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災、来る~ワザワイ、キタル~  作者: 能登仁彦
7/7

あとがき

 

「主催者のDan」さんから電話がかかってきたのは、原稿を送った数日後のことだった。それは、僕を恐怖のどん底に叩き落すには、十分すぎるやり取りであった。


「能登さん。原稿、やってくれましたね」

「なんのことです?」

「ほら、タイトルですよ。頭文字をとったら。最後に『ん』で終わるんですね」


 電話が終えた時は、まだなんのことか分かっていなかった。しかし嫌な予感がして、急いで送ったデータを見返した。順番に読み、僕は戦慄した。これも、何かの導きなのか?


「トイレの玲子」

「コンビニのある場所」

「夜ごと自販機に憑くもの」

「伸びた首」

「彼岸の門」


 先日送った話のサブタイトルだ。ここから、頭文字と、末尾の文字を抜き出す。この際だから、あのホームレスにならって、濁点も取ってしまおう。


「と こ」

「こ よ」

「よ の」

「の ひ」

「ひ ん」


 しりとりになっていたのだ。最後には「ん」で終わる。主催者のDanさんはそういう意味で言ったのだろう。しかし僕には全く身に覚えがなかったのだ。意図してやったことではなかった。

 一つの小説にまとめるにあたり、なにか題名的なものがあればいいと思った。ワザワイ、キタルは母が語った「僕の書いた小説」からそのままとった。しかし、サブタイトルはオリジナルだ。母の語りではサブタイトルらしきものは出てこなかった。トイレの話、コンビニの話、といった指示語めいたものだけだ。特に考えず、内容に即したものをつけたつもりだった。

 しかし、どうだ。考えてみれば不自然なものもある。玲子は、作中ではずっと「さん」付けなのに、呼び捨てにしている。他のも、もっといいものが浮かびそうなものだ。

 しりとりになっていた。偶然の一致か? そして、最後は「ん」で終わる。これでお終い。主催者のDanさんはそう考えたようだった。しかし……待てよ。僕は結論を出すのを先延ばしにした。最後のタイトル。あれは「門」を「もん」と読めば確かにしりとり終了だ。それで綺麗に収まる。しかし僕は、どうだったか。よく思い出せない。僕は、なんと読ませるつもりで、「彼岸の門」というサブタイトルをつけたのだっけ……。

「門」は違う読み方もできる。そう、「かど」とも読める……。であれば、なんということだ。終わらない。終わりなどないのだ。

 僕までも、知らぬうちに、循環の中へ引き込まれているのか? その可能性はある。僕も、元からこの話の登場人物だったのだから。それこそ、生まれる前から。

 とこよの……。

 常世の。

 僕はもう、すでに。

 どうしようもない残酷な可能性に気付いた瞬間、僕は悲鳴を上げていた。


「おぎゃあ」


 しかし耳に入ってきたのは、叫び声ではなく、赤ん坊の産声だった。それは、僕の口から迸ったもので。

 無限に繰り返されてきた生が、再びその第一声を上げたのだ。



『サイクル』 環






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― 新着の感想 ―
[良い点] 長い首の話が淡々と進み、それでも感覚的に話の先が見えてくるので読んで行くうちに行き先が不安になってしまいます。 なんと高度な恐怖演出! ラストは全て繋がり止まらないトロッコのように謎が解…
[良い点] ∀・)オムニバス形式の怪談雑誌とそれを読んだ感想で構成された面白い感じの作品かと思いきや、裏を返されてきました。なるほど、1つの作品だったとは……しかしそれも最後まで読まないとわからないの…
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