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転生王女の外遊譚  作者: えすろく
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時計の国(中編)

 無詠唱で魔法を2回も発動しましたが、商人さんは気づきもしませんでした。根っからの商人さんです。絶世の美少女である私に助けられたにもですよ?『魔法自転車』と『マジカルテント』にご執心ですか?。目が腐っているようです。爺や!商人を処刑しろ。


 魔法のカバンからポンポンポンポンとレアイテムを出しまくっているとそれはそれは興味を持って見ていました。コット・テント・タープ・シュラフ・チェアまでフル装備です。自転車に過積載ですよ?違法建築です。『魔法のカバン』様々ですね。拝観料は夕食です。商人さん、今すぐ用意しろ。


 商人さんはギブアンドテイクが通じる人で助かりました。食材は少し乏しい状況でしたので。まさかレア食材の『カモ肉のお鍋』をご馳走になれるとは。驚きです。カモは特に高い肉です。貴重なのです。湖を泳ぐ親子のカモを何度も何匹も絞め殺して頂いたことか。もちろん丸々太ったお母さんカモの方ですよ?

 ――もちろん、冗談ですよ?


「美味しい鴨肉のお鍋ですね。ごちそうさま……と思いましたが、折角のスープですこの麺でシメの一杯いかがですか?」

 そう伝えると、私は魔法のカバンから『食材バスケット』に保管している『蕎麦』を取り出しました。

 『湖を泳ぐ親子のカモ』をこのセカイで見たとき、蕎麦を研究を始めました。8歳の時でした。それはそれは大変でした。『ソバの実』に類似した植物を探しました。

 まさか、王宮で食後に出されていたお口直しのお茶が『ソバの実』だったとは。驚きです。発見までに2か月も無駄な時間を費やしてしまいました。ちょっとイラッとしたので、給仕のメイドを娼婦街へ売り飛ばしてやりました。

 ――もちろん、冗談です。


『豊かな食卓こそ、また、富をもたらすのですよ』

 私もそう思います。旅をするならば重要事項です。話は盛り上がる一方ですが、商人さんは胸元から懐中時計を取り出しては戻し、チラチラと確認するクセが多い方でした。『お……もう夜中9時ですね。お嬢さん、そろそろテントに戻った方が良いですよ』夜更かしは美少女である私には『天敵』でしょう。判っていらっしゃる。

 ですが、さすがに9時は少し早めでは?美しい夜空を鑑賞しながらもう少しお話をしたいところですが、商人さんの言う通りテントに入って日記でも書くことにしましょう。


『お嬢さん、この国は初めてですよね?夜11時からは人の時間ではないですので、例え小用を足す場合でもテントから出ない事』

 ご心配無用です。美少女である私は『小用を足す』事は一生ありません。イチゴしか食べないのです。先程鴨肉をたらふく食べましたけど。



 そういえば、高速道路には『コーラの容器』に何故か『お茶』が入ったペットボトルが沢山転がっていたのを思い出しました。私のテントにも『コカの実と炭酸水』で作った液体が入った瓶がありますね。朝にはお茶がきっと入っていることでしょう。一部マニアには高い金額で買い取ってくれるらしいです。買った人はそれを飲むのでしょうか?セカイは謎が多いですね。

 異世界転生して一番悩ましい事。まさに常時登山です。包み隠さずお伝えしましょう。野糞です。前世のセカイでは転生もののライトノベルが多かったです。あのキャラクターは全員野糞です。ですので、必ず食材には火を通す事。これは必須です。フルーツは危険です。危ないです。野糞ピッピです。

 そう、セカイで一番の美少女である『アリスティリア・ラム・メディシス王女』も野糞です。


 超高速展開出来るテントにスキはありません。絶世の美少女である私が野糞するわけないでしょ。商人さんが私のテントに興味をお持ちだったのはそういう事です。

 私のテントの中には、『換気機能付き簡易トイレ・簡易シャワー・リビング・ソファ・コット』と至れり尽くせりです。一瞬で展開したテントに驚く商人さんの気持ちも判りますね。作った私も驚きました。結果、ホウキで旅などとんでもない!幾ら魔法のカバンでも重量オーバーです。重いです。なので自転車の旅です。


 優雅なグランピングを楽しんでいました。一応ですが、私も『時計』というアイテムを念の為に持っています。普段は使うこともなく『魔法のカバン』の底から出すことはあまりないと思いました。商人さんが『10時からは人の時間ではない』と仰っていました。さすがに気になりますよね?もちろん興味津々です。顔だけ出して外を確認したいところですが、親切な私に助けられた『親切な商人さん』に従って大人しくしています。

 カバンから珍しく時計を取り出して『11時』を1分前に確認しました。魔法使いの体内時計は結構正確なのです。私だけでしょうか?


