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6 変幻自在


「これが斧で、これが槍、弓と矢に、銃」


 武器の名称を読み上げるたびにラックのふわふわな翅が小さく揺れる。

 手の平からカタログを見下ろす姿はもっちりしていて本当に可愛い。


「銃は構造が複雑だから設計図を用意したよ。出来そう?」


「ラックは出来ないことだらけですが、やり遂げて見せます」


「いいね、心強い」


 テーブルの上に広げた設計図の上をラックは練り歩く。

 いくら移動が困難と言ってもそれくらいのことは出来るようで安心した。

 ラックが設計図と睨めっこしている間、こちらはソファーに身を預けて思案する。

 主に今後のことについて。


「冒険者を続けるなら新しく仲間を募るか、どこかのパーティーに入るかだけど……仲間か」


 今の俺に仲間を作れるとは思えない。

 無理矢理に作ったとして長続きはしないだろう。

 それだけあの出来事はショックだった。

 もう当分は誰かに命を預けるような、深い関係は築かなくていい。

 それはラックで十分、事足りてる。


「まぁ、しばらくは冒険者休業かな」


 設計図の上を這うラックと、その周辺にある酒池肉林の痕が目に付く。

 昨日は生還した祝いに贅沢の限りを尽くした。

 空き瓶やら包み紙やら汚れた食器やらが散乱している。


「とりあえず片付けようか。間違えてラックを捨てないようにしないと」


 ラックの翅がさっきよりもぱたぱたと動く。


「ごめん。冗談だよ、もしそうなってもちゃんと見付けて連れ帰るから」


 翅が動かなくなった。

 よかった、よかった。


「――さーてと、こんな感じかな。お掃除完了」


 ラックもきちんと設計図の上にいる。


「学習しました。完全な再現が可能です」


「ホントに? タイミングばっちり、優秀だね。ラック」


「ラックが、優秀……」


「そう。少なくとも俺にはこんな短時間で銃の構造なんか理解できないからね。もっと自信を持たなくちゃ。ラックは凄い。はい、復唱!」


「ラックは、凄い」


「そう、ラックは凄い。さぁ、学習のあとは実戦だ。外に行こう」


 綺麗になった自宅を後にしてすこし歩く。

 行き先は寂れて人気のない空の倉庫。

 元はどこかしらの運搬業が使っていたところだけど、今は使ってないみたい。

 石材が苔生していて中は埃まみれだけど人目にはつかない。


「さて、じゃあ行くよ。まずは剣!」


 手の平に集った糸が編まれ、一振りの剣を構築する。


「斧」


 剣が解けて再び編まれ、斧として構築し直された。


「槍」


 再度、得物が解けて長く伸び、身の丈ほどの槍と化す。


「弓と矢」


 解けたそれが二つに分かれ、片方は弓に、もう片方は矢に。

 張り詰めた弦は丈夫で、弓の本体は良くしなる。

 矢を番えて引き絞り、倉庫の壁を狙って手を離す。

 瞬間、短い風切り音を鳴らして矢が目標に突き刺さる。


「いい威力。それに矢筈に糸が着いてるから回収も簡単」


 手元に残った糸を引いて、突き刺さった矢を回収しようと力を込める。


「あれ、なかなか……手強い」


 更に力を込めてようやく矢が壁から抜けた。

 相当に深く刺さっていたみたいだ。


「……これさ、いや今はいいや。ラック次は銃をお願い」


「構築します」


 弓と矢が解けて一つとなり、一丁の銃に変わる。

 矢を射かけた壁に銃口を向け、撃鉄を起こし、引き金に指を置く。

 息を吐いて照準を合わし、指先に力を込めた。

 反動が腕に響き、銃声が倉庫に轟く。

 弾丸は真っ直ぐに矢の痕を撃ち抜いて壁を砕いた。


「凄い、弾丸の軌道も銃声も反動もしっくりくる。ガンショップの需要がなくなっちゃった」


「ラックは優秀ですので」


「いいね、その調子」


 設計図があれば見たことのないものでもこの精度で作り出せる。

 お世辞抜きでラックは本当に凄い存在だ。 

 自分のことを魔物じゃないと言っていたけど、本当にそうなのかも。

 じゃあラックの正体っていったい?

 いや、まぁ、それは追々でいいか。

 今はそれよりも。


「ラック。一つ閃いたことがあるんだ」


 結果的に言えば、この閃きは大成功だった。

 物にするのに時間は掛かりそうだけど、習得すれば絶対に楽しいことになるはず。

 休職中だけど、先は明るかった。


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