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もののふの星 リブート  作者: 梶一誠
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『百家の災厄』事件と火星移住計画の顛末

この回から少しの間は主人公らの世界が如何にして発展、新たな惑星開発へと至ったのかと言った話が中心になってきます。

ただ、地の文だけでダラダラ書き綴っても飽きられてしまいますから、随所にルナンとアメリアの会話を盛り込む形にしてみました。

火星移住とその後のターニングポイントとなった『百家の災厄』事件が如何なる状況下で発生したか?

今回もカラー挿絵を用意してみました。

後書きには地球ー火星往還型宇宙船タイタンⅡ牽引型の詳細図を添付してみました。

 アメリアはリング型ソファに大きく足を拡げ、肩で息をつきながら

「さっきの事はよぅ反省せんといかんべさぁ」と、すぐ隣で仰向けにひっくり返っている金髪ソバカス女に口調を和らげて諭した。

 これに当のルナンは薄暗い天井部に向けて“えへへ”と不気味な笑い声を発している。

「おめぇは気づいてねぇみたいだが、ケイトはなやっと自分の理解者を得た。そんな気持ちでいるかも知れねえんだよぉ」

 更にこう続けた。

「撃沈マークの✕印を付けられても『スゲェぞ! やるなぁー』ってはしゃいでいたっぺな。それをケイトはな、嬉しそうに見つめていたんだど」と、相棒の膝小僧を軽く叩いた。 


 ルナンはそれを合図にがばっと身を起こし、アメリアの鼻先までいきなり顔を近づけ

「アメリア、やっぱりケイトは凄い奴だな! 誰もが()み嫌う研究に挑んで答えを出したんだぞ」と、先刻とはうって変わって満面の笑みを浮かべた。

「お、おう……」

 これにアメリアは少し身体をのけ反らせて頷くのみ。

「オレはアイツが欲しい! あの子に一〇〇機近いドローン大隊いやドローン機動艦隊を任せてみたい! 戦争形態に革命が起きる! 世界の趨勢(すうせい)が動くんだ」

 ルナンがたれ気味の目尻をさらに下げ、鷹のような碧い眼を爛々(らんらん)とさせているのをアメリアは冷静に見つめて

「で? 何するつもりなん?」と問えば

「なんかぁ~でっかい事ぉー!」ソバカス女は嬉々として両手を胸の前で大きく広げて見せた。

 

 相棒の白い歯を覗かせる子供のような笑みをアメリアは慈愛(じあい)(まなこ)で見つめ

「おめはいつだってそうだ! 夢だか野望とかが先走るっぺよ。バカタレ」と、言ってから肩を抱き寄せ

「だけんど、おらぁおめのそういう所嫌いじゃねぇ」

 スカーフェイスの姐御(あねご)は肩に廻した手を伸ばして上官だが妹分でもある友の頬を軽く(つね)った。

「夢の無い人生なんてつまらんぜ……」と、ルナンが唇を尖らせれば

「夢じゃ人は腹一杯にならねぇの! 先ずは足場固めるのが先決だでやぁ」と、言うなり今度は抓った手でルナンの頭をゴシゴシ撫でながら

「いいかぁ~次の当直に入ったらケイトに自分からしっかり詫び入れろやぁ! おめの(ため)だかんねぇ」と、ルナンに微笑んだ。


 ルナンは神妙な面持ちになって何度も素直に“うんうん”肯いてみせてから

「なぁアメリアはなんでこんなオレに親身になってくれるん?」こう尋ねれば

「士官学校時代に世話になった経緯(いきさつ)もあるにはあるんだがぁ……それより」と、アメリアは少しはにかんでみせ、真顔でルナンの両頬を手で包み込み

「なんとも不思議な(つら)しとる。おらとは比べ物にならないくらいでっかい(もん)背負っとるのかもしれん。何とかしてやらんといかん! そんな面構えしとるんよお前はな……」と、言った。


