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13話『小さな水先案内人』


 船に乗れない頑固魔導技師グレードの突貫工事に多少不安が付き纏うが、翌早朝の港には自らの夫や息子を単身で捜索に向かう俺の為に漁村の母や妻達が総出で見送りに来てくれた。


 どうやらグレードやギーラを連れてシンゲンは昨日の魔魚のうち半数を持って昨夜のうちに藩主が待機している二つ向こうの街まで出払っているらしく、港には現れなかった。


「陸のことはあの人に任せておけばいいさ、もし藩主が攻めてきたら離島に繋がる隠し洞窟から避難するからね、村に誰もいなかったら見つけた男達に聞けば案内してくれるよ、だから必ず見つけ出してきて連れて帰ってちょうだい」


 そう言ってバシバシと俺の背を叩くミチコの懐の広さは体格以上に頼もしいようだ。


 集まった村人の中にゲオの姿がないのは少し寂しいような気がしたが、無事に帰ってきたとはいえ長らく海を漂流したのだ、もしかしたらゲオは体調を崩しているのかもしれないと自らに言い聞かせ納得する。


「これを持っていっておくれ」


「こっちもだよ! 日持ちするから男達が見つかったら食わせてやって」


 次々と漁村の港で差し出される救援物資と言う名の炊いた飯を干した携帯食の乾飯かれいいや乾燥させた野菜や果物、干し肉、飲み物としてや消毒にも使えそうな保存がきくワインや焼酎のような物なんかも次々とミチコの指示で積み込まれる。


 これ……卸した魚の量より多いんじゃないか?


 村の女性陣から寄せられる期待の重さに若干尻込みしつつも、波に流されないよう船を岸に固定していた縄を外せば、船は引き潮につられてゆっくりと岸から離れていく。 


「それでは行ってきます」


「あぁ頼んだよ!」


 漁村の女性陣から声援を受けて、エンジンを稼働させ舵輪を外海に向けてきれば、船がゆっくりと港から離れていく。


「おやびーん!!」


 背後から聞こえてきた声に振り返ればゲオが小さな体で村人達の間を素早くすり抜けて港に飛び出してくる。


「ゲオ!?」


 この漁村にゲオが帰還した時にゲオを抱き締めていた母親らしい女性の声を振り切ってゲオは勢い良く岸を片足で踏み切ると第八豊栄丸に向かって飛び付いた。


 ギリギリで甲板の縁に指の力だけでぶら下がるゲオが落ちないように甲板に引き上げる。


「たく、無茶するなぁ」


「はぁ〜危なかった! 落ちるかと思いました」


 いや半分以上落ちてたけどな。


「おふくろ! 必ずオヤジを見つけて来るから〜!」


 ブンブンと手を振るゲオの服の襟をガシッと掴む。


「はぁ〜、ほら陸に戻るぞ」  


「はぁ!? おやびんうそだ! せっかくかっこよく乗り込んだのに陸に帰すとかやめて」


 ジタバタと暴れるゲオを摘み上げ操舵室へ連れて行く。


「うるせー、暴れんな。 せっかく母親に返したんだぞ」


「気にすんな」


「気になるわ!」


 くそぅ……また陸まで戻んなきゃなんねぇじゃねぇかよ。


「俺を乗せていったほうがいいと思うよ? おやびん、この辺りの海底地形わかるの? 俺をまだこんな成りだけどオヤジを手伝って漁に出てるから詳しいよ!」


「……」


「それにこの辺りは水深が深いと油断してるとベテランの漁師のおっちゃん達だっていきなり強い潮に流される事も有るんだよ!」


「ただでさえアーティファクトの魔導船どころか魔魚や魔石すら知らない箱入りのおやびんが一人で行ったらいくら魔導船だって絶対に遭難する!」


「……」


「この毒海は巨大化して凶暴になった大魔王魚や魔獣なんかも棲息してる! おやびんあいつらの縄張り分かるの? 俺は分かるよ! だから連れてって! お〜ね〜が〜い〜」


 ウルウルと目を潤ませて俺を見上げるゲオの必死のおねだりにバリバリと自分の頭をバリバリと掻いた。


 くそぅ、ゲオみたいな子供はさっさと母親の所に戻したほうが良いのはわかってるのに、ゲオの言ってることも当たっているだけに質が悪いな。


 いくら漁師として長年過ごしてきたとはいえ、ここは俺の馴染みある漁場じゃない。


 場所によっては水深が急激に変化したり暗礁に乗り上げてしまったり、ぶつかれば第八豊栄丸だって無事では済まない。


 船体に穴が空けば良くて浅瀬に座礁、悪ければ沈没だ。


「ぐぬぬぬぅ……」


「俺役に立つよ! みんなが向かった方角もわかるし潮の流れもわかるから闇雲に探すより見つけやすいよ! 役に立つよ、役に立つから連れってっておやびん!」


 足元にしがみつき懸命に言い募るゲオに違和感を覚える。


「本音は?」


「今うちに帰ったらおふくろに尻が腫れ上がるまで滅多打ちにされんじゃん! オヤジも一緒なら俺よりオヤジが標的になる! 頼むおやびんこの通り!」 


 両手のひらを顔の前で合わせるようにして拝み始めたゲオに俺はため息を吐いた。


 ケツたたきは痛いからな、はぁ……俺も一緒に謝れば良いか。


「わかった、わかったよ。 連れてきゃいいんだろ」


「マジで連れてってくれんのか!」


「ただし俺の言うことが聞けないな、海に放り出すからな! わかったか!」


「はい!」


 嬉しそうにはしゃぐゲオを見ながら、眼前に広がる青紫の海を睨みつけた。 


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