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12話『拠点交渉』


 案内された部屋は岩を削り出して作られた空洞を利用した造りで、出入り口は今入ってきた入江側と、部屋の奥に三箇所確認できる。


 全て木製の扉がついているため出入り口、収納、または別の部屋に繋がるのだろう。 


 岩が剥き出しの壁には部屋の高い位置に壁面を刳り棚が取り付けられており、立派な木造りの見慣れた造りの神棚が鎮座している。

  

 部屋の中心には楕円形のテーブルには一番上座に一人座っており、その斜め後ろにはグレードが立ち従う。


 その両脇に二人ずつ合計五人の老人が着席している。


 皆衰えを感じさせない六対の鋭い視線が俺を値踏みするようにバシバシと突き刺さり緊迫した空気が重く伸し掛かる。


 歓迎……されてないよなやっぱり。


 港に一隻もない船、港には女子供と老人のみ、もはや厄介ごとの気配しかない。


 この漁村で何が起こっているのかわからないが、目の前の彼らからすれば、アーティファクトと認識されている第八豊栄丸でのカイトの来航は頭が痛い問題だろう。


 しかし来航したものは仕方がない、何にしたって補給拠点は必須だ。


 足元に発泡スチロールケースを下ろすと、この村の権力者であろう老人たちに向けて深く頭を垂れた。


「お初にお目にかかりますカイトと言うものです」


 先に頭を下げたのは簡単に敵対の意思がないと示すためだ。

  

「頭をお上げください。 ようこそ我が村へ、遭難した村の子供をお救い下さりありがとうございました私はこの漁村の村長兼龍魔組の組長シンゲンと申します」


 そう答えたのはグレードを従えた一番上座に座る老人だった。


 シンゲンに続き同席していた老人たちとも自己紹介を交わしていく。


 組長のシンゲンと若頭のグレード、他の四人の役職は舎弟頭らしい。


 ちなみにカイトの斜め後ろにいるギーラは若頭補佐と言うグレードの補佐役である。


「お近付きの印に持ってきた。 納めてくれ」


 床にある発泡スチロールケースの蓋を開ければ、部屋の中にいた者の視線が一斉に集まる。


「おおっ! なんと立派な魔魚なんだ」


 ツヤツヤとした深い青の背中の皮と対象的なキラキラと光を放つような銀色の腹部、新鮮だとひと目でわかるほどに透き通った瞳の鰹を見て信じられないと言った風情で凝視する魔龍組一同の反応に手応えを感じて内心安堵した。


 この鰹でこの反応なら鮪を出したら驚いてポックリあの世に行きかねないなこりゃ……


「ぜひともこちらの漁村を航海の拠点にさせてもらいたい、俺の船が悪目立ちするなら今停めさせてもらっている隠し港で構わない」


 俺の要求に鰹から目が離せないでいる老人方の代わりにグレードがまっさきに正気に戻った。


「もちろんタダでと言うつもりはない。 

 俺は漁師だから寄港するたびに水揚げした魔魚の中から魔石付きの魔魚を龍魔組に場所代として納めさせてもらう」


「……断れば……」


「他に行くだけだ」


 低いグレードの声に、老人たちも話し合いに意識が戻ってきたらしい。


「条件がある……それによっちゃ場所代はいらん」


 シンゲンはゆっくりと口を開いた。


「今カイト殿が所有している魔魚を買い取らせていただきたい。 また漁に出た村の者達の捜索をお願いしたい……この二つを飲んでくれるなら貴殿が上陸している間、船は龍魔組が守り抜くと母なる海に誓おう」


 船を守ってもらえるのはありがたいが。広い海で測量器が使えない捜索活動は燃料に不安だなぁ……  


「……捜索活動を引き受けるにはこちらからも条件を追加させてもらうが、どうする?」


「条件を聞こう」


 俺の言葉に迷うことなくシンゲンが返事をした。


「アーティファクトの魔導技師を紹介すること、これが条件だ」


 そう告げるとシンゲンはニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、自らの斜め後ろに控えたままのグレードを見やる。


「すぐに見てやれ」


「……わかりました」


 不本意そうに一瞬顔をしかめ直ぐに無表情を貼り付け、つい先程カイトが入室してきた扉へ歩いていく。


 おいおい、大丈夫か? 船の魔導化は現状この世界で生活するなら命綱と言っても過言じゃない。 半端な仕事は困る、魔魚で通貨を稼いでできればしっかりとした技術者が良いんだが……


 俺の不安を敏感に感じ取ったのだろう、シンゲンがフォッフォッフォと笑い声を上げる。


「心配することはない、グレードは根っからの造船技師じゃ、しかもアーティファクト愛と改造にこだわりが強すぎて貴族の子息を殴りつけ目をつけられてこんな所で燻ってるがの」


「あいつらの船の扱いが悪いだけだ、殴って何が悪い」


 不機嫌を隠しもせず舌打ちするグレードにシンゲンが肩をすくめた。


「この通りの頑固者でな、腕は確かじゃから安心してもらって構わない」


 不安しかねぇよ……


「チッ、ほらさっさと案内してくれ、こちらは人命が掛かってるんだよ」


 柄悪く、荒々しく部屋を出ていくグレードに続いて俺は部屋を出た。

 

 入港し岸壁にしっかりと固定された第八豊栄丸を見つめ重い沈黙を保ったまま動かないグレードの様子をしばらく見ていたが、動きそうもないため俺はその横をすり抜けて船に乗り込む。

 魚を買い取りたいって言ってたよな……いっそのこと全部卸すかな。


「ギーラさん、船から魔魚を出しますから入れる物ありますか?」


 グレードの様子を心配そうに見ていたギーラに声をかける。


「ちょっと待ってくれ、この木箱で良いか?」


 ギーラがもってきたのは五十センチほどの木枠を組み合わせて作った木箱だった。 


「それで良いですが、一つでは無理なので同じものを……あ〜……五つ下さい」


「五つも!? わっ、わかった直ぐにもってくる」


「あと水槽……水を貯められるものもっ、てあ〜……いっちまった」


 既に捌いてある分だけで木箱五つ、生簀の中にいる生きた魔魚の数を聞く前にギーラは走って行ってしまった。


 生簀の分どうするかな……まぁ直ぐに死ぬわけじゃないし次回で良いか?


