7 引っかかり
ツムギが抜けてからすぐ、新しい仲間が加わった。
名前はランザ、経験豊富な冒険者で私たちより三つ年上の男。
背が高くて、顔も悪くない。
ちょっといいかも。
「と言うわけで、今日はお試しってことで同行させてもらうことになったランザだ。このパーティーに入るってほぼ決まってるけど、人には相性ってものがあるからな。まぁ、問題なく行けば何日かした後にはちゃんとした仲間だ。よろしく」
性格もよさそうで好印象。
ちゃんとした福の神になってくれそうで安心した。
ツムギとは大違い。
「自己紹介も済んだんだ。早速行くぞ、今日こそ深層で資源を持ち帰るんだ」
「この前は誰かさんのお陰で収穫ゼロだったし」
「う、うん。頑張ろう」
新たな仲間を加えて心機一転。
ダンジョンの深層を目指して行動開始。
内部に入るとすぐに魔物に見付かった。
数は多いけど、対処し切れないほどじゃなさそう。
まずはランザのお手並み拝見ってところかしら。
その空気を察してか、ランザは一人前に躍り出た。
「新参者で恐縮だけど、僕の指示に従ってもらおうか。いいだろ?」
「いいぜ、実力を見せてくれ」
「よーし。じゃあ、ぱぱっと片付けて良いとこ見せないとだ!」
ランザを司令塔に交戦開始。
先陣を切るのはキルケ、その後に私とランザが続く。
ハルは後方支援。
いつもの決まった形にランザが加わって、初めての初陣が始まった。
そして、それは結果的に大成功を収めた。
「キルケ! 前に出すぎだ、ハルが孤立する! イリーナ、後ろから魔物が来てるから対処に回ってくれ! ハルは今のままでいい! 続けてくれ」
今までになかったくらい歯車が噛み合ったような感覚がする。
私たちが求めていたのはこれだったんだと、確信めいたものまで抱く。
疫病神を厄介払いして、私たちは優秀な司令塔を得た。
やっぱり私たちの判断に間違いはなかったんだ。
「これで最後!」
キルケが最後の魔物を斬り伏せて戦闘終了。
こちらの損害はほぼなし、あっても軽い擦り傷くらい。
これまでの冒険者人生の中でここまでスムーズに戦闘を終えられたのは始めてかも。
「流石だな。俺が見込んだだけのことはある」
「あんたの手柄じゃないでしょ、キルケ」
「俺が誘ったんだから俺の手柄も同然だろ」
「ちゃ、ちゃんと出来てよかった」
ハルがほっと一息を付いたその後ろで、当の本人はなんだか難しそうな顔をしていた。
「ランザ? どうかした」
「んー……いや、なんでもない……先に進もう」
「そう? ならいいけど」
何かを訝しんでいるような、納得が行ってなさそうな、そんな風に見えたけど。
でも、きっと気のせい。
あんなに上手く初陣を飾ったんだから不満なんてあるはずないもの。
「なぁ、俺の前にいた人、前任者? ってどんな人だったんだ?」
「……まぁ、スキルは優秀な奴だったよ。危機察知能力が高かったんだ」
「へぇ、そうなのか。でも、それならよく抜けるのを許したな。引き留めなかったのか?」
「そいつ、並外れた不幸体質だったのよ。一緒にいると桁違いに危険が増えるの。ね、ハル」
「う……うん」
「へぇ……そっか」
さっきからずっとランザが様子がおかしい気がするけど。
「よーし。初陣は上手く行ったし、実力は見せられたってことでいいよな。さぁ、深層に行こうぜ」
かと思ったら次の瞬間には調子が戻ってる。
色々と疑問に思うことはるけど、二人は気付いてないみたい。
折角パーティーが勢いづいてるし、それに水を差すこともないか。
私の気のせいかも知れないし、今はダンジョン攻略に集中しないと。
「ど、どうしたの? イリーナちゃん」
「ううん、なんでもないわ。行きましょ。置いて行かれる前に」
整備された迷路を抜けて深層へ。
滑り出しは順調なのに、この引っかかりはなに?
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