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39話『チェスアントのコロニー探検と新しい仲間』


 踏み入れたチェスアントの巣穴は、予想していたよりも歩きやすいものだった。


 他の魔蟲が入り込めないように入口こそ狭いものの、中は広い通路が先が見えないほど下へ下へと続いている。


 巣穴を作るときに掘り返されている筈の地面は、チェスアント達が頻繁に出入りしていることもあり、しっかりと踏み固められている。


「本当に蟻に出くわさないですよね?」

  

 内心おっかなびっくり壁に沿って歩いていく。


「認識阻害もかけておるし、通路を外れなければ大丈夫じゃろう」


 本当かぁ?と思いながら、飛び出しそうな心臓を押さえつけ、真っ暗な通路を進んでいく。


 視界が効かないなぁ斗思っていると、いくらか進んだあたりからぼんやりと壁が光を放ち始めた。


 近寄ってよく見れば、苔のような植物が放つ光をキラキラと輝く六角柱状の鉱石が四方八方へ反射しているようで、それがそこかしこにあるものだから、豆電球を灯したくらいの明るさを保てているらしい。


 たまに移動中のチェスアントに遭遇することもあったが、特に攻撃を受けることはなかった。


 むしろ驚いたのは、チェスアントの巣穴を移動する商人と遭遇した事だろうか。


 襲われたりしないのかと聞いたところ、チェスアントと共生関係のある好蟻性こうぎせい昆虫が放つフェロモンで香水を作り匂い付けしているため、襲われることがないらしい。


 地下の移動だけでなく、力も強いためチェスアントでの物資の運送は当たり前のように行われているそうだ。


 それどころか、地下に都市まであるらしい……この世界に適応した人々の逞しさに感心しながら、商人に所持していた浄化前の危なくない魔石と交換で、そのフェロモン香水を分けてもらい、服の上につける。


 甘い蜜のような香りが、男の俺には甘すぎる気がするが、嫌な匂いではない。


 実際にそれ以降の道行きはとても順調だった。


 すれ違っても平然と隣をすり抜けていくチェスアントの姿に安心しながら歩いていく。

  

 道中教えてもらった瀬織津姫様の話だと、チェスアントは俺の知っている蟻と生態的にはあまり変わらないらしい。


 女王と呼ばれるクイーンアントとその周りを「ポーン」「ナイト」「ルーク」「ビショップ」と役割が異なる蟻たちで一大コロニーを築いて暮らしているそうだ。


 しかし残念ながらチェスアントには「キング」は居ないらしい。


 外敵が襲って来ればたとえそれが、自分の体格の何倍もの大きさでも、統率が取れているチェスアントが倒してしまうらしい。


 そして単独で生きている蟲たちと違い、チェスアントは人々と共存する事を選んだ種族でもあるのだ。


……キュ……


 どこからか消え入りそうな小さな音が聞こえた気がして、顔を上げて音の出どころを捜してあたりを見回すと、チェスアントのコロニー入口よりもさらに小さい通路が床付近にあることに気がついた。


 俺でも四つん這いになってやっと通ることが出来そうな高さしかない。


 覗き込めば、赤いまん丸とした2つの瞳と目があった。


「キュ」


 柴犬サイズの……これまで遭遇したチェスアントとは明らかにサイズ感が異なる。


「お前、どうしたんだ?」


 潤んだ瞳につい手を伸ばして引き上げれば、抵抗する様子もなく、どうやら弱っているようだ。


「こいつは珍しいのぅ、チェスアントの変異種ではないか」 


 肩口からひょっこりと顔を出した瀬織津姫様がしきりに両手の中でぐったりした蟻の様子を見ている。


「変異種ですか? こいつ弱ってるみたいですけど……」


「ふむ、変異種故にチェスアント達から仲間と認識されなかったのであろうな……先ほどの魔石が余っているなら食わせてみよ」


「えっ、あんな危ないもん食わせて大丈夫なのかよ!?」


「当たり前であろう? この世の食物連鎖の中で、魔石は魔蟲も魔魚も、魔獣も己を強化するために好んで食すぞ?」


 とりあえず、先ほど商人と交換した際に残しておいた魔石はまだそれなりにあるため、そのうちの比較的小さな魔石を蟻の口元に持っていく。


 小さく首を傾げたあと、俺と魔石を何度も見返して魔石を口に含むとカリカリと音を立ててかじり始めた。


「本当に魔石を食うんだな、ほら好きなくらい食え」


 小さなチェスアントを地面に降ろし、食べやすいように地面に追加で魔石を転がしてやると、二本の触覚を嬉しそうに動かしながら夢中で魔石を食べる姿が、なんとなく可愛く見えてくるから不思議だ。


「さてと……じゃぁそろそろ行きますか」


 しゃがみこんでチェスアントの頭を撫でていた手を離して立ち上がる。


 すると、魔石を食べるのをやめて足元にすり寄るチェスアントと目があった。

 

「キュ! キュキュゥ!」


「ふふっ、どうやら其方を己が仕えるべきクイーンと決めたようじゃ」   


「はぁ!? クイーンって俺、雌じゃねぇし、チェスアントでもないっすよ?」


「まぁ、連れて行ってやるが良い、 どのみちその個体はこのコロニーでは生きていけんからのぅ」


 この小さなチェスアントは、他のチェスアント達と体格差があり過ぎて、混じろうにも踏み潰される危険の方が高い。


 そして虫が全て巨大化してしまっており、小さな身体では自分で食料を確保出来ずに弱り果てていた所を俺が発見したようだ。


「お前、本当に俺たちとくるつもりか?」


「キュ!」


 元気に返事をして来る姿が可愛く見えて来るから不思議だ。


「はぁ、分かった、分かったよ! なら名前決めなくちゃな」


 名前、ネーミングセンス無いんだよな俺。


「ぐぬぬぬぅ……よし! お前の名前はクロスケだ!」


「キュ!」


「お主、もう少しその名付けはなんとかならぬのか……、まぁこやつが気にせんのなら問題ないかのぅ」


 こうして旅の一行にチェスアントのクロスケが加わったのである。

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