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28話『ゲオ、氏子になる』


 無事ジョブランクを授かり、二神がお帰りになったあと神社の時間が動き出した。


 先程まで聞こえなかった波の音も、小さな小鳥の囀りも、それを凌駕する大きな虫の羽音もすっかり元通りだ。


「やったぁ! ジョブランクついてる!」


「えっ、ウソ本当に!?」


「あっ!あたいのも!」


 俺の周りでお参りをしていたから次々と嬉しげな声が上がっていく。


 よく見れば子供の前に俺がもらったものよりも小さな和紙が落ちていた。


「良かったなお前ら!」


「うん!」


 ゲオに頭を撫でられて気持ちよさげに目を細めている子供たちの姿を見る。


 ジャブランクの紙を見せ合うために子供たちがゲオから離れると一瞬だけ見えたゲオの悲しげな顔が気になった。


「ゲオ、そういえばお前ジョブランクの判定を受けたことはあるのか?」


「あー……実は無いんだよね、こうして神様が気まぐれに授けてくれる場合を除けば、ジョブランクの確認は高額なんだ。 だから多分村では確認できていない人が大多数かな」  


 どうやらゲオは密かにジョブランクを貰えるのではないかと期待していたようだが、ゲオの分の和紙は出てこなかったようだ。


 ジョブランクを授かった子ども達に神を見せてもらえば、加護の欄に金山毘売神(かなやまびめのかみ)氏子(うじこ)と記載されてあり、どうやらゲオと同じくらいの女子や他の女児、そして三歳くらいの男児にジョブランクをくれたのは金山毘売神(かなやまびめのかみ)らしい。


 そして子ども達ので最年長だったゲオは金山毘売神(かなやまびめのかみ)の守備範囲外だったのだろうか……


「そりゃーねぇよ神様」


「ゲオ、こいつらはここで俺が見てるから、お前ちょっくら俺の船に行って御神酒を一瓶もってこい」


「……わかった」


 直ぐに神社の階段を駆け下りていったゲオが戻ってくるまで貰ったばかりのジョブランクが読めないと騒いでいる子ども達へ内容を読んでやる。


 どうやら金山毘売神(かなやまびめのかみ)様は子どもが読めるようにひらがなで書いてくれていたため、今回は読むことができた。


「おやびーん! 御神酒ってこれ?」


 あまり時間をおかずにゲオは山頂へ戻ってきた。


 急いで戻ってきたのだろう……息を切らせて入るがその腕の中には御神酒の瓶が二本抱きかかえられている。


 どうやら俺が本数を指定いなかったから最初に持ってきたように二本持ってきたらしい。


 もったいない気もするが背に腹は代えられないか……


「よし! ゲオその御神酒を祭壇に一本置け」


「えっ、うん。 これでいいの?」


金山毘古神(かなやまびこのかみ)様の氏子にしてください、ほらゲオも言ってみろ」


「えっ、かなやまびこのかみ様のうじこ?にしてください?」


「もっと大きな声で!」


「はい! かなやまびこのかみ様のうじこにしてください!」


 そのまま二礼二拍手一礼(にれいにはくしゅいちれい)をして見せればそれにゲオや他の子ども達が続く。


「ゲオ兄ちゃんも!」


「きゃみ様! お願いしましゅ!」


「お前ら……ありがとうな」


 そうしているとゲオの前にひらりひらりと一枚の花びらが降りてきてゲオの掌の上で和紙へと変化した。 


「ジョブ……ランク……」


 ぽたりぽたりとゲオの瞳から涙が流れ、手元にあるジョブランクが書かれた和紙を濡らしていく。


「おやびん、ありがどう」


 ずびずびと鼻水を啜りながら泣き出してしまったゲオの頭に、手を載せた。


「お礼を言うなら神様にだろう?」


「そうだね、かなやまびこのかみ様ありがとうございます」


「ありあとごじゃます」 


 ゲオと共に舌足らずながらもお礼を述べる事が出来る、オーナガワ村の子ども達は本当にみんな良い子ばかりだ。


そうしているうちに何やらもう一枚ゲオの前に花びらが降りてきてまるで読めと急かすように和紙へと変化する。


「ジョブランクがもう一枚……?」


 困惑げにニ枚の和紙を確認してゲオが更に泣き笑いになってしまった。


 見せてもらった和紙の一番下の加護の記載欄に夫婦仲良く金山毘古神(かなやまびこのかみ)様と金山毘売神(かなやまびめのかみ)様の氏子と記載されていた。


 これは自分の名前も子ども達に呼ばせろと言うことだろうな。


金山毘古神(かなやまびこのかみ)様、金山毘売神(かなやまびめのかみ)様ありがとうございました! はいみんなもお礼しような!」


「かなやまびこのかみさま、かなやまびめのかみさま、ありがとうございました!」


「ありあとうごじゃまちた!」


 かわいいお礼を言われさぞかし身悶えていることだろう。


 ついでに残りの御神酒も御供えして俺たちは村へと引き返したのだった。


 村に戻ってきた俺達は村の女性陣から大きな喜びを持って受け入れられた。


「かぁちゃーん! 俺ね! 神様からジョブランクもらったのー!」


 俺と一緒に山へと登った子ども達がジョブランクの記載された和紙を自分の母親に自慢気に見せているのだ。 


「わぁ、良かったねぇ! 本当に……本当にありがとうございます」


 しまいには歓喜のあまり泣き出す奥様方多数。


「カイトさん……いやカイト様は神様の御使いだったんだねぇ、ありがたやありがたや」


 じーさん、ばーさんは俺を拝み始める始末だ、辞めてくれ! 俺は様付けで呼ばれるようなお偉い方々じゃねぇんだって!


