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魔王の意思

 ニネア教の教会にて、ここはニネアを信仰し、彼の善行の説話を信じている宗教だ。長老が神父にたずねた。神父は綺麗に掃除をしていたが安上りの教会で、ところどころ木製になっている。軋みや染みが目立つようになってきた。時折かび臭い。

「イケイネットをみたか」

「魔王とは、怠けた英雄である、パシェの評判を貶めるものばかりだ」

「ダイドは魔力乱流病に苦しんでいた、そして、知られていないがパシェもそうだ、彼女は奥方の教育に苦しんでいた、何かを奪う代わりに命令を利かせる、脅すような態度、12年前英雄ダイドが街に戻ってくるまで、ずっと彼女は母親に苦しめられていた、彼女は、自分が自由に振舞うことを制約され、同時に彼女に従順であることで生き残る思考にくるしんでいた」

「まるで強迫観念のようにね、全てがかわったのはダイドがもどってきたあと、その1年後に“あの少女”をひきとってからだ、パシェの妹、ハイナ……彼女を養子にしてからだ」

 神父は腰を掛けて、その横を指し示すと、また長老も腰かけた。

「彼女と直接それについて会話をしたことがあるが、彼女は本当に血のつながりがあるかのようにふるまっている、彼女の記憶もそうだ、その強引さが外部への影響を与えるとは考えない」

 長老はこしをかけると、深く頷きながら、きしむ椅子のささくれが足をさそうとこともなげに彼との会話をつづける。

「“魔術は存在しない”魔術師協会の見解だ、魔晶核が神経に影響を与えているから、それは幻想かもしれない、現実が幻想に影響を与えているのか、幻想が現実に影響を与えているのか、未だに論争はつきない……ただ、二代目ニネアの時代から魔術師は意識の一部を共有するようになった、二代目ニネアは軍隊のように“教育と強制”をさせられ、その魔術の仕組みを管理された、幻覚と魔術との因果関係の分析に利用された、彼は人体実験の犠牲だ、そしてこの魔晶核が生み出された……ニネア人によって、幻想を抑えている、ある文言とある知性をもったものは、幻想を抑えたまま力を使えるようになった、ニネアの子孫は特定の言葉と行動によって魔法を再現すつ“魔術”にとらわれていたから、顔を洗う、つめをきる、それらすべてに関連した魔術があった、その動作を行わずとも、力が使えるようになった」

 神父は頭をかいた、短髪の根本に鱗が光っている。

「“種”と“殻”の要素を備えたものが“繭”、自然派魔法の繭へアクセスするためのシャーマンの道具の模倣だとききました、繭はゾーンのごくわずかまで“凡人”の意識を到達させられる、ゾーンは人々の意識が混在する場所にある、普通の人はその意識のカオスにたえきれない、イケイネットは人々の意識や選択をビックデータにして解析のアルゴリズムをつくり“予定律システム”を作りだした、そのアクセス権限が種と殻といえるかもしれませんね」

「私たちがダイドの喉元を見たとき、重大な問題があった、彼は記憶を封じていたから、そしてそれはパシェにも感染していた、慢性的な不安だ、まるで魔王時代のオモクシロンワークのようだった、見た目とまるで反対の意味を持つ、シャドウスキルをつかっていた、魔王は歪んだ認知をうえつけた、シャドウフレームだ、しかしそれは今や、自動賢人とイケイ人がつくったオモクシロンフレームとの差がわからなくなった」

「“見た目と逆のふるまいをする”だけならば、ポジティブもネガティブも変わりがありませんから、彼は町中の魔物を処理していましたね……まるで怯えるように彼はボランティアをしていた……慢性的な怯え、ニネアと同じ状態だ、ただその謙虚さは、彼の悪意と結びついていた」

 長老はつをつき、首をあげてステンドグラスへかかる屋根を見上げた、光は確かに差し込んでいたが、衰えた目に感じられる美しさはごくわずかだった。

「魔王は歪んだ認知をうえつけた、若人の中には、もはや生まれた瞬間から善と悪が存在する、タブーは初めから存在し、だから人々は自由を恐れている、自分と異なる存在を、自由はオモクシロンフレームから外れ、世間に反するものだと考えている」

「ほんの少し前に進むだけで、嫌な事といいことどちらも重要だという事はわかるはずです」

「パシェはおびえていた、あの時はあなたにもお世話になりましたね」

 神父は微笑みかける。

「英雄錠は5つまで記憶を封印できる、幼かった私は領主の自動賢人“クルア”のブレーンをたよった、最も近しい3側近の一人だ、そして英雄錠の一つのソケットにパシェの記憶を封印した、10年前の悲劇の記憶その一部を、よく覚えているよ、私は信用した存在しにしか力をかさない、君がその一人で、彼もまた一人だ」

「パシェには彼の正体を話してはいないが、人々は悪意を求める、ハッキングも日に日に増えている、彼へのデマは、パシェを真相へとかりたてる、しかしどうしてパシェは目覚めないのでしょう」

 神父はドローンを浮かべて、繭の姿をホログラムに映し出した。

「パシェの問題は何だと思う?」

「彼女は、人に貢献することは知っている、礼儀も知性もある、問題は彼女自身に対して謙虚ではないことだ」

「繭は当てつけの触媒だ、あれの昨日はほとんど“目”の概念とにている、他者になりきり感情移入をして他者の行動を予測しようとする大多数の人々の目だ、だれもが他人を見ているふりをして、第三者からの目を見ている、何に感情移入しているか、境界と敵意を作っている、そこに当てはまるものを排除し続けることで管理できる人間だけを生き残らせた、だが今や“富”をえるものは人は減る一方だ、分断の因果が増えている、憎悪と排除と管理、それが衆生の目に強烈に植え付けられた魔王の意思だ」


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