 ふと、私は11時になった時に思い出しました。憲兵さんの『街道から外れるな!』と商人さんの『11時からは人の時間ではない』と。

 妙に引っかかっていたのです。勘繰るのは旅人のスキルとして重要です。

 テントから出ず、表の様子を伺うことは出来ないものでしょうか?それが出来てしまうのです。私は天才ですので。魔法具『フクロウの目』の出番です。


 簡易トイレの換気口からフクロウの目を飛ばしてみました。


 あらあら……特に、何も起きていないようですが……。


 街道から少し離れた場所で野営してる男女ペア3グループがキャッキャ騒いでいるくらいです。どうやら冒険者パーティーのようですね。商人さんの忠告では、テントの中に居なさいとの事ですが。


「あのグループは銀貨1枚を払わなかったのでしょう」

 私と商人さんがテントを張っている場所は、街道と繋がる形の柵で間仕切りがあります。商人さんの勧めで一人銀貨1枚を払い使わせてもらってます。この柵の中なら安全らしいです。

 ということは、あの冒険者さん達のいる野営地は危険なのでしょうか?

 親切な商人さんは彼ら彼女達にも親切に教えていました。あそこに居るということは無視したということです。


 私の優秀なフクロウさんを飛ばしましたが、無駄かと思われたときです。凄まじい勢いです。野盗の皆さんが馬に乗り冒険者の6人の元へ襲いかかりました。あら怖い。大変です!どうしましょうか?大体30名ぐらいの野盗の皆さんです。


 男の冒険者3人はあっさりと首をはねられてしまい、女の冒険者3人はあっさりと野盗共30人の慰み者にされています。現在進行系です。あら大変ですね。一人で10人でしょうか?いやいや沢山の荒くれ者が満足できてませんね。これは危険です。私のテントの方へも来られては。


 そう、30人と冒険者3名の死体が転がることになるでしょう。あら大変。

 フクロウさんで様子を監視していると、数人の野盗さん達は別のところへ行ってしまいました。どうやら新たな獲物を探してるのでしょうか?


 そこの柵を超えて来たら一気に野盗さん達を薙ぎ払って差し上げようと思っていましたが。何とこちらには来なかったのです!


 念の為にフクロウさんをテントの周りで巡回させながら朝まで休むことにします。



 夜が明け、表に出ると、慰み者にされていた冒険者さんは既に居ませんでした。どうやら野盗に連れ去られたのでしょう。不思議なことに殺された3人の冒険者は死体すらありませんでした。綺麗に片付けられています。不思議です。几帳面な野盗なのでしょうか?


『あの冒険者さんは……荒くれ者の時間に表に出てらっしゃったのですね。せめてテントの中で居たら……』

 親切な商人さんの忠告を聞くべきでしたね。テントの中にいても助かったとは思えませんが。少なくとも命は取られないということでしょうか?


 展開していた野宿セットを瞬時に片付けて、旅路に戻ることにしましょう。親切な商人さんは、片付けの速度にも驚いていました。そろそろ私の美少女さにも気づいて良い頃だと思いますよ。


 魔法のカバンを自転車に乗せて『城下町への街道』へと進めていきます。中継地の時計を確認すると午前8時を指しています。どうやら城下町方面への通行は可能のようです。自転車に乗り軽快に城下町へ向かいましょう。


 おっと、いけませんね。忘れるところでした。

「商人さん、色々アドバイスありがとうございました。美味しい鴨鍋もご馳走様でした」

 私はスカートの純白のレースに手を添え、軽く会釈します。


『いえいえ、お嬢さん。貴方が真っ当な旅をされている結果でございますよ。旅は道連れ世は情け。荷馬車を助けてくださいました事を感謝……』

(わたくし)、時の国カール・クオーツの商人、サミュエル・アールストンと申します』


「私は、しがない『田舎領主の娘』、アリスティリア・ラム・メディシスです。カール・クオーツで旅路の支度の際はご尽力くださいな」


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