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3、おカネって大事だね


 慌ただしく寮へ戻ってきた私とフローリリアは、部屋につくなり座り込んだ。


 僅かばかりの沈黙のあと、フローリリアが勢いよく顔をあげる。


「あのっ、何がございましたの? 闇属性のことが、バレたのでは⁉」

「ち、違う。そうじゃなくて」


 私は、しどろもどろになりながら、何があったのか、話した。

 変な言葉遣いになったけれど、フローリリアが聞き返してくれることで、なんとか言いたいことを伝えることができたのだ。


 すべてを聞き終えたフローリリアは、きょとんとしていた。


「……ありえませんわ。エリアナが闇属性であることは、初対面のときも、目の色を隠すための練習のときも、見ましたもの」

「途中で属性が変わることって、ある?」

「いいえ」


 フローリリアに言われて、ブレスレットを外す。

 意識して身体の中の魔力を操ると、壁の僅かな汚れまで見えるようになる。身体強化で視力が増したのだ。


「まぁ、もう視力強化が出来るなんて、素晴らしいですわ!」


 無邪気な声をあげたフローリリアだったけれど、すぐに、はっとしたように項垂れた。


「とても綺麗な金色の瞳です、間違いなく闇属性をお持ちですのに、どうして」


 頬に手を当てて、ほぅ、と切ないため息をつくフローリリア。

 私もつられて、ため息をついた。

 学校生活が始まった寮は男子禁制だけれど、一応、すぐにブレスレットをつけておく。


 身体の中にある闇属性が、しゅるしゅると小さくなるのを感じた。


「二つの属性を持ってるってことはないよね?」

「聞いたことがございませんわ」


 フローリリアは首を横にふる。

 フローリリアはベッドの下から旅行鞄を引っ張ると、別のブレスレットを取り出した。私がつけていたブレスレットは私のベッドに置いて、新しいブレスレットを手につけてくれる。


「こちらをつけたときの感覚は、いかがです?」

「うん、いい感じ。ちゃんと闇属性が小さくなるのがわかるよ」

「もしかしたら、ブレスレットに欠陥があったのかもしれません。……とはいえ、光属性が現れるなんて考えられないのですけれど」

「このブレスレット、借りてもいい?」

「勿論です。このあと、またベリル先生のところへ行かなければならないのでしょう? 気を付けてくださいませ」


 ブレスレットを別のモノに交換して、いざ職員室へ。

 職員室は、中央塔の正面にある。

 フローリリアはついていくと言ってくれたけれど、先にお昼へ行ってもらうことにした。

もし私が闇属性だとバレたとき、フローリリアまで一蓮托生にはしたくない。


 職員室のドアノッカーを叩いて、出てきたロイーズに「ベリル先生に呼ばれてきました」と言った。

 ロイーズは訝るような表情を見せたあと、職員室に引っ込んだ。

 確認に行ったのだろう。


 私だって、来たくて来たんじゃないよ。

 職員室のドアに貼り付けられた、『生徒入室禁止』の文字を睨みつける。美しいバロック様式の建物への侮辱だよ、似合わなすぎる張り紙だよ!


 む?

