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30話『人聞きが悪い事』


 俺が瀬織津姫様伴って金華山へ戻ってきた頃には辺りはすっかりと薄暗くなってしまっていた。


 それでもなんとか周囲を目視で確認できるくらいの明るさがあるうちに接岸できたのはありがたい。


 街灯なんてものがない現状で船を接岸させようにも距離感がわからない暗闇で無理に寄せれば船体を損傷させる事態になりかねない。


 しかも木造の小舟が主流のこの時代に第八豊栄丸の船体修理が出来る人間が何人いるだろう。


「あー! おやびんが帰ってきたー!」


 どうやら港が見える場所で待ち構えていたようでゲオがこちらへと大きく両手を振りながら飛び跳ねている。


「あ~ほんとにおやびんだぁ」


「おやびーんおかえりなさ~い」


「おやびんが女の子拐ってきたー!」

  

 ゲオの声に触発されたのか、先日金華山を一緒に登ったこどもたちが一緒になって叫んでいる。


 若干人聞きの悪い事いってるのが居るなぁ……


「おらお前ら危ないから少し離れてろ!」


「あいあいさー」


 船を岸に寄せると船を固定するためのロープを陸へと向かって投げる。


 ゲオはすっかりとなれた様子でそのロープを近場にあった岩に括り付ける。


 本当は係船柱けいせんちゅうがあれば良いのだが、あいにく存在しないのだから仕方がない。

         

 係船柱けいせんちゅうと言うのは港に船を係留……まぁ早く言えば固定するための物だ。


 前世では夕焼けに染まっている海をバックに係船柱けいせんちゅうに片足を載せて写真を撮る観光客が一定数居たものだ。


「ありがとうな」


「俺はおやびんの一番弟子だからこれくらい問題ねぇ……よ」


 俺の言葉にドヤ顔のゲオは俺の後ろに隠れる瀬織津姫様を見つけたようで、あんぐりと口を開けてフリーズしてしまった。


「ん? ゲオどうしたんだ?」


 もしも~しとゲオの顔の前で手を振って見るものの全く持って反応しない。


「わっ!」


「うわっ! おやびん急にでっけぇ声出したら驚くじゃねぇかよ!」


 うん、どうやらフリーズは解けたみたいだな。


 けれどゲオは瀬織津姫様が気になるようで俺に文句を言いながらもチラチラと瀬織津姫様に視線を送ってはもじもじしている。


 赤に色づいた耳……わっかりやすっ!


 まぁ瀬織津姫様は美幼女神様なのでゲオが一目惚れしても仕方がないのかもしれないけれど、神様と人が結ばれる事はあるのだろうか……もしかすると俺が知らないだけでそういった事例もあるのかもしれないな。


「なっ、なぁおやびん? 後ろの女の子はだれですか!」


 よほど気になるようでキョドキョドしながらも最後は覚悟を決めたようでゲオが真っ直ぐこちらを睨む。


「ん? 瀬織津姫様だ、神様だからな失礼な事はしないように!」


「えっ、神様!?」


「わらわはせおりちゅひめと申す、なかようしておくれ」


 俺の後ろからひょっこりと顔を出して瀬織津姫様が自己紹介するとゲオの顔がまるで水温計の水銀が上がっていくように真っ赤になった。


 その様子に思わず吹き出してゲオに睨まれたが、しかたない。


「ゲオです! おやびんの一番弟子をしています!」


「おぬしがゲオかどれ」


 そう言うとスルリと俺の前にでて船体の外からサイドデッキ越しに除いていたゲオの額に白い小さな手がそっと触れた。


 ぽうっと小さな桜の花びらが触れた額に浮かび上がる。

 

「わらわのかごじゃ」


 にっこりと微笑んだ瀬織津姫様は満足げに頷いている。


 いくら力が弱くなっていても、魔除けとしてはこれ以上の加護はないのではないだろうか。

   

「ありがとうございます、瀬織津姫様。 しかしまさか神様を連れてくるとは思ってなかったよ、どっかの村から子供を攫って来たのかと焦った」


「いやいや語弊があるからな」


「もしくは漂流してた俺みたいに誰が助けてきたのかと思った」


「ふむ、助けられたというのはあながち間違っておらぬな」


 うんうんと瀬織津姫様が頷く。


「そうだ……瀬織津姫様、一度一緒に金花山の二神、金山毘古神(かなやまびこのかみ)様と金山毘売神(かなやまびめのかみ)様へご挨拶に向かいませんか? 神様にも治める土地があるのでしょう?」


「そうだの、一緒に向かってくれるかの?」


「もちろんです!」


 俺が返事をするよりもはやくゲオが瀬織津姫様の願いを請け負った。


 ゲオは将来嫁となる女性の尻にガッツリ敷かれるのだろうな。


 デレデレしながら瀬織津姫様の手を取り初々しい様子でキチンとエスコートしているゲオの姿を微笑ましく思いながら、下船準備をする手は止めない。


「いや、流石にこの時間から山を登るのは戻ってくるまでに夜中になるから明日の日中にしよう」


「そうじゃな、夜に夫婦の社をおとずれるのはマナー違反じゃ」


 まぁ別に夫婦ではなくてもあまり夜に他の家にお邪魔するのはオススメできないのも事実なのだ。


 それに陸神の忌み子というバッドステータスを抱えて陸で寝るくらいなら俺は船でぐっすり寝たい。


「おやびんは今日も船で寝るのか?」


「もちろん、そのつもりだ」


「瀬織津姫様はどうするのですか?」


「わらわも船で構わぬ、この船にはわらわの依り代もあるゆえな」


 ちらりと視線を向けた先には崩れた神社から回収してきた御神体がある。


「そっか、俺の母ちゃんがおやびんの晩ごはんも一緒に作ってるから呼んでこいって言ってたんだけどおやびんどうする?」


「もちろんご相伴に預かるさ、ゲオの母さんは料理上手だからな」


「そっか、瀬織津姫様は神様なんだろう? ご飯は俺たちと一緒でいいのかな?」


「もちろんわらわは備えられた神饌(しんせん)に食わず嫌いはせぬゆえ!」


「そっか、じゃぁ俺は家に行って母ちゃんに瀬織津姫様の分を追加で頼んでくるよ!」


「じゃが、そのう……いきなりわらわがじゃましてはそなたの母に迷惑がかからぬか?」


「心配しなくていいよ、むしろ娘が欲しいって言ってたからもみくちゃにされそうで心配なだけだ」


 ニャッと笑ってゲオが村へと向かって走っていく。


「よい村じゃの」


「そうだな、ここもオーナガワ村もいい村だよ」


               


      


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