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もののふの星 リブート  作者: 梶一誠
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We never surrender! ~我ら降伏するを由(よし)とせず~


「そうなんです。それを説明できなくって、ありがとうございます博士。それでその空間透過率を補完しているのが、自分が観測した正確な五角形を維持し続けている飛翔体にあると確信しました。それらが『ベーオウルフ』の船体を電子の壁、位相波スクリーンで包み込んでいるんです」

 今の今まで、黙りこくっていたジョンスンはここに来て一気にまくし立て、大きく息を付いた。


「位相波スクリーンか……猟犬(ハウンド)はその中からこちらの動向を探っていたわけですな」安井が渋顔(しぶがお)で唸ると

「手品のタネ明かしみたいだ。てっきり私は亜空間転移でも可能にしたのかと思っていましたよ」ロイドが腕組みしてニヤニヤしている。

「それが可能なら、とっくに人類は太陽系の外へ旅立つ算段ができるでしょうにね……」ケイトは(かぶり)を振りながらどこか残念そうに呟いた。


 そこでルナンがいきなり両手を鳴らして話を軌道修正。ジョンスンに報告の続きを促した。


「そこで自分は『ダ・カール』が撃破された時点から『モンテヴィエ』爆沈時までの観測結果を解析。移動経路を割り出すことに成功しました。問題の五角形は全部で三セット。高さ約一〇〇メートル、長さ八〇〇メートルの五角柱形状を維持しながら移動し続けています。自分はこれを“ペンタゴンフィールド”と名付けました。……これがそのトレース図です」


 ジョンスンは皆の前のテーブル型液晶パネルに、『ルカン』と今は無き『ダ・カール』の位置、そして問題の五角柱エリアを時系列で映し出した。


 現時刻から約六時間前の位置関係では、二隻のフリゲート艦がほぼ同位置に重なって表示され、そのポイントに向かって楕円軌道を描きつつ接近してくるペンタゴンフィールドの動きが再現されていた。そして、二隻とそのエリアが直交した位置関係になった途端『ダ・カール』を示す光点がふっとかき消えた。


 その再現記録を見つめる全員から一斉にざわめきが沸き起こった。


「猟犬が攻撃兵器を放ったポイントは約五キロメートル付近。ごく至近距離からの攻撃であったと推察できます。そこまで接近されても我々は敵の存在に気付くこともできなかった訳です」

 報告を終えたジョンスンは安堵からか大きく深呼吸しては額の汗を拭う。


「良くやった! ジョンスン。猟犬の具体的な動向をつかんだ貴重な情報だ。天体観測マニアも伊達じゃない」と、未だに表情の硬い黒人青年を賞賛したルナン。


「自分も坂崎先輩の仇を取りたくって。仕事には厳しい人でしたけど、先輩はぁ……要領の悪い自分に親切にしてくれていたんです」そう言うなり彼は俯いたまま周囲を(はばか)らず泣きだしてしまった。


 彼の嗚咽が所内の空気を渡り、そこに居合わす誰もが武運拙(ぶうんつたな)く鬼籍に入ってしまった仲間の記憶を辿り、沈痛な面持ちとなった。ルナンもその場で目を伏せるとそっと鼻に詰め込んだティッシュを取り去り、背後を振り返った。


 彼女の碧眼は今や主の代わった艦長席に向けられた。その黒革シートのしわとくぼみが故人となってしまった前艦長ムーア少佐の残影を思い起こさせた。


 ルナン自身彼の生前は近づくのも嫌がり、影では“むっつり親父”と綽名(あだな)をつけては兵卒たち、同僚相手と軽口を叩いていた。


 一介の中尉でしかなかった自分が、今や艦隊司令の任を担うようになって初めて、ムーア艦長が判断に迷い、苦しみながらもたった一人で『ルカン』と全クルーを守ろうと奮闘していたことに改めて気付かされた。


