幸せの国
セカイとは色々あるものです。
ですが、私ほどの美少女には未だ出会った事はありません。転生前も転生後もそれはセカイの果てまで届いている普遍的な事です。きっと、この先も会うことは無いでしょう。
さて、この前の国では大変な目に会いました。『美少女お断り』を明言する国でした。心の狭い王女様が、王女より美少女を入国させないという条項の関所でした。
当然、セカイで一番の美少女である私は入国はできません。危うく処刑されるところでした。まさに存在が罪です。門番さん曰く迷惑なルールだと男性陣は口を揃え語り合う日々です。『貴方のようなステキな冒険者様と一夜を過ごしたいものです』とも仰っていました。
当然、お断りです。ですが、心中お察しします。絵に描くにもおぞましい大ブスの王女様よりブスしかいない国。大変です。まさに事件が起きていないのに事件です。嘸かし貧相な胸なのでしょう。『いえ……この国には貴方様より遥かに大きい方ばかりですね……』
よろしい。この国を滅ぼしましょう。ブサイクな王女様ごと消し去ってしまうことが世界平和に繋がることでしょう。とは思いましたが、そうはしませんよ。私を侮辱した門番さんはオーク顔のホルスタインと毎晩交尾する苦行に耐えていただきましょう。
実際どれ位ブサイク揃いなのかと興味も湧きました。門番さんと軽い押し問答をしている間に『鷹の目』を飛ばし、偵察してみました。驚いたことに、『言うほどブスではない女性』ばかりですね。国民全体がむしろ平均以上でしょう。とはいえ、平均です。私が百点満点であることは揺るぎない事実です。悩ましい。
やはり滅ぼしましょう。平均点なのは顔であって、胸のサイズはとても豊かな国です。門番さんの言うとおりです。不愉快です。あと、門番さんは仰っていましたが私は『冒険者』ではありません。細かい部分を突いた所で入国審査で落とされてしまうので入国を諦めました。だって『セカイで一番の美少女』ですから。
ということがあり、当然、アテにしていた食事や宿は遠く、野宿すること早数日。野ウサギを狩り、木の実を採集する日々を過ごし、やっとの思いで隣の国へと辿り着いたところです。あら大変でしたね。採集スキルと料理スキルが無ければホネホネロックさんです。
さて、この国に私は入国できるのでしょうか?少し不安です。ブサイクな国の隣です。門番さんに入国できるか訪ねることにしましょう。
「こんにちは、門番さん。私、隣の国に入国を拒否されましたが、この国は大丈夫そうですか?」
門番さんに色気を使うこともなく、普通に話しかけました。立ってるだけで美少女パワー全開ですので愛想は必要ないでしょう。『ええ、どうぞ、冒険者様。歓迎します』とのことです。何事もなく、入国を許可されそうです。
丁度、もう一人の女性が入国してきました。『どうぞ、入国を歓迎します。通行料は銀貨3枚ですよ』その女性は通行料として銀貨3枚受け取りました。見た目は……残念でした。一部分が私より少しばかり気になる程度大きいようです。若干不愉快ですね。どうやら隣の国の方のようです。 それより、通行料を支払うのではなく、銀貨3枚貰えるとはどう言うことなのでしょう?
不思議な国です。では、私も銀貨3枚貰って入国することにしましょう。
門番さんに手を出し『銀貨3枚』を強請りました。すると門番さんは不思議な事を言ってきました。『冒険者様……ご冗談を……貴方様は金貨1枚ですよ』
あらあら、美少女である私には金貨1枚だそうですよ。ラッキーですね。ここの門を毎日出入りすれば1ヶ月で30枚の金貨ですよ。たまりませんね。美少女である事が。
「では、金貨をくださいな」
門番さんに告げると、驚いた表情をしました。『いえいえ、ご冗談を金貨1枚支払うのは冒険者様ですよ』何故でしょう。私は金貨1枚を払うことになりました。よくわからないルールですが、やっと辿り着いた国です。宿と美味しい食事にありつきたいですよね。仕方がないので通行料『金貨1枚』を支払いました。納得できませんね。隣の国もろとも滅ぼしましょう。
〇
高い通行料を支払いました。さぞかし良い国なのでしょう。だいたいロクでもないパターンですけど。国自体は普通ですが、少しだけ違和感がある国です。いえ、違和感は確信になりつつあります。隣の国は『美少女お断り』と公言してましたが、普通でした。
「むしろ、この国はオークの国でしょうか……」
女性も男性もそれはそれはブサイクな国です。オーク顔の男女がお手手繋いで仲睦まじいです。見た目で人を判断してはいけません。ですが、あれはオーク顔ですね。残念です。オーク顔のカップルはカフェでひとときを過ごしていらっしゃいます。それはそれは美しく美味しそうな料理を食べながら。私がテラスで食べたほうが華やかになるでしょう。私もこのお店にすることにしました。
