したくて、この商店街をすくった。なぜなら5年前、その時はちょうどパシェの父英雄ダイドが亡くなって彼女が立ち直らなければいけない時期だったから。ほとんど自分を救うために救ったのだ。


 あの時、パシェはある作戦を画策した。商店街と表通りの商店一時連合の直接対決。一日の集客がもっともすぐれた方の勝ち。人々は結果は見え見えだと思っていた。なぜならそれほどまでに嫌われていたし、その頃の亜人商店街の評判は地に落ちていた。人間との文化や思想の違いから……彼らは長い差別にあっており、それに耐えかねて、接客もよくなく、場合によっては乱闘を起こすことさえあったし犯罪者もでた。


 だからこそ、15歳のパシェはこのイベントを敢えて画策した。あの頃……商店街の対処を、父親の代からのわずかに受け継いだ仕事として向き合っていた。商店街は近隣にもう一つあり、そこに亜人は勤めていない。だから双方のいがみ合いは続いていた。最も問題だったのは、その間にある英雄広場でパシェが4年前に経験した大事件だ。街が作られる場所には常に地中を流れる魔力の脈“魔流脈”が存在する。それによってその土地をいかにさけて人々を誘導するか、その流れを巡った対立もあった。


 パシェは、父から受け継いだ仕事を手放したくなかった。父である英雄ダイドは、この街に戻ってから見事に英雄や、ダーハミールといったもともとこの地に根付いていた人々との関係をとりもった。叔父も手伝い、本当に彼等を助ける方法について考えたが、いつも問題となるのが“彼ら自身の意欲をどうやって引き出すか?”という問題だった。


 虐げられるもの、不条理を強いられるもの、人と比べて幸運な地位を得られないものが人を疑い、信じられないのも無理はない。だからこそ、それを紐解く方法がないかと考えた。そこで敢えて、マジョリティである人間側の力を利用しようとしたのだ。


「英雄像を飾る権利を、彼らに預けるのはどうかしら?」

 人間側の領域、街の議会でそれを提案すると、人々は戸惑ったが、彼女はつづけた。

「私はできれば彼らと共生したい、なぜなら一緒に生きることこそが最も理想だから、ダーハミールも亜人も、人の生活を支えている立派な労働力だから、そしてあなた方も人々の分断に困っているはず、だからこそ人々にこういうの“彼らに、誰もやりたがらない仕事を与えよう”だからあるゲームをしようと思う、商店街でイベントをやるの、競争心を駆り立てるイベントを」


 人々の闘争心を掻き立て、あえてそれを発散させるお祭りをつくったのだ。一定期間内で近くにある商店街と客を奪い合い、そしてパシェはそこで“これに負けたら亜人商店街はこの場所から退去する”と言い切った。

 亜人商店の地位ある人間には話をつけていたが、あえてそれ以外からは恨まれる役目を負った。


 パシェは交渉によって商店街の店主たちを説得したが、相談せずそのイベントを画策したパシェに憤りを覚えるのも混乱を覚えるのも無理はなかった。


 数ある商店は猛反発して、パシェに嫌がらせをしようとしたり、英雄像にらくがきをしたりした。それでも、その期間が迫ると、彼らはパシェの本心を徐々に知ることになる。パシェは亜人商店街で内々の集会を開き、彼らの胸に訴える演説をして説得した。

「人間は美しいものが好きなんです、美しくなければ人々は喜ばない、逆にいえば美しささえみせればきっとあなたがたの優れた面に目を向けることもあるでしょう、例え今は過去の苦しみを覆い隠してでも、自分たちの美しさをしめそう」


 亜人たちは反発した、どこかで人間を下に見ていたし、パシェが味方をする意義も見抜けなかった。だが、パシェはつづけた。

「亜人さん方の優れた伝統を私は父から聞いている、人々との接触でその美しさを汚したらもったいないんです、人間たちは、簡単に人に助けを望まないけど、あなた達はたすけあっている」


 それでも一部の派閥、ダーハミールという特別結界隔離区域の先住民的生活を重んじる人々は一筋縄にはいかなかった。そこで活躍したのが、長老の付き人であったヤガムという青年だった。長老を説得してくれたのだ。その彼の情熱の中には確かにパシェが異なる姿かたちを持ったものに訴えかけた情熱がこもっていた。


 それから、直接対決“商店街決闘対決”は着々と準備がはじめられた。1か月の間にパシェは、亜人商店街を見て回り、表通りもみてまわった。表向きパシェは“亜人商店街をこき下ろし、見下したような態度をとる”だが、商店街の人々はわかっていた。これは試練だという事を。パシェは、ひいきこそしないが、きっとパシェのしたたかさを彼等が盗んで摸倣してくれるとおもったのだ。

 そして、見事その決戦に、亜人商店街は勝利した。だからこそここの人々は、パシェの事を英雄ちゃんと呼ぶのだ。

「ほら、パシェちゃんもっていきな」

「あら、おじさん」

「いいんだ、一人じゃいろいろ大変だろ?」

「うん、ありがとう」

 亜人商店街の一番端、現代表のヂロンさんがいる。ドワーフの亜人で、がたいに似合わずパン屋をやっている、その店の看板メニューのクリームパンを毎朝くれる。

「いいんだ、お嬢ちゃんには感謝しても感謝しきれない、お嬢ちゃんのおかげで、人間に素直になれたんだ」


 やがて、仕事場である“混合ギルド”についた。ギルド長である神父“クォル”に挨拶をする。彼にもお世話になっている。天然パーマで中身も少し天然チックではある。ギルドは少し神殿じみたつくりをしていて、すぐそばに要救護者のための神殿も備え付けられているし、礼拝施設もある。図書館もすぐそばにあるので、ここには無駄話をしに暇な老人が出入りすることもあるのだ。

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