 任は引き継いだものの、重責に耐え切れず不遜な態度を部下の前で(さら)し、不安に陥れた。その挙句、アメリアに(なだ)めてもらうというお粗末さだった。


 さらにはクラーク少尉を凶行に走らせたのも、突き詰めれば自分の不甲斐なさに全ての原因があったとの思いに至った。


 黒革の艦長席が静かに自分にこう語りかける。

「常に問え! 何を為すべきか。(おのれ)が何者であるかを」と。


 ルナン・クレールはその場できれいな回れ右をし、艦長席と相対した。背筋を伸ばし、制服の縫い目に指先を合わせ、腰を深々と折る最敬礼を上官の英霊に捧げた。

 その姿に促されるように、発令所の全員が艦長席に向かって海軍規範に(のっと)った敬礼をした。ケイトも丁寧にお辞儀をし、皆に倣った。


 今まで喧騒としていた発令所を、厳かな静寂が満たしたのであった。


 ルナンは身を起こし、ジョンスンに向って

「ジョンスン二等兵曹。この艦の乗員を代表して改めて礼を言わせてもらう。君の涙を見て、私が事態の対処ばかりにかまけて、亡くなられた方々への礼儀と感謝を忘れてしまっていた事に気付かされた……。ありがとう!」


 ジョンスンは大いに恐縮して何度もかぶりを振った。それから申し訳無さそうに

「一度は捉えたペンタゴンフィールドの動きなんですが、『モンテヴィエ』の際に電磁パルスの影響を受けて…残念ながらロストしてしまいました」


「そうか。どうしたものかな、それは……」今度はルナンの方が腕を組んで考えこんでしまった。


 せっかく捉えた猟犬(ハウンド)の足取りが、深い森の暗がりに溶けていくかのようで自然と周囲の面々の顔にも落胆の色が浮かんで来ていた。


「大丈夫! 追えるわ」声を上げたのはまたしてもケイトだった。彼女はルナンを見据えてから

「報告が遅れてしまったけど、ジャンにライオンハートへアクセスさせ、発信されている不特定信号を解析させていたの。……すみません」


 ルナンはこれに笑顔で応え了承した。


 ケイトはルナンの傍らでディスプレイをタッチして待機中の一機、電探専用仕様のジャンを呼び出した。

「ジャン、聞こえているわね。宿題はどう? 終わっているかしら」と問いかけると格納庫で待機中のジャンが船内スピーカーを通して答える。


「遅かじゃらせんか。何しよったんさぁ?」

「こっちもいろいろ大変やったと。よか? 今から言うとおりにしやんせ。先ず、こっちのディスプレイん情報をあたのメモリーに取り込んで、観測結果をリンク。あてらが解る様に表示させやんせ。よかな?」


「うん! これやなあ。解るじゃ。こん位置情報とボクの記録をリンクさせて見すればよかどなあ? おしっ! 結果を再表示すっでぇ」


 言うが早いか、発令所中央のディスプレイ上に表示されている五角柱の頂点である合計十五箇所から、赤色で通信の授受、時間、方向が表示され始め、それらは見る見るうちに五角形の柱状を覆いつくすほどに埋め尽くしていく。赤い光点群が画面の中を時系列に沿って軌道を描きながら移動を続けていくのが手に取るように解った。


