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 一方、禁足地。この禁足地は、10年前の事件と深くかかわりがある場所だ。、パシェはヤガムの力に触れたかとおもったが、盾鎧(パノプリア)がそれをはじいた。強力な魔法反射装置だ。魔術師の心に反応して有害な魔法から身を守る。

「ちっ……」

 力をつかったばかりだからか、脱力してたちつくし、姿勢を整えると相手はこちらをにらんだ。にもかかわらず、あまりにも平然としてパシェは彼と対峙した。街で出会った知り合いに語り掛けるように。

「あなたの話を聞かせて」

「まったく、英雄代理はいつもそんなにフレンドリーなのか?」

「世界をみる人の目に興味を持つことも大事、人の理解と解釈、自分の理解と解釈を知れるから、その前提に罰をあたえてはいけない」

「罰、そうだな、たしかにどんな連中も、異常な存在に罰をあたえたがる」

「自分が異常だと思うの?」

 ヤガムはしばらくの間黙っていた。日が暮れかけている。ヤガムとしても手っ取り早く“用事”をすませたいのだろう。

「そうさ!異常だろ!」

 ヤガムは右手で右目にふれた。触れた側から瘴気が噴出してパシェの気分を悪くする。怒りと悪意がふつふつとこみあげてくる。そして彼がまとった瘴気からは、ゴブリン、怪鳥、ワーウルフ、見覚えのある魔物たちの影がわめいている。きっと彼ならばその陰を使役して襲い掛かってくることもできるだろう。

「だからもどれない」

「戻れる!」

「戻れないさ!彼らを説得できるか!俺に敵意を向けるものたちを、スケープゴートのスティグマをつけた者たちを」

 彼は左手の甲の魔晶核をみた。ホログラムには彼に寄せられたバッドマークがずらりと並ぶ、衆生の目ではこれそのものが、スティグマをつけられた人々への評価、そして彼を操作するためのスティグマとなる。悪い人間を見下す人間が多ければ多いほど、その人は人々の思い通りになる。

 「もどりたくとも、戻れない!俺はもうダーハミールの、トライブの“例外!”俺はもうふさわしい人間じゃない!」

 彼は右手に抱えた鉈をとりだし、地面につきさした。魔物の影たちは地中に向かい、黒い爆風と閃光がまった。パシェはキャッと小さく叫びたじろいだ。たしかに彼の中の怒りは感じた。しかしこれは、瘴気ほどに狂ったものだっただろうか。パシェははなはだ疑問だった。彼は戻りたいと思っている。だとすれば、彼の生涯となっているのは、単なる疎外感ではないのか。パシェにはそれがわかる気がした。恩を返したいものがいて、自分だけ彼と同等の力を持っていると思えないがために、彼に恩を返すことができない。


「お前は、力をつかえるか?本当に英雄ならやってみせろ」

「すじのとおったことには準備がいる、それに私が英雄だとしても平凡よ、あなたを満足させられない」

 場に似つかわしくない冗談に、ヤガムは笑った。意味もなく右手で炎を作り出すと、二人の間に放りだした。

「魔法は存在しないといえるか?君はハイナにまけていた、だから“魔術は存在しない”というのではないか?お前たち英雄は本当にものを考えているのか?」

「そんな事が聴きたいの?魔術はフリーパスよ、意味が通じる文脈そのもの、“価値の交換基準”ダーハミールに怒りがあるのでしょ?それにあなたみたいに“魔性”にとりつかれた人は、人の話を聞かない、人の話を聞かない人には、人のいったことばや事実は存在しない」

 多少、かちんときたのかパシェを一瞥するとこめかみに筋が入った。

「長老にパシェが脅されていないか口止め料支払われていないか」

 彼は魔法の髪タバコ“シュグル”を神始める。

「だれもが魔晶核からの“まなざし”を感じている、お前からは魔王の匂いがする、お前は魔王にとりつかれているのではないか?、魔王は病的な精神にとりつくとされるが、お前はどうなんだ」



 パシェのほうでは、できうることなら繭に触れることはしたくなかった。“パノプリア”は翻訳機として理解されている。“予定律コード”を分析、そして衆生の目と、英雄の目、場合によっては魔王の目が作り出す“運命の文脈”を読み取ることができる。英雄資格をもつものが繭を触れることは、その強靭なファイヤーウォール(パノプリア)によって守られるため比較的問題はないが、それでも繭の深部、ゾーンにアクセスし予定律の深淵を覗くことは、感情に強い影響をうける。ニネアポリスと呼ばれる最奥に人々は羨望のまなざしを向ける。栄華を極めた人類の黄金時代であり、イケイネット上にその復興の意思から再現されたものだと。しかしそれは、そんなに生やさしいものではない。