 そして、頭上を見上げ自分たちに注がれるLED灯の光に目を細めつつ

「ケイトも同じだと思うぞ。あの娘も誰かの期待か願いっつう物を抱え込んでる……そんな風に見えるんよ」と、呟いてから一度優しく包んだ親友の頬をつまんで横に引っ張り上げこう言った。

「だからおめが支えになってやれって言うの! わかったか」

ふぁい(はい)! わはりゃまひぃた(わかりました)~」

 これを耳に留めたアメリアは豪快に笑い、ルナンの肩を乱暴に叩いては自分の方へと抱き寄せたのだった。


 それからしばらく二人は、ハーレムの天井から吊り下がる大型液晶モニターに映し出されている火星の映像をぼんやりと眺めていた。

 やがてアメリアが口を開いた。

「参ったべさ! まぁーったく眠れん!」

「姐さん、えろうすんまへんな」と、ルナンが返せば姐さんは“ま、いいけどよ”と呟いた。


 それから少し間があって再びアメリアが

「しっかし真っ暗だなぁ」と、鼻筋に銃創の残るスカーフェイスをソバカス女に向け、薬指の一部が欠損した左手でモニターの惑星を指さした。

「そりゃぁ今『ルカン(鮫)』と艦隊は火星の夜側に入ったからなぁ」

「そうじゃねぇ! なぁルナンよ。本来ならオレらの母なる惑星には幾つもの植民市が建設されて、夜でも街の灯が見えてもおかしくねぇはずだよな」と、言ったのだった。


 普段は律義で一本気、武辺一点張りかと思われた姐さんの意外な発言にルナンが目を丸くさせている所へ彼女が矢継ぎ早に尋ねてくる。

「いったい何年になる?」

「……へ?」

「我らのご先祖が青く美しい地球を進発して、この惑星を新天地にしようとしてからだよ」

「ざっと一五〇年くらいかな?」

「情けねぇよな。それほどの時間と膨大な費用と労力をかけても、オレらの言う『本土』には未だに一つの植民村も建設されてねぇってのはよ」

「無理もないよアメリア。火星の大気中にはあの悪魔が今も潜んでいるんだぜ」

「……見えない死神。……あれか」

「『ブロウ・ド・マルス』。火星の処刑人と呼ばれる致死率九五パーセントのウィルス! それを産み出しちまったのもまた人類さ」

「どげな事件だったかや? おら歴史苦手」

「『百家(ひゃっけ)の災厄』。火星統合暦が施行される前、地球西暦二〇八〇年頃だよ」


 ここまで訊いたアメリアはニヤニヤしながら、ソバカス女の顔を覗き込むようにして 

「そこいら辺の所……話して聞かせろやぁ」とのリクエストをしてきた。

「おめはこういう分野得意だべ? 寝物語の代わりに聞いてやっからよぉ」と、また艶やかな金髪をぺしぺしと叩く。

「ええ~⁈ マジでぇ~」


 一度はしかめっ面したルナンであったが、咳払いを一つ。人類初の惑星移民事業の顛末を語り始めたのだった。


              ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


『百家の災厄』は火星を新たな人類の版図(はんと)として改造を試みた惑星移住者たちにとって決して忘れ得ない、壊滅的被害をもたらした忌まわしき大事件として記憶されている。


 人類史上初の惑星移民が夢物語でなく現実的な世界的事業として脚光を浴び、先進国を始め各国が(こぞ)って名乗りを挙げた背景には、地球西暦二〇五〇年代に本格的な人類全体の脅威となった環境異変にあった。


 二一世紀の初頭から各分野の有識者たちが警告を発していたにも(かか)わらず、当時の為政者たちと資本家らは問題の本質に目をつぶり目先の経済効果を追求し続け、半ば放置したツケは大きすぎた。