「すげぇ、ビンゴ!」とロイドが喜びの感嘆を上げた。


 それは完璧にジョンスンが観測したエリアと重なり、この現象が人為的な意図ある行動であることが証明されたことになる。


 その光点群はジョンスンが見失ってしまった後の航跡にも存在を示し『モンテヴィエ』が撃沈されたポイントでは一層活発な送受信が行われていることを表示させていた。


「凄いな。これは」ディスプレイにかじりつくようにして動きを追う安井機関長が呟く。


「で、これを行っているのはやはり?」と、ルナンがケイトに問う。


「ドローンよ。ある種のリモートね。ああして絶えず交互に位置情報を交換してはステルスシールドの効果を保っている」

「……ある種の?」

「珍しいタイプね。全ての送受信を一つのアカウントに統合、しかもタイムラグがほとんど見られないわ」

「そこから何が読み取れる?」

「考えられるのは一つだけ。人間の脳幹を介してのダイレクトコントロールよ! 複雑かつ繊細なこの位相差スクリーンを維持するのに、通常のチーム編成では困難なのよ」

「……十五機を一人でかよ?」

「私たち『文明を担う者』とは対局にあるシステムよ。説明は長くなるから控えますが、これは今現在でも相当な負荷が掛かっているわね」

「もし、オレが不意打ちを仕掛ければ?」

「間違いなくパニックを起こすわ。この施術者(コンダクター)は卒倒するかもね」


 ルナンは安井の時と同じく老獪(ろうかい)とも言える不気味な笑みをケイトに向け

「感謝するよ。これで最初の一手が決まった!」と言った。


「あた、さっきとは雰囲気が変わりもしたね。どげんしたんかしら?」ケイトはぐいっとルナンへ顔を近づけて

「アメリアどんとないがあったんよ? 教えやんせ」こう囁けば

「そいはぁ内緒でごわっす」ルナンは舌を出しておどけたように頭をふらふらさせた。次に真顔になると

「でも、君のビンタで何もかもスッキリしたのは本当だよ。これも併せて感謝する」と、告げてもなおも不服そうなケイト。


 ケイトはまだ何かを聞き出そうと、相手をねめつけていると

「あのぉ~ちょっといいですかね?」との声が。


 周りの男たちを掻き分けるようにして前に出てきたのは航法士官のジュディ・ベルトラン少尉だった。

猟犬(ハウンド)は稼働を開始してからは目立った加速を行ってはいないようですね」

 テーブルディスプレイの端に顎を乗せる、この船では一番背の低い彼女は“ごめんなさいよ”の断りを入れてから自前の台座に乗り、ディスプレイ上の例のフィールドを指差しながら

「こことここ。大きすぎる曲線軌道を描いています。補助ロケットか姿勢制御用スラスターのみで針路を変換するしかないようです」と、操舵を担う彼女は艦長を前にふんぞり返る。

「ありがとう、ジュディママ。理由は?」と、ルナンが微笑んだ。ベルトランはこれでも立派な二児の母親だ。


「原子炉とエンジンをフル稼働の上で加速させれば微妙なバランスのフィールドを維持できなくなる恐れがあるのと、その噴射剤が含む放射性ガスもドローンの活動にはマイナスですのよ!」と、自信たっぷりの報告を終えた。


「皆さん流石です。現場の方々の知見って凄いのね」ケイトが周囲を見渡しながら感想を漏らすと

「あと一つ。原子炉を稼働させメインエンジンを使えば、どうしても高熱源が察知されやすいですからね」との追加報告を付け加えた、ジュディママは満足げに来た時と同じように“ごめんなさいよ”と、台座を抱えて操舵ブースへと引っ込んだ。


「奴は今、何処にいるのか?」とルナンがディスプレイの位置情報を目で追いながら呟いた。

 これを受けたケイトが最新の猟犬の位置情報を割り出すべくジャンに指示。


 表示されたトレース時間のカウントが0を打った。それを取り囲むメンバーの視線が最終的な“ペンタゴンフィールド”の位置に釘付けとなった。


 それは自分たちの『ルカン』の真後ろ五〇キロメートル付近にピタリとつけていた。


「いよいよか」ルナンがディスプレイを睨みながら小声で唸る。

「もう時間としては四回目の攻撃があって(しか)るべき状態ですが動きがありませんね?」こう発言したのはロイド。

「ケイトの存在に目が(くら)んでるのさ。こちらを拿捕した上に、有名なAI開発者を人質にできれば大収穫。結局海賊の目当てはいつだって“金”だけ。親分子分もねぇ! 金の取り合いに浅ましい連中なんだよ」これはアメリア。


「クレール艦長へ。通信有り。例のフィールド内からと思われます」と、ふいに現場に復帰した天田通信士が報告を入れて来た。全員の視線が通信ブースへと集中した。

「読め」

「『首尾は如何(いか)なるや? 返答されたし。突入準備完了せり』であります」淡々と読み上げるアマダの背に


「構わねぇ『バカめ!(マッド!)』って返してやれ!」こう叫ぶアメリアにルナンは人差し指を口にあててから


「天田こう打て。『共にあがりの美酒(ワイン)を挙げん』とな」指示を受けた天田がタッチパネルを操作する背後へ、ルナンが近寄った。


「いいのか? 天田君。彼の側にいても構わんぞ」と、言えば

「あの人に酷い事をした連中に一矢報いたいんです。私も戦わせてください」

 天田が声を震わせながら、懸命に任務に向き合う姿を捉えると、ルナンは無言で中央ディスプレイへと戻った。


「正に猟犬だな。手負いの獲物に食らいつこうと抜き足差し足で近づいて来やがる! ルナンいやっ、クレール艦長、どうやって逃げ切る?」アメリアがルナンの右隣に移動してから、顔を覗き込んできた。