 だからパシェは、もしもの時に“繭”を使って状況を有利にしようと考えつつも、一定の距離感を保ちながら繭そのものに触れようとはしなかった。そして探るようにヤガムに問いかける。

「どうしてダーハミールに戻らないの?」

「俺の所属したダーハミールのシルカル派は、新文明にもダーハミールの保守派にも懐疑的だ、魔術も文明も秩序にも関心がない、新文明の領地でも、シルカル派が大勢跋扈しているだろう、“富の繭”を共有しているんだ、都市や文明や自分の立場に依存しながら、それを冷徹に見下しているような部分がある、そして自分たちの得になるのならば、流行りすたりにも過敏にならざるをえない、もともとダーハミールとて、単なる人気によってシャーマンやエンブレムカーストが決まる、俺はシャーマンに歯向かって、人気をうしない“死後英雄”としてのシンボルを失った、人々は今でも魔王を恐れている、その恐れこそが錯覚を生み、恐れを生み、魔物を生んでいる、そのよりどころとして“スタイル”を手に入れた、心を守るコード、“盾鎧(パノプリア)”に利用する、それは、無意識ですら皆常に身を守っているから、それが“目”をつくるのだが」

「よくわかるわ、今でも魔王の残した災いはある、魔流穴噴出に、結界トンネル、魔王時代。“いってることとやってること、起きていることとその認識がずれているのにみな彼を信じていた、だからって、どうして私の記憶や力とあなたとの接点は何よ、襲ったのはなぜ?」

 パシェは石をけとばすと、すっと顔を上げてかれをまじまじとみた。体がぴんと張った感じがした。

「“魔術は存在しない”この嘘を暴くためだ、頻繁に現実とウソ、虚構はいれかわっている。シャーマンのように権威をもつ詐欺師が、人々がそれを信じるしかないと暗示をかけたとき、逃げ場なき人々は、それを信じるしかない、もしかしたらあの子供たちの誘拐も、シャーマンに言われて仕方なくやったのかもしれないだろ、じゃあ、シャーマンと魔王の違いはなんだ?」

「それは“予言開示”のためよ、それにしてもあなたは一体何をみたの?」

「ニヒーさんが、トラウマとなっている場所を尋ねた、ニヒーさんはそこでダーハミールへの信頼を完全に失ったと、シャーマンの言動を怪しんで秘密の会合を覗いたんだ、そこでシャーマンたちはマナ資源の枯渇を問題視していた、そして、トライブの人々に畏れを植え付けた“このままでは枯渇する”もうひとつ、恐ろしい事実を取り決めていた」

「何を?」

「“死後戦士”君らの文明でいう英雄代理に近いもの、我らの神話の英雄。シャーマンらは、“死後戦士”の訓練中の事故による死者に偽装して、まだ若い“死後戦士”候補の子どもを新文明に売っていた、その事を報告しても、アセランさんとニヒーさんは別段驚きもしなかった、そして俺がそれをやめさせるために、世間に訴えるといったが、それも意味はないだろうといった、“お前にはカリスマがないと”そしてそれである事に気付いたんだ、“アセランさんも同じでは”と……きっと彼はダーハミールに戦争をふっかけようとしている」

 パシェは正直戦争と聞いて怯えてしまった

「アセランもニヒーも同じように、それを目撃して敵意を強めたと?」

「そうだ、そう考えた」

「実際どうなの?ゾーンに潜ったんでしょ」

「情報はかけていた、それどころか、記憶もかけていた」

「事実はわからないわね」

 説得力にかけ、パシェは頭を抱えた。

「じゃあ疑問は残るだろうなら、なぜ彼はあんなに復讐心をもっているのか、人にいえもしない研究をしていた!」

「あなたの恋人があなたを心配している、今ならホロストゥループがあなたの手助けになる」

「だが、もう……」

「ライルンは我慢してきたのよ、あなたが子供を望んでも」


「魔王時代の方がよかった」

「え?」

「まだ人々は悪びれもなく、悪いものといいものを分けていたから、時代が変わったのにカテゴライズして

カテゴライズそのものが力をもつマニュアルだと思っている、説話コードは内と外をわける、正解と不正解を分離する、カテゴライズする、それで世界がコントロールできるってできないのに」

「なぜそこまで予定律を憎むの」

「考えたことはないか?」

 両手をひろげた。そして大演説家のように。

「彼が、眠り続ける神、ニネアが全てをしっているのなら、なぜ彼はここまで残虐非道なのか、その予定律には、彼の独善性はかくれていないのか?彼が少し条件をつけるだけでいい、シャーマンのように人の行為、行動、そして成果に、条件をつける立場なのだから」