丁度、入店を決めた頃合いでオーク顔カップルの二人はお会計を済ませるところのようです『仲の良いお二人に感銘を受けました』と、店員さんはオーク顔のカップル二人に『銅貨五枚』を渡しました。何故でしょう。幸せのお裾分けという迷惑行為でしょうか。丸焼きにしてやりましょう。
でも絶世の美少女である私はきっと『金貨一枚』貰えるかもしれません。先程持って行かれたところですし。
邪な事を考えているのに気づかれたかは知りませんが、テラスのテーブルが片付いたタイミングで『やあ、冒険者様。ぜひテラス席をお使いください』と案内されました。期待していいよね。
席に着席すると、店員さんはメニューを持ってきくださいまして『もしよければ、当店のオススメ、ホホ肉の赤ワイン煮は如何でしょうか?』郷に入っては郷に従えといいますし、オススメに乗っかることにしました。これは期待できますね。金貨も。
メインディッシュの前に、バケットと炭酸水を持ってきてくださいました。なんとオシャレ。まさに私に相応しい待遇です。やはりオーク顔カップルとは華が違います。私がテラス席に着席したあとから、続々とお店にお客さんが入店していきます。効果絶大ですね。いきなり看板娘です。店員ではありませんが看板ですね。さあ、どんどん入店しなさい。金貨2枚でしょうか。
炭酸水は転生前のセカイではペットボトルで簡単に手に入る品ですが、如何せん異世界では貴重です。天然の炭酸泉からしか採集できませんからね。私以外は。私は魔法で錬成すれば作れますので飲み放題です。コーラの実と炭酸で、『大好きなコーラ』を錬成し放題です。ありがとう異世界と有能な能力。美少女で魔法使い。最高です。しかも変な妖精と契約もしてませんし。料理スキル最高です。
『どうでしたか?ホホ肉の赤ワイン煮は』と、店員さんに尋ねられました。
「とても美味しいお料理でした。ぜひ贔屓にしたいですね」
しかも金貨も貰えますし。私がテラス席に座ってからお客さんは10人はお食事を取ってらっしゃいますね。金貨も期待できますね。では、金貨を回収することにしましょう。
「店員さん、ご馳走さま。ではチェックをお願いします」
『はい!わかりました!この度はありがとうございます』と笑顔で店員さんは言い、『金貨2枚銀貨7枚』請求されました。銀貨7枚は店員さんのチップだそうです。馬鹿なのですか?『ホホ肉の赤ワイン煮』で金貨2枚ですよ。
よし、焼き払いましょう。今すぐバハムートを召喚してやりましょう。大気圏でメガフレアです。
ボッタクリバーで揉めて裏から憲兵さんが出て来るパターンですね。美少女である私の貞操が目当てですね。仕方がありません。金貨2枚と銀貨7枚支払うことにしました。
「はぁ……」
美味しく頂きましたが、入国してから金貨が約3枚が消えてなくなりました。ふざけてますね。歩く豚野郎共を……おっと、オーク顔ですね。養豚場へ全員出荷してやりましょうか。一応人間ですので奴隷市場でしたね。
不貞腐れながら街を歩いていると、街の大きな門に『街一番のブサイク人の肖像画』が飾ってあります。あの人は誰なのでしょうか?都合よく『銀貨を3枚貰った残念な女』がいました。
「あの、もし、『肖像画の女性』は誰かご存知ですか?」
『あのお方はこの街で一番残念な方の肖像画であり、この国の女王陛下様です。そして、一番豊かな富をお持ちの方になります。私達残念な民は、貴方様のようなお美しい方より頂いたお金を分配頂ける国なのです。よって、一番のブサイクな彼女が一番お金を貰えるかもしれませんね。それはそれはとても幸せな事だと思います』
あらあらあらあら!それは大変です。セカイで一番の美少女である私が一番搾取されるお国ではありませんか?一刻も早く立ち去りましょう。スグです。美少女である私が一番不幸になるわけですね。では、さようなら。
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金貨3枚で『肉の赤ワイン煮』しか得られませんでしたが。私はその金貨3枚どころか国を手に入れ、永遠にお金を貰える算段がついてしまいました。
そう、この前の国ですよ。その国に入国さえできれば、私は女王陛下ですね一生困らないでしょう。
ですが、そんなつまらない国に用はありません。私にとってそれは幸せとは感じない。やはり、美少女とブサイクな国は焼き払いましょう。
冗談です。
野ウサギでも狩りながら次の国を目指してまいりましょう。