「イヤだね!」ルナンは凜とした表情をアメリアに向け

「ただ尻尾を巻いて逃げるのはゴメンだ」と、力強く応えた。

 鷹の様に鋭く光る眼差しに、アメリアは思わずニヤリと口元を上げた。


「まだ負けたわけじゃない! 徹底抗戦だ! ありったけの実弾をお見舞いしてやるのさ」


 ルナンは一旦、発令所をぐるりと見まわした。

 居合わす全員の視線を浴びた彼女。先刻までは誰とも視線を合わせられなかった小柄な女性は、今や一人一人の表情をしっかり見据えていた。


「我らはバラック小屋みたいな軌道要塞にしがみ付いて生きてきた人間達の末裔(まつえい)。地球の海も空も水平線から昇る朝日、真っ赤な夕暮れも拝んだ事とて無い『宇宙の鬼子』だ! それでも我らにはここしかない。この(いびつ)な世界が全てだ」


 艦長ルナン・クレールの言葉に誰もが口を(つぐ)み、ある者は大きく頷いている。


「無様であろうがお構いなし。我ら降伏するを(よし)とせず! 全員で必ず生きて帰る! いいな、生きて大事な人の下に帰るんだ。オレにやらせてくれるか?」と、ルナンは発令所全体に響き渡る朗々たる声で自分の決意の程を示すや否や


「「サー! イエッサー」」一斉に気勢が上がった。


 誰もが不動の姿勢を執り “さぁ、ご命令をどうぞ!”と言わんばかりに笑顔で返してくれていた。


 ルナンはたった今、気持ちを一つにして共に困難に立ち向かってくれようとしている部下、更にそれを越えた仲間を見渡し、深々と頭を垂れたのだった。

 次に自分の左隣にいるケイト・シャンブラーに向き直り、彼女の両手を己が両手で包み込むようにして取った。


「ケイト・シャンブラー博士、これまでの私の非礼の数々をお詫びいたします。本当に申し訳ありませんでした」

 ルナンはお辞儀するようにしてケイトの手に額を付け、まるで守護天使に祈りを捧げるように


「どうか、私と我が『ルカン』に乗り組む者全てに手を貸して頂きたいのです。私は全員を家族の下へ帰してやりたい。お亡くなりになったムーア艦長のご遺体をご家族の下へお連れしたいのです。それまではどうか、お力添えをいただけないでしょうか」

 彼女は目を閉じ更に

「もし、博士が協力を拒まれるなら構いません。お好きにしてくださって結構です。三機のドローンと脱出されるおつもりなら、私はお引止めいたしません」と、ここまで告げた時だった。


「ルナン・クレールさん、さっきははぐらかされたけど、アメリアさんに何を言われたの? 真面目に答えて欲しい」ケイトは彼女のミディアムヘアの毛先に手を伸ばして囁く。

「アメリアはね、オレの大事な“ツレ”であり、お姉ちゃんなんだよ」と、ルナンは気恥ずかし気にはにかんで見せるとこう言葉を継いだ。

「お姉ちゃんはこう言った。『お前の心の風呂敷でケイトを包んでやれ! 友達になってやれ! 一緒に歩いてやれ』ってね。私もそうしたいと本気で思っています」


 ケイトは少し目線を下げ、もう一方の手をルナンの頬に当て

「私、今怒っています。なによ! 二人でさぁ……。羨ましいじゃないの。それに……」と、その手でルナンの頬を軽く抓り

「もう! ひどっなか? ここまであたいとあん子達を巻き込んでおいて『好きにせんか』じゃって。……あたいん答えはこうじゃ!」と、お国訛りで答えた後にルナンの顔を両手で持ち上げてから、不意に唇を重ね合わせた。