  その晩、オーナガワ村金華山支部は子供たちのジョブランク獲得を祝う祭りが開かれた。


 戦勝を祝うオーナガワ村の浴びるように酒を飲む男祭りとは打って変わって食事会がメインだ。


 そして、夜通し祭りを行うなんてことはなく、日が暮れると子ども達を回収して皆自分たちの小屋へと帰っていった。

    

 大変健康的と言えるだろう。


「ゲオ、俺は明日朝早く船で出るから今日はきちんと自宅に帰れよ」


「えっおやびん俺も連れてってよ」


 こちらを見上げながらそんなことを言ってくるゲオの頭をグリグリなでる。


「せっかくだから母ちゃんに甘えとけ、やっとジョブランクを貰えたんだから自慢して親孝行しとけ」


「分かったよ……」


「フッ、いい子だ」


 母親と共に小屋へと帰っていくゲオを見送って月明かりを頼りに第八豊栄丸へ戻り船へ乗り込む。     


「しかし、忌み子かぁ……」


 フロントデッキに仰向けに寝転がりながら薄曇りを透かす月を見ながら波の音に耳を澄ます。


 波の音は昔と変わらず、ここが未来の世界なのだと忘れさせてくれる。


「はぁ……とりあえず、金山毘古神(かなやまびこのかみ)様の言うとおり気仙沼を目指すか……」


 忌み子のバットステータスがどれほど強いのかわからないが、神様である金山毘古神(かなやまびこのかみ)様が匙を投げるならばそれだけ厄介な物だと考えたほうがいい。


「この世界で生きていくために、忌み子が無かったことに出来るなら早く動くに越したことはないよな」


 自分の考えを纏めるために独り言が増えるのは俺にとって当たり前だった世界から切り離された不安からくるのか、それとも単に歳のせいか……


「あ~、やめやめ! 早く寝よう」


 勢いを付けてフロントデッキから起き上がり

サイドデッキを通りブリッジの前からキャビンに入る。

 

 フロントキャビンへの入り口横にある個室のマリントイレで用を済ませて、なるべく使わないようにしていた温水器を起動してシャワールームで汚れを落とした。

 

 フロントキャビンに設えられたクッションベッドにゴロリと転がり布団を被り目を閉じる。


「おやすみ……」


 ポツリと口からでた就寝の挨拶が……波音に紛れて消えていった。


 翌早朝、夜の闇が薄まる頃に目が覚めた俺は簡単に身支度を済ませると操舵室(ブリッジ)に移動して出航準備を済ませ金華山を出発した。


 ディーゼルエンジンは海流を物ともせずに進むことが可能だが、最短距離で毒海を進んでまたクラーケンのような大魔王魚に出くわすのは避けたい。


 そのため遠回りになるが一度清海に出てから北上することにした。


 千年の間に地殻変動などでどれほど地形が変わってしまったのかわからないけれど、悩んだところで衛星写真や正確な地図がないならば過去の地形を頼りに進むしかないだろう。


 暫く清海を進み、リアス式海岸を左手に見ながら船を進め大島らしき島影が見えたところで速度を落とした。


 金山毘古神(かなやまびこのかみ)様の話では気仙沼に川に祀られる水の神で、すべての罪を海にながしてくれる瀬織津姫(せおりつひめのみこと)様という女神が住むという。


 神道の神様に奏上する祝詞の中の一つである大祓詞(おおはらえことば)で、罪や穢れを祓い清めてくださる「祓戸四神はらえどのししん」の筆頭として登場する瀬織津姫(せおりつひめのみこと)が主神として奉られている。


 大島の左側を抜けて毒海を慎重に進み瀬織津姫神社に近接しているはずの舞根湾があった筈の場所へと進んだ。


 やはり千年の間で舞根湾は風化してしまっているようで船を着けることが難しいようなので比較的接岸しやすそうな、場所を探してなんとか上陸する。


 陸に上がった途端に重くなった身体に、これは『陸神の忌み子』が原因なんだろうなと感じながらも、リュックサックに神饌(しんせん)の基本となる米、御神酒、塩が入った袋と清潔な水が詰めれたペットボトル、他にお供物に出来そうなものを片っ端から入れていく。


 ついでに掃除に使えそうなものも一通り詰め込んだ。 


 舞根湾のあれ具合から見てもしかしたらこの辺りにはもう人が住んでいない可能性すらあるのだ。


 千年前には車道が整備されていた道はすっかり森と化しており、持ってきたサバイバルナイフで手入れがされていない細竹を払いながら進んでいく。


 手元にある千年前の地図帳を頼りに迷いながら進み、なんとかたどり着いた瀬織津姫神社は既に崩れてしまっていた。


 石造りの鳥居が残っていなければもしかしたら見つけることもできなかったかもしれない。

 

「うわぁーこりゃひでぇ」


 とりあえずできる限りの掃除を行い、崩れてしまった神社の前に敷物を敷いて持ってきた神饌(しんせん)を並べていく。


 二礼二拍手一礼にれいにはくしゅいちれいをすれば、作業着の右太腿辺りをクイクイと引っ張られたような気がして目を向けた。


「わらわはせおりちゅひめ、そなたはだれじゃ?」


 俺を見上げる美幼女がいた。 

 

 


   

 

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