「おいあんたに聞きたいことがある……」


 カイトが掛けられた声に顔を上げればさきほどまで真剣な顔をして第八豊栄丸を睨んでいたグレードと視線が合う。


「おう、なんだよ」


「この船、アーティファクトだが色々おかしいんだよ。 本来なら人工遺物アーティファクトは何千年も前の物で保存状態がいいものでもこんなにきれいなわけがねぇんだよ」


 そりゃそうだ、アーティファクトなんて大層なもんじゃなく俺の愛船だからな。


 次々とプラスチック製の籠に魚を入れて船から降ろし、シンゲンに手伝いに呼ばれたらしいふくよかな壮年の女性はミチコと言うらしく、シンゲンの奥方らしい。


 ミチコは続いて港にやって来た女性たちにテキパキと指示を飛ばしてギーラが運んできた木箱に手際よく入れ替えていく。


 魔魚は魔石を抜くと鮮度が落ちる速度が上がるため、急いで干物に加工する必要があるらしく、積み替えられた魔魚が次々に担ぎ手の女性たちによって外へと運び出されていく。


「俺に聞かれてもなぁ……この船は死んだ爺さんから引き継いだものだからよくわかんねぇんだよ」


「これだけ見事なアーティファクトに無関心とかどんだけだよ」


「グレード! そんなとこでボザっと突っ立ってる暇があるならさっさと船上に言って魚降ろすの手伝いな!」


 納得行かないと言う雰囲気を醸し出していたが、ミチコから激が飛ぶと慌てて船上に上がってくる。


「さっさと降ろしとくれ、この魔魚に娘達の純潔がかかってるんだ! キリキリ働きな!」


「はっ、はい!」   


 その声にグレードが素直に動き始めた。

 

 うへぇ、シンゲンさんの奥方は恐いな。


 作業する手を休めずに、まるで背中に目でも付いているかのように、グレードやギーラを容赦なく扱き使い見事に采配するその手腕と周囲の慣れっぷりにひっそりとこの村の権力者の順位を上げる。


 女性が強いのはどこも一緒だな、表向きは男性を立てているけど、世話になった漁師の奥さんたちは上手に旦那方を煽てて動かしてたよな。


 この漁村でも女性方には逆らうまいと心に決めて、ひたすら魔魚を卸していく。


「ミチコさん、生きた魔魚はいりますか?」


 恐る恐る声をかければクワッと目を見開いて俺に振り返りあまりの迫力に気圧されかける。


「ギーラ! 今すぐに空いているワイン樽持ってきな!」


「はっ、はいぃぃい!」


 ミチコの指示に慌ててギーラが飛び出していってすぐにドタン、ガシャンと何かが倒れて崩れる音がしてミチコさんが呻く。


「本当にギーラはいつになってもドジっ子なんだから、ユウコ! 代わりに行ってきておくれ」


 いい年したギーラをまるで子供扱いするミチコにユウコと呼ばれた女性が作業の手を止めて立ち上がった。


「もぅあの人ったらそそっかしいんだから」


 そんな会話を聞きながら、気配を消しこちらに火の粉が飛んでこないように祈り、黙々と作業した結果、現れた時と同じく魔魚を持ってあっという間に引き上げていったミチコの手腕に舌を巻く。


「はぁ……やっと終わった」


 フラフラと船上で動き出したグレードが危なっかしい。


「おい、大丈夫か?」


「大丈夫だ、出来るだけ早く男達の救助に行ってもらいたいからな」


 いや、そんなフラフラで船を弄れたくないんだがな。


 内心で不安に思ったが、グレードの魔導技師としての腕は悪くないようで、応急処置として万が一今ある燃料が切れた場合に魔石で動かすことが出来るように簡易改造を施してくれた。


 エンジン回路に不自然に繋がれた瓶と配管に首を傾げる。


「もし燃料が切れたらこの装置に魔石を砕いて入れて真水をこの線まで入れてくれ、魔石が水に溶けて赤色になれば魔石水のちからで船を動かせる」


「動かなかったら?」


「諦めろ」


 はぁ!? 遭難するじゃねぇか!


「よしアンタも船に乗ってくれ」


 技術者が一緒ならいくらかマシだろう。


「すまないがそれは出来ない」


「なんでだよ」


 そう問い返せば、グレードが黙り込んだ後ボソリと呟いたが、うまく聞き取れず聞き返せば、開き直ったかのように胸を張る。


「俺は接岸した船には乗れるが、岸から離れると船酔いが酷くて乗れねぇんだよ!」


 あ〜、俺の反対なのね、苦労してんな。


 しょうもない事でグレードに対して妙な仲間意識が生まれた瞬間だった。   

 



  

 

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