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7、苦手分野


 その日の個人授業では、机の上に三つのぬいぐるみがあった。

 やたらとデフォルメされた細長い猫のぬいぐるみで、全部同じ見た目である。


 脱力系の猫?

 微妙に可愛くない。

 そういえば、この世界で猫を見たことがないかも。

 村で見る動物なんて、ヤギと鶏くらしだったから、愛玩動物がいるってわかると、少しほっこりした気持ちになる。


「今日は、敵を感じ取ってみましょう」


 バハムートはそう言って、机に置いてあるぬいぐるみの後ろに適当なガラクタを置いて、強引に凭れさせた。


「このぬいぐるみのなかには、魔石と呼ばれる、属性石が入れてあります。闇属性の魔石を見つけてください」


 光属性の者は闇属性の正体を暴く。

 それの練習だろう。


 私は、じっと三つのぬいぐるみを見比べた。

 体内の魔力を、闇属性みたいに目に集中して視覚強化に似たことをしようとしたけれど、どうやら光属性の魔力は身体強化に使えないらしい。

 じゃあ、どうすればいいのか。

 考えてもわからなかったので、バハムートにきく。


「どうやるんですか?」

「他の属性にも言えることですが、魔力を使う際、もっとも大切なのは意志です。闇属性を見つけようと、何が何でも見つけてやるという気持ちを強く持ってください」

「はい」


 どれだ、闇属性。

 これか、これか、それともこれか。

 むー、全部ただのぬいぐるみに見える。


「……わかりません」


 しょんぼりと言うと、バハムートは小さく何度か頷いた。


「どのように強く意志を持ちましたか?」

「どれが闇属性だろう、って、探す感じです」

「なるほど。間違いではありませんが……もしかしたらエリアナは、左程闇属性を恐れていないのではありませんか?」


 冷水を浴びせられた気がした。

 きっと顔色が変わっているだろうけれど、隠せないほどに、バハムートの言葉が衝撃だった。


「わ、私、魔獣? を、見たことがなくて」

「そうなのですか」


 バハムートは驚いた様子をみせたが、同時に納得したようでもあった。


「では、この魔獣もご存じではありませんね」


 机の上にいる、脱力系の猫を示した。


「猫じゃないんですか?」

「ネコ? 初めて聞きましたけれど、それも魔獣ですか?」

「猫は、愛玩動物です。ペットにしたりする」

「それは魔獣とはいいませんよ」


 苦笑するバハムートは、ぬいぐるみを一つ手に取った。

 それを私の目の前に突き出して、口をひらく。


「これは、ぬこです」

「……それって、猫のことですよね」

「ぬこです」

「……はい、ぬこ、ですね」

「ええ」


 これまで役に立ってきた前世の知識が、ここで邪魔をし始める。

 猫もぬこも一緒だよ!

 でも、この世界では魔獣なんだって。

 想像しにくいなぁ。


「ぬこはいわゆる、デルに属します。デルのなかでも中級ほどでしょうか」

「デルって、デルっていう名前の魔獣じゃないんですか?」

「デルは、野生化した闇属性魔獣の総称ですよ。ぬこを見て、デルがでた! って叫ぶ人が多いので、ぬこ、という名前はあまり知られていないかもしれませんけれど」


 はぁ、なるほど。

 つまり、肉食動物が襲って来たぞ! って叫びながら逃げてる人がいたとして、それがライオンなのか、ハイエナなのか、ワニなのか、ってところだろうか。


「私たち光属性は、闇属性を敵だと認識しています。なので、見分ける訓練をするときに持つ強い意志は、恨みや悔しさ、復讐心など、デルが敵である、という考え方が基礎になるのですよ」

「……私の考え方だと、緩いってことですね」


 私にとっての闇属性は、自分自身でありフローリリアだ。

 何が危険なのかわからない、というのが正直なところである。


 デルも最初は闇属性を持つ人間だったと聞いているし、私のなかのデルに対する印象は、危険というよりも、哀れな生き物だった。


 好きで闇属性に生まれたわけではないだろう。

 好きで魔獣になったわけではないだろう。

 元が人間だった生き物を、人害だからと忌み嫌うのは、嫌なのだ。


「この感覚を身につけないと、近くに闇属性がいても気配を感じるどころか正体を暴くこともできません。今のあなたには、重大な課題になりそうです」


 なるほど。

 闇属性の正体を暴くことができるのは、光属性のなかでも、闇属性を敵だと認識している人だけなのか。


「あなたならば、簡単にこなすかと思ったのですが。これまで、とても穏やかな生活を送ってこられたのですね」

「すみません」

「謝ることなどありません。デルと対面する恐怖をわざわざ知る必要などないのですから。とはいえ、生徒として学んで頂かなければならないので、特訓をしていきましょう。ここ最近、この近辺でぬこの目撃情報もありましたし」

「この近辺ですか?」

「ええ。春、夏、冬には帰省する生徒が多いでしょう? 彼らが学園に戻ってくる際、無意識に残した属性の匂いを辿って、デルが集まってくるのです。なので、国立特殊学院そのものが山奥に建ててあるのですよ」


 ほほう、なるほど。

 だから常に学院の門が閉ざされて、高い塀に囲まれているんだ。

 実はずっと、どうして誰も外に出ないんだろうなぁと思っていたのだが、これで謎が解けた。


「あれ、でも、校外学習がありますよね? 薬草摘みとか」

「魔獣がいる地域は、資源が豊富ですから」


 そうなのか。

 というか、そこじゃなくて。


「授業中に襲われたら、大変じゃないですか」

「問題ありません。入学する際に、命の保証はないという契約書を全員が書いていますので」

「ふぁ⁉」


 私が知ってる学校じゃなかった。

 国立なのに、デッドorアライブだよ!


 勉強するのも、大変なんだね。


 *


 それから、闇属性の気配を読む練習を繰り返した。

 寮でも自主練習を繰り返すのだが、どうもいまいちわからない。

 フローリリアによると、強い魔力を持つヘルハンターならば、相手の正体を暴くだけで相手を委縮させてしまうのだという。

 過去には、デルを睨むだけで気絶させたヘルハンターもいたらしい。


 おっかない人だよ。

 そんな人には絶対に近づきたくない、と思ったら、バハムートのことだった。


 もう、近づいちゃってたよ。



閲覧、ブクマ、ありがとうございます!

長くなったので、二つに分けました。

(そしたら、ちょっと短くなってしまいました。。)


次の更新も、明日の18時前後ですm(__)m

宜しくお願い致します。


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