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3/8

3 繭


「そっか。知らないか、そりゃそうだ。人間の道具だもん。剣って言うのは――」


 鈍色の軌跡が描かれ、刃毀れした剣が身に迫る。

 いつもの俺なら躱すので手一杯だけど今は別。

 攻撃の軌道を完全に読んで剣の刀身を紙一重で回避した。


「これ! 今の!」


「学習しました。剣を構築します」


 糸が寄り集まり、幾重にも編まれ、剣として引き締められる。

 構築された剣は、糸で編まれたとは思えない光沢を持ち、刃は研ぎ澄まされていた。


「いいね、最高!」


 淡い光を放つ剣を振るい、残光を引いて暗闇を断つ。

 風切り音は鋭利そのもの。

 繰り出される鈍色の剣撃に合わせて振るうと、リザードマンの剣が半ばから二つに斬れた。


「ヒュー!」


 顔が蜥蜴でも表情くらいは読み取れるもので、目を丸くして驚いている。

 先のない剣を見つめて、視線はこちらに送られる。

 その頃にはもう二の太刀を振るうべく、剣を振り上げていた。


「余所見厳禁!」


 肩から腹部に掛けてを一刀両断。

 鱗も肉も骨も斬り裂いて、リザードマンを斬り捨てた。

 死にゆく刹那、最期の断末魔の叫びがダンジョンに木霊する。

 それは彼方から大勢の足音を呼んだ。


「あちゃー、団体客を呼んじゃった。けど、俺たちならやれるよね。出迎えに行こう!」


 剣を携えて大きな通路に出ると、何体ものリザードマンに見付かった。


「やあ、こんにちは。そこを通してくれるとありがたいんだけど」


 同胞の血の臭いを纏う俺を睨み付け、叫び声を伴って一斉に襲い掛かってくる。


「だよね。わかってた!」


 こちらからも駆けて瞬く間に埋まる距離。

 先陣を切った一番槍のリザードマンを壁代わりにして駆け上がり、最後に蹴りをいれて宙返り。仰け反ったところへ剣を投げて串刺しにし、一体目を処理。


「剣もう一振り!」


「構築します」


 着地と同時に新しい剣が出来上がり、死体を避けて来た二体のリザードマンに刃を向ける。闇を斬り裂いて弧を描いた軌跡が左右両方の胴体を断って二体目、三体目を斬り捨てた。


「貸してたの返してもらうよ」


 勢いをそのままに押し進んで一体目に突き立てた剣を抜く。


「みんな大好き二刀流! やあ、お揃いだね」


 二本の剣を持ったリザードマンを斬り裂いて先へ。

 突進してきたリザードマンの背中を借りて転がるように回避。

 その遠心力を利用して更に一体斬り捨てると、背後に回った個体にも一撃を見舞う。

 そうして最後の一体となったリザードマンも斬り裂いて、目の前に敵はいなくなった。


「フゥ! 最高の気分! キミと出会えてよかった!」


「私も同意見です。貴方を見付けられてよかった」


「いいね、いいコンビになれそう」


 これだけの力を得られたのならダンジョンから抜け出すのも無理難題じゃない。

 希望の光がこのダンジョンの深層まで届いた。


「そうだ、キミ名前は?」


「私は名前を与えられていません」


「そっか。じゃあ、そうだな……ラックってのはどう? 俺たちが会えた幸運ってことで」


「ラック……はい、私はラックです」


「気に入ってくれたみたいでよかった。キミは僕の幸運の象徴。さぁ、一緒に行こう」


 数々の屍を残してダンジョンからの脱出を目指して歩き出す。

 気付けばあれほどうるさく鳴っていた警鐘も静かなもの。

 ラックと会えたことで、それまで危機だったものがそうではなくなったということかも。

 幸運のもっちりしたもふもふだ。


「とはいえ、この辺りで一回休憩を入れないとか。歩き通しだし、どこかにベンチがあればいいけど」


 あるはずもなし。


「休息が必要であればラックが構築します」


 身を覆っていたスーツが糸になって解除される。


「お、おおお?」


 同時に糸は俺を中心として周囲に張り巡らされ、大きな繭を形勢した。


「いいね、流石は蚕。これなら安心して休めるよ。ハンモックもあるし」


 生身の状態になってもスキルが警鐘を鳴らさない。

 この繭の中が安全だという証拠だ。

 本当に心から安心して体力回復に専念できるのは嬉しい。


「よっと。ははっ、肌触りもいい」


 ハンモックに横たわり、その寝心地の良さに驚く。

 すべてが絹糸で出来ているのだから当然と言えば当然。

 考えてもみれば立地を除けばかなりの贅沢だ、楽しまなきゃ。


「腹ごしらえもしとかないと。携帯食料だけど、食べられる?」


「いえ、ラックに飲食の機能は備わっていません」


「じゃあ?」


「ラックはあなたの魔力をいただきます」


「なるほど。じゃあ、食べ放題だ。やったね」


 胸にラックを乗せて食事をとり、そのままゆっくりと瞼を閉じる。

 思いの外疲れていたのか急激な睡魔がやってきた。

 一眠りしたらまた地上を目指そう。


「おやすみ、ラック」


「はい、おやすみなさい」


 ダンジョンの中とは思えないほどすんなりと俺たちは眠りについた。


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