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42話『クイーンビー』


「そうですね……カイト殿はチェスビーについてどれほどご存知ですか?」


「そうですね、人と乗せて空を飛ぶこと、人と共生することを選んだ魔蟲だと言うくらいでしょうか?」


 俺が知っているチェスビーの生態なんて、ほんの少し聞き齧った程度しかない。


「その通りです、そしてチェスビーを束ねる女王蜂、クイーンビーは自らパートナーを人の中から指名し、彼らの世話をする代わりにパートナーの意思を汲んで力を貸してくれるのです」


 それからマーサムーネ様が少しずつクイーンビーについて話してくれた。

 

 俺が知っている普通の蜂は、春になると新しい女王蜂が生まれ、一つの巣に女王蜂は二匹になる。


 しかしそのうちの一匹の女王蜂は働き蜂の約半数を連れて、巣を飛び出し新たな場所に自分の巣を作るのだ。


 これを分蜂と呼ぶのだが、どうやらチェスビーはこの分蜂をしないらしい。


 同じ巣にクイーンビーが二匹が居る期間は、引き継ぎの期間なのだそうだ。


 クイーンビーは己の寿命が近づくと、次代のクイーンビーを産む。


 そして数年掛けて群れを率いるに相応しいクイーンビーへと育てるのだと言う。


 クイーンビーは己が選んだパートナーと寿命を分かち合う性質らしく、いくらパートナーが元気そうに見えたとしても、クイーンビーが次代を産み育て始めるとパートナーは自分に残された寿命と向き合う事になるのだ。


「初代クイーンビーとの盟約により、クイーンビーの代替りの際に、必ずダーテ家の藩主の子から次代のパートナーが産まれます」


 当然次代のクイーンビーに選ばれたものが次期藩主の座に着く……たとえ優秀だと評価され期待されていたとしてもクイーンビーに選ばれなければ藩主にはなれないのだ。


 前藩主には直系の子が五人いて、正妻の子が三人と妾の子が二人いた。

 

 次代クイーンビーの誕生がわかった当時、ダーテ家の後継ぎ筆頭は正妻の長子であるセンダツだった。


 当時の藩主に似て少々苛烈な所もあるが、文武両道であり家臣の支持も高かったセンダツは、次期藩主最有力候補だった。


 当然真っ先に次期クイーンビーと目通りする機会を得たが、何度会いに行っても次期クイーンビーはパートナーに指名しない。


 もしや他の子息なのかと、正妻の子、妾の子と会って行ったがそれも違う。


 前藩主の容態が悪化して、いよいよ代替わりが目前に迫ってもなお、現れぬ次代クイーンビーのパートナーに、何かがおかしいと感じ始めた。


 そんな中、なかなか現れないパートナーの存在に焦れた次代のクイーンビーは、働き蜂達が使う蜂道を通って脱走し、一人の孤児を拾ってきた。

 

「当時の私は、遊郭の上級遊女だった母が病気で亡くなり、他の同じ様な子ども達と暮らしていました。 ある日、遠目に知るチェスビーよりも、二回りも大きなチェスビーが空から襲ってきて身体を掴まれて空を飛んだ時は、食べられると死を覚悟しました」


 そう言って苦笑する。


 確かにいきなり捕獲されて、チェスビーの住処に運ばれれば、食べられると考えるよな。


 そうしてマーサムーネ殿は、次代のクイーンビーによって先代の実子であると証明されてしまったわけだが、はいそうですかと、その事実を認められない者達もいる訳で……


「ここには正妻の長子であるセンダツこそが藩主に相応しいと感じている者達がほとんどです」


 前藩主が外で作った私生児の……それも孤児を主君にしたいと考えるものなどごく少数だ。


 せめて前藩主が存命なら違ったのかもしれないが、マーサムーネ殿を藩主に指名したのち、程なくしてこの世を去ってしまったらしい。


 周りは敵だらけ、クイーンビーが選んだパートナーでさえなければ、生きてすらいないだろう。


「兄を支持する家臣達は、私に仕えるつもりなど無くただただ目障りだと感じているでしょう」


 そう自嘲気味に話すマーサムーネ様の姿に心が痛む。


 なんとか出来るものなら力を貸してやりたいところだが、ただのおっちゃん漁師である俺に何が出来ると言うのだろう。


 俺に出来るのは船に乗ること、そして漁をする事くらいだ。


 それに、攫われたオーナガワ村の娘達の件も解決していない。


「力になりたいのは山々なのですが、世話になっている村の友人の家族がダーテ藩の役人に連行されてしまい、行方がわからなくなったため、そちらを捜索しなければならないのです」


「ダーテ藩の役人が連行ですか? シロウ、何か心当たりはありませんか?」


「そうですね……」


 顎に手を当ててしばし考えたシロウは、ゆっくりと目をあけた。


「役人ではありませんが、センダツ様が贔屓にしている城下町にある花街の奥に、不審な商人が出入りしているとの噂はございます」


「花街」


「えぇ、遊女と呼ばれる女達が暮らす街で、私が暮らしていた区域です。 幼少期に人買いによって買われてきた禿にさまざまな技術を教えて、遊女は自らの身体と芸で客を取り暮らしています」


 手がかりがそれしかないなら行ってみるしかないよな?


 

 

 


 

 

 

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