 世界規模の海面上昇が沿岸部大都市を(ことごと)く水没させる事態に至り、初めて国連主導による対策案が二つ提示された。


 一つは内陸部の地下都市建設計画。

 あと一つが火星への移住入植計画であった。


 技術的に裏打ちされ実現性の高かった地下都市建設はどこか逃避、あるいは末世的なイメージが伴うのに対し、火星への移住は未来への限りない飛躍を想起させるに容易(たやす)く、世界を牛耳る資本家陣はより派手でキャンペーン効果の大きい移住案を強く推した。

 これには子飼いの民間宇宙船舶建造会社等への大規模な投資と株価高騰を狙ったゴリ押しであり、資本家の徒弟(とてい)同然たる為政者らは自国に増え続ける難民対策にかこつけて諸手(もろて)を挙げたに過ぎなかった。

挿絵(By みてみん)


 世界がのっぴきならない段階に至ってもなお、その富を(むさぼ)る一部の人間たちが己が係累の利益を優先させ、遂には全人類の未来を決めてしまったのだ。

 世界中がこのキャンペーンに沸き立つ中、十代の頃より高名だった環境活動家はこう述懐している。  


「一連のゴリ押しは必ずどこかで破綻するでしょう。それがどこで起きるのかのかは私にも分かりません。ただ判っているのはあちらで起きた事なら、世界の為政者は知らぬふりを決め込むという事だけです」


 事実、政府関係者並びに世間に名の知れた有産階級の一族は誰一人として、宇宙の海を押し渡った者はいなかった。


 そして地球西暦における二〇八二年の事。


 これまでの様々な問題をクリアーしつつ、何とか植民事業が軌道に乗り始めたと思われていたこの年に危惧は現実となった。


 当時、火星開発の最前線基地として改造された衛星フォボス。この地に『火星移民管理局』が二〇六〇年代から活動していた。

 管理局が火星本土に生活基盤を築いた移民者に対し、惑星環境に重大な影響を及ぼす恐れがあるとして禁止していた項目がいくつかあった。


 その中に不慮の事故、或いは加齢により亡くなった人の遺体を荼毘(だび)に付す事無く、土葬を行ってはならないという事項が存在した。

 もちろん多種多様な民族で構成された移住者たちは入植前、誓約書に禁止事項を尊守する旨のサインした上で火星に降り立ったわけだが。


 中には遺体を焼却する事自体一族の宗旨(しゅうし)(そわ)ないという理由から、禁止項目を無視して実力行使に出た一族があった。その数約一〇〇に及ぶ家族。故に『百家の災厄(ひゃっけのさいやく)』と呼ばれる。


 彼ら一族は遺体を焼却処理せず埋葬しただけにとどまらず、ご丁寧にも掘り返されないよう広範囲に分散させ、埋葬箇所の偽装まで行ったのだった。そしてその一族郎党は人跡未踏の何処かに姿を隠してしまい、遂には行方知れずになってしまったのである。

いかがでしたでしょうか?時代設定はそれほど遠くない未来の設定にしてみたのですが、実際はもう少し遅れて実現可能になるのでしょうか?

書いていてそんな気がしました。

次回は『百家の災厄』の発生とその顛末に絞って話は進んで参ります。

 それでは今回のイラストです。

地球ー火星往還型宇宙船タイタンⅡ牽引型です。

挿絵(By みてみん)

 この大型宇宙船は本編イラストのように、長大なコンテナ群を牽引して火星まで運搬するために国連主導の世界統一規格で建造された宇宙船。

 所属は国連航空宇宙軍なのですが、往路のみでコンテナ群を火星の衛星ダイモス基地近傍で切り離すと、そのまま地球への帰還軌道へと入ります。

 一歩も衛星基地に立ち寄る事無く。どうやら防疫の観点からと憶測されています。

その後は建造を担った地球五大連邦宇宙軍の所属に戻り独自の機密扱いのルートで地球を目指すのです。

 往路(行き路)は4ヶ月半をかけますが、復路は約90日で帰還が可能な高出力核融合パルスレーザーエンジンを搭載しています。

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