 パシェは何も言わない。さらに腹を立ててまくし立てた。

「お前こそなぜおこらない、こんなうわさがあるぞ“お前が父親から、英雄訓練においてひどい暴力をうけていたこと”“パシェこそがハイナをいじめていたのでは?」

「……」

「どうして何もいわない」

「私は普通よ、家のことを世界に説明する必要はない」

「お前たちは、神の代理人だ!俺たちを救え!そしてやましい事があるなら謝罪しろ!」


 静寂が流れると、パシェは、少し前にライルンを尋ねたときの事をおもいだしていた。そこは彼女とパシェが“公園”と呼んでいる亜人商店街の空き地である。

 * * *


 ここに来ると決めたとき、なぜかライルンダリオッテは、パシェの目的を知っている用だった。今朝家を出てすぐ、彼女が家の前で待ち構えていた。

【どうしてここに?】

【話したい事があるの】

 家ではまずそうだったので、近くのカフェにはいった。

【彼に脅されたの】

【え?】

【お前の為だって、どういう意味か分からなかったけど】

【じゃあもう、私たちにまかせてよ】

 彼女は首をふるばかりだった。パシェはあまりに、英雄代理資格を取り戻すという事が嫌で時折ホロストゥループを手伝っていたのだが、ライルンダリオッテは明らかに、ヤガムの見方をしているようだった。そして無責任に言い放った。

【あなたなら助けてくれるでしょ、ホロストゥループじゃない、あなたにヤガムを助けてほしいの】

 

 * * *

 シンクロするようにパシェを睨みながら、同時にヤガムは少し前のことを思い出していた。少しきになって、ライルンダリオッテの所属するF21トライブを訪れたときのこと、通常トライブは男女でわけられ、各々に割り振られた魔法を活用した労働をする。許可なく男女の教会の壁を破る事は禁止だったが、彼が透明の壁をやぶった先には、すでに彼の所属するトライブのシャーマンたちが待ち構えていた。

「男子禁制のはずだろう」

「ふん、お前はもはやトライブのみならず、種族全体の敵になった、お前は都市に汚染され、古来の生活、自然律を侮辱したのだ」

「脅すのか?お前たちのやったことをいいふらしてもいいのだぞ」

「ホロストゥループがお前の見方をしているらしい、お前たちはシャーマンたちに敵対しているだろう、だからこちらにも脅しが必要なのだ、お前が我らの手に捕まれば、問答無用でむち打ちの刑に処することができる」

 喋っている中央のシャーマンの脇、傍らのシャーマンがムチをてにすると、先端で地面をたたくと地面は一部割れ、砂礫が飛び散った。

「デマだ!ペナルティによって支配するのか」

「いいや、規律に違反したものは、トライブから恨まれる」

 シャーマンは山羊のお面をかぶったままにやにやと笑う口の音をたてた。

「お前は都市がお前の見方をすると思っているだろう、都市やネットでは、善人の見方をすることも流行っている、だがお前は気づかない、それだえも、耳目を集めるものだけが報われていることに」


 規律違反によって、ヤガムはライルンのトライブを破滅に追い込むと脅されていたのだ。

 * * *

 現実に戻ると、一瞬のことながら、まるで同じ夢を見たかのように二人は目線を同じにした。


「守るべきものがあるのに、シャーマン同士の別の抗争のために子供を犠牲にする、こんなことあってたまるか」

「それは……」

「おい」

 ふと目を起こすと、ヤガムが右手に鉈を持って構えていた。焦って時計をみた。ぷるぷると右手の“魔晶核”が震える

「くるぞ」

「どうしてそれを、あなたも“予定律”をみたの?」


 魔術師は予定律によって“危機の起る未來”を知ることができる。パシェは今朝、朝食の用意をしているときにその啓示をうけた。1時53分、そこで何が起こるか知っているのはこの場所で自分だけだとおもっていた。しかし、一分すぎても“それ”はおきなかった。しかし追加で一分たったとき、ヤガムはにやりと笑うと鉈を振り上げた。その時だった。

「おかしい!この時間にハイナが割り込んでくるはず!」


 地を割るような地響きが響き渡ると、左側面の壁が割れた。

「ハイナ!」

 予定ではそこにハイナが立っているはずだ。しかし、壁が崩れることは映像になかった。

「ごめんなさい、パシェ」

 そこにいたのは、ライルン・ダリオッテだった。右手には槍をもっている。

「何をするの?ライルン」

「彼を逃がさなきゃ、やらないといけないことがあるから」

 ヤガムはその瞬間、その場をたちさろうとしたが、その先に立ちはだかるものがいた。ハイナと、赤髪のホロストゥループのリーダー、イアナだった。



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