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5 地上へ


「よく寝た。ちょっと寝過ぎたかも」


 絹のハンモックから体を起こし、地に足を付ける。

 胸にしがみついて落ちそうなラックを支えてやると、周囲に張り巡らされていた繭が解ける。それらは再び俺の体に絡みついてスーツとなった。


「ありがと、ラック。お陰でよく眠れたよ」


「ご要望とあらばいつでも」


「いいね。さて、と。それじゃあ行きますか」


 うんと伸びをしてから再び地上に向けて歩き出す。

 スキルは発動しない、今のところは。


「ラックってダンジョンの外に出たことあるの?」


「いいえ。ラックは単独での移動が困難なので」


「そっか。じゃあ、きっと珍しいものばかりで目移りするよ。複眼でも足りないかも」


「楽しみです」


 ダンジョンには先人たちの目印がちりばめられている。

 時にマークで、時に矢印で、時に文章で、あらゆる目的地が示されている。

 この先は危険とか、こっちは行き止まりとか、あっちへ行けば地上とか。

 それらに感謝しつつ道を選んでいけば迷うことなく深層を抜けられる。


「あぁ、この平らな感触。石畳みの地面って最高」


 靴底から感じていたごつごつとした感触とはここでおさらば。

 石積の壁に石畳みの地面、正方形の通路とゆらゆら揺れる燭台の火。

 深層が洞窟なら、ここは遺跡だ。


「ここまでくればもう少しのはず。帰ったらアイスが食べたいな。それからステーキでしょ、ケバブにシュウマイ、バーガー、鰻重もいいな。死地を彷徨ったんだし、うんと贅沢しなきゃ」


 今回は結果的になんの成果も得られなかったけれど、大丈夫蓄えはある。

 少しくらい散財したってへっちゃらだ。今日は美味いものをうんと食べよう。

 そう考えると腹の虫が騒ぎ始めたし、待ちきれない気分になってくる。

 足は自然と早足になって四角い通路を突き進む。

 その途中のことだった。

 スキルが警鐘を鳴らし、咄嗟に足を止めた刹那。

 左隣りの壁が音を立てて壊れ、何かが目の前に転がった。

 それが人だと認識した直後、壁に開いた穴を通って魔物が現れる。

 判断は一瞬。

 体は正確に思い通りに行動し、牙を向き出しにした魔物に蹴りを見舞う。

 地面を転がった魔物は直ぐに体勢を立て直し、低く唸りながらこちらを睨み付けている。

 狼に似た造形をした魔物。体調は目測で二から三メートル。

 数は一体だけっぽい。


「無事?」


「は、はい。なんとか」


「なら、よかった」


 ちらりと様子を見ると、服装に破損はあれど目立った外傷はないように見える。

 まだすこしあどけなさが残る顔つきをしていて、たぶん年下かな。


「ねぇ、キミって――おっと」


 ラックのファインプレーが炸裂。

 すでに糸で剣を作ってくれていた。

 それを盾にして魔物の爪撃を受け止める。


「ちょっと! 人が話してたら終わるまで待つって約束でしょ!」


 力任せに弾いて怯ませたところへ反撃開始。

 体ごと捻って繰り出した回し蹴りが顔面にヒット。

 そのまま石積の壁に叩き付けられたところへ畳みかけ、剣の先が首を貫く。

 か細い断末魔の声が響き、壁に磔にされた魔物は息を引き取った。


「ふぅ。危ないところだったね、立てる?」


「大丈夫です。あの、ありがとうございます。助けてもらって」


「いいよ、冒険者は助け合わないと――あー……」


「どうかしました?」


「いや、改めて噛み締めてるだけだよ、言葉の意味をね。気にしないで」


「そう、ですか」


 ぐさっと来る言葉を自分で吐いてちゃ世話ないよね。


「えーっと、キミ一人? そんなわけないよね。はぐれたとか?」


「いえ、私の仲間なら」


「スズネ! 大丈夫!? 今そっちに行くから!」


 壁の向こう側から大声が響く。

 スズネが彼女の名前?


「大丈夫よ、私がそっちに行くから! あの、本当にありがとうございました。何かお礼が出来ればいいんですけど」


「なら、次に会った時、俺が困ってたら助けてよ。それでチャラ」


「……わかりました。次に会ったらピンチになっていてくださいね」


「努力するよ。それじゃ」


 最後に一礼して彼女は自分で開けた穴から向こう側へと渡っていった。


「いいことすると気分がいいよね。ご飯も美味しくなりそう。さぁ、あともう一息!」


 彼女とそのパーティーが無事でありますように。

 願わくば長く長く続きますように。

 そんなことを誰かに願いながらこの場を後にして俺たちはようやくダンジョンを脱出した。

 地上だ!


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