「!……」ルナンがケイトからのいきなりの接吻(キス)に身を硬直させる。

 ケイトの(かぐわ)しい花の香りにうっとりしながら、ルナンが目だけを泳がせれば、周囲のクルー達は声を失って、目を丸くさせ口はあんぐり。

 ただ一人、アメリアは顔を真っ赤にさせてこちらを睨み、親友の視線に気づくとぷうっと頬をフグみたいに膨らませてそっぽを向いた。


 さらに目線をアメリアの肩越しに向ければ、男共の人垣からこちらを覗き込むジュディママことベルトランが。その姿は森の木々から辺りを伺うリスのよう。

 ジュディママはルナンへ、奥歯まで見えそうな豪快な笑みを作ると、親指を“シャキーン”と立てて、見事な『いいね!』ポーズを決めるとササッと姿を消したのだった。


 ここで、唇を離したケイトはそのまま紅潮した顔に目をとろんと潤ませて


「おまじないじゃ。きっと上手くいくでね。……ホント、不思議な顔だことぉ、つぃさっきまでは憎たらしかて思うちょったんに。今はね、無性にあたん笑顔が見とうてたまらんの。そうさせったぁ一体なんじゃろう?」


 ケイトはルナンから体を離して少し後ろに下がると、気を付けの姿勢を取り、今まで誰にも見せたことの無い見事な敬礼を決め


「ルナン・クレール艦長に申告します。私、ケイト・シャンブラー客員技官中尉と我が配下アクティヴ・ドローン全機命に服します。何なりとご命令を」と胸を張った。


 ケイト・シャンブラーのこの行動に併せるように発令所の全員がルナンに対して一斉に敬礼、直立不動の姿勢を取った。


 ルナンはケイトのそしてクルー達の意気込みを受け、胸にこみ上げてくるものがあったが、それが両目から溢れ出ないようにしながら


「よし! これより反撃を開始する。総員配置につけ。シャンブラー技官中尉、ドローン隊を率いて奴のステルスシールドを破れ!」と声高らかに下令。その号令一過各員が持ち場に走り始めた。


「拝命します。アクティヴ・ドローン全機出撃します。『文明を担う者』の真価をお見せしましょう」ケイトが敬礼を解いた後に、目の前の指揮官が不敵な笑みを浮かべ自分を手招きするを見て


「なんねぇ?」と、近づけば

「ヤンセン! 発見したリキッド型発信機はそのままだと言ったな?」発令所を後にしようとした整備班長を呼び止めた。


「ええっ! その、奴らに感づかれたらマズいと思いまして」

「いい判断だ!」ヤンセンに親指を立てたルナン。今度はケイトに

「おいどん、良かぁこつ思いつきましてん」と、愛嬌たっぷりに耳打ちして、三人はここでごにょごにょ。

 

 直ぐにルナンを除く二人は思わず後ずさりして、ヤンセンが

「あれを使うんですかぁ! イヤだなぁ。触りたくねぇ」と、奇声を上げれば

「それってわっぜ(かなり)ヤバか化合物じゃあいもはんか? 怖ろしい事思いつく人じゃぁ」ケイトも凍えた身体を擦るようにして身震いする。


「あんな物、今使わないでいつ使うんだよ」と、にこやかに語るルナンを一睨みしたケイトは

「ヤンセンさんと格納庫に行きますから」くるりと身を翻らせると、整備班長と共に発令所を後にしたのだった。


 ヤンセン整備班長の後ろから艦内通路を往くケイト。

 少し彼から距離をとると、スーツのポケットからイヤホンを取り出し装着、同じくその内ポケットの携帯メディアを通して

「マークスじゃなあ? 全機出動すっ。準備を。それとDCシステムん尻尾を掴んだとじゃ! よかこと? 戦闘を継続しつつそん発信源を追うとじゃ! 脳波パターンを記録すっとを忘れんで」と、語り掛けるとすぐに機器をしまった。


 そのまま数歩進んでから、立ち止まり発令所を見やるケイトは

「ルナン、ごめんなせね。秘密指令を別に受けちょるんは、あただけじゃなかわ。全てはこんためんお膳立てに過ぎんやったんじゃ」と、呟くとすぐに(きびす)を返し小走りで整備班長の後を追った。

《次回予告》

今、クルーと一丸となって反抗への意思を示したルナン・クレール。その序盤に彼女は大胆な挑戦状を虚空に向けて発信する。その彼女の企みとは?

果たして、これまでの予想通りに猟犬は罠にかかるのか?最終決戦の火蓋が遂に切られる。

次回「反撃するは我に有り!」乞うご期待。

~君は惑星ほし未来あすを見る~


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