魔法のホウキ
ホウキで空を飛ぶのは、魔女です。宅配ボックスにアップルパイをぶち込むお仕事です。
私は、王女様です。やはりホウキで空を飛ぶのは少し安易すぎでしょう。魔法使いや魔女がホウキで空を飛ぶのはフィクションのセカイだけです。空から城下町を見下ろすと、数人の魔女がホウキで飛んでいます。
フィクションのセカイでした。いえ、異世界ですね。
運搬作業に無駄な魔力を使う魔女たちを見下ろしている私は、ホウキに乗り滑空しています。結局乗っているのです。とても残念で不愉快ですね。
魔女魔女らしい格好にホウキに乗り空を飛ぶ。王女様は馬か男に乗りムチを入れるものです。『溝浚いした臭い足』を『舐め回す変態』にムチを打ち、ご褒美をあげるのが王女様のお仕事です。
『ティリア様!もうお許しください!!この川にはお求めになる流木は見つかりません!』
よし、ムチを入れよう。えいえいえい!!。
「うーん、……無いか……マルク、一旦屋敷に帰るわ。今日採集できた素材は研究室に運んでおいてくださいな」
鞘に収めている剣のポンメルに手を添え、額に上げていたゴーグルを装着した。
私は、風の魔法を発動して一気に加速しました。だいたい時速400km位でしょうか?
――冗談ですよ?
大体、200マイル程の速度で王宮へととんぼ返りします。爆速です。これ以上の速度でも飛べるのですが、『カナブンさん』に当たれば実質、30mmの砲弾を時速300km以上で撃ち抜かれることになるのです。怖いわ。実は一度撃たれています。抱えていたスイカがそれはそれは綺麗に弾け飛びました。魔女が厚手のコートを着ている理由が少しわかりました。
――多分私だけです。200マイルで飛ぶ王女。
急ぎ戻った理由ですが、暴君が大きな声を荒らげて罵られるからです。『またですか!王女様!何度王宮を抜け出せば気が済むのです!』……ほらね。
「だって、爺や……!ホウキに代わるいい素材が無いんですもの」
そう、ホウキで外遊するのを断固として否定しておきます。それって魔女です。ヤマトと提携しているのですか?宅配ボックスに冷凍食品を入れても良いのですか?
『ティリア様!申し上げますが、貴方様に勝る速度で飛べる魔女など……このセカイの何処にいらっしゃるとでも!』
爺や、まだ能力の20%にも到達してませんが?音速を超える事も容易なことでしょう。問題は防護服にミスリル鋼をふんだんに使ったミスリルの鎧が必要ですね。
重くて飛べないですけど。体感で10kg以上の装備を持って飛ぶことは不可能です。何故でしょう?『王女様』なので重いものを運べません。可憐なので仕方がないです。その為の『侍従長のマルク』です。帰りが遅いですね?ムチを入れますよ?。
腰にブラブラしている細剣『シルフィードソード』は800gと、とても軽いです。魔法のカバンが5kgもあります。合わせて6.8kgです。無理です。装備の強化は無理です。 付け加えるなら、魔法のカバンと剣を装備した時点で、並の魔女より少し早い程度まで落ちます。
私自身が身軽なのに?胸囲的に?抵抗が足りないのに?誰ですか?ぶっ殺しますよ?
車輪付きホウキ(仮)を制作すれば、『耐荷重』が大幅な上昇が見込まれるのです。ただ、道に沿って旅をすることになります。急ぐ旅でもないのでむしろ快適性を重視する方へ全振りする算段を立てているのです。引っ張れるものなら、アリスティリア研究室ごと飛ばしましょう。
◯
魔法のほうき自体は庭掃除用のホウキと何ら変わらないです。9割は見た目の問題だけで、長さ・太さ・靭やかさが魔女とマッチングするかどうかです。なんて卑猥なホウキなのでしょう。
では、知識をフルパワーに生かして魔法飛行船でも作ったとします。どこに着陸しますか?魔法で撃ち落とされるのがオチです。未確認飛行物体はとりあえず、落とされるでしょう。
『ちょっと大きな』紙で折った飛行機を魔法で飛ばして遊んでいただけで、火の矢は飛んでくるわ投石をされるわお父様に怒鳴られるわで大変でした。
自分のお城でこの塩対応、他国の上なんて飛んでたら訪問する国々で面倒くさいことになり兼ねません。わざわざ初手で目立つ行動は避けないといけません。将来的に国交を結ぶ際に、『あーら!あの破天荒なお姫様!』的なテンプレは避けていきましょう。
幸いなことに、この異世界にも『車輪』はあるので、自転車自体を作る事は簡単なことですが、細くて軽くて丈夫で良い感じの素材が無いのです。理想はカーボンですが。
文才でもあり、天才でもあった転生前の私でも『カーボンファイバー』の作り方までは記憶に無いです。
さて、どうやってフレームを作りましょうか?