 そういえば私、生まれて十四年一度も読み書きを習ってないんだよね。


 あちこちにある文字はすべて日本語に見えるし、私もこの世界に来てから日本語で文字を書いている。

 フローリリアには何度か書いているところを見られているので、私が異国風の字を書いていたら指摘してくれたはずだ。


 私がこの世界の文字を日本語のように読めるように、私が書く文字も皆に読めるのかもしれない。


 これが自動翻訳機能か。

 未来の猫ロボットもびっくりだね。


 職員室のドアがひらいて、バハムートが出てきた。

 私を見つけると、にっこりと笑みを深める。


「お待たせしました。こちらへお願いします」

「はい」


 極力自然に、何も知りません私、というようにバハムートのあとをついていく。

 連れていかれたのは、中央塔の四階だった。

 何故か全体的にほの暗い階で、突き当りにある教室へ入るよう指示される。


 何されるの、私。

 え、ほんと、何されるの。


 そこは、倉庫という名のゴミ部屋だった。

 見るからに半壊した道具があちこちに置いてある。


「あの、ここは?」

「壊れた魔具を、放置してある部屋の一つです。魔具は作るのにも破棄するのにも手順や費用が必要ですから、こうして放置されることも多いのですよ」

「はぁ、なるほど」

「今は私が個人的に借りている部屋なので、くつろいでくださって構いませんよ。その辺に座ってください」


 無茶なことを言う。

 くつろげないとわかっていながらも、座るところを探して部屋の奥へ入る。


 元々教室だったようで、前のほうに広めの机があった。

 唯一置いてある肘置きつきの椅子は、バハムート専用の椅子だろう。


 どこかに座れるものはないかと探して、一斗缶のようなものを見つけた。というか、一斗缶だ。


 それを机の方へ持っていき、椅子に見立てて座る。


 入り口付近でごそごそしていたバハムートが、授業で使ったものと同じ器械を持ってやってきた。

慣れた手つきで、机に準備していく。


「先ほどは驚いてしまって、そのまま授業を終えてしまいましたが。何か手違いがあった可能性を考慮して、もう一度測定してもよろしいですか?」

「あ、はい。ぜひ。私も、驚いたので」


 やった、ブレスレットも取り換えたしなかったことに出来るかも!

 と歓喜した私を見て、バハムートが苦笑した。


「普通は、光属性だと喜ぶものなんですが。嫌なのですか、光属性は」

「はい!」


 ふんす! と鼻息荒く答えると、バハムートは目を眇めた。

 面白がるような雰囲気を感じて、首を傾げた。


「あの、何か?」

「光属性が嫌な理由をお聞きしても?」

「……先生、戦ってるんですよね」

「はい?」

「ヘルハンターって職業をしてるって聞きました。光属性って、危険なお仕事につくんじゃないんですか? 私、穏やかで高収入、いえ、安全且つ、ほどほどによい収入のあるお仕事につきたいんです」


 バハムートは、ふむ、と顎に人差し指を置いて、考えるように目を閉じた。

 だが、はっとしたように、すぐに目を開く。


「あなたのお考えとご希望は、理解しました。ヘルハンターだけが光属性の職業ではありませんが、闇属性有利を持つ光属性は、どうしても闇属性に関わる職種になるでしょうね。後方支援もなくはないですが」


 言葉を切ったバハムートは、思い出したように私に器械を示した。

 言われるまま、もう一度手を突っ込む。


 ぐぬぬ、手に小石がくっつく感触が!


 手の平や甲、指の隙間までびっしりとくっついた小石は、漏斗のような入れ物のなかでぱらぱらと剥がれて落ち、透明な容器の中をくるくる回って、右上のケースに収まった。


「やはり、光属性ですね。それも、かなり強い魔力のようです。……念のため、もう一度試して頂いても?」


 何度試しても、結果は同じだった。


 フローリリアがくれたブレスレット、きみを疑ってごめんよ。

 ブレスレットのせいじゃなかったみたいだ。


 考え込んでしまったバハムートを前に、私は、ちら、とドアを見た。


「あの、そろそろ失礼してもよろしいですか?」

「ああ、はい。また連絡しますね」


 しなくていいよ!

 私は関わりたくないんだよ!


 にっこり社交辞令の挨拶をして、脱兎のごとくフローリリアがいる食堂を目指した。


 *


「りりあ~な~」


 フローリリアの姿を見つけるなり抱き着いた私を、フローリリアは驚きながらも抱き留めてくれる。


「どうでしたか?」

「結果変わらずだったよ」

「……そうですか」


 フローリリアの前には、食堂で注文しただろう昼食のトレーが置いてある。

 ぱぁ、と笑顔になる私を見て、フローリリアが驚いたように目を見張った。


 学食だ。

 憧れの、学食だ!


「美味しそう、私もお昼ごはん注文してくる!」

「ええ、沢山種類がありましたよ」


 くすくすと微笑むフローリリアに見送られて、落ちた気分が浮上する。

 我ながら現金なのは、理解しているさ!


 でも、学食だよ?

 給食じゃなくて、学食だよ!


 メニューを見ると、確かに沢山の種類がある。

 うほ! とテンションが上がりまくったのは、一瞬だけだった。


 メニューの隣に、値段が書いてある。

 当たり前だが、一つ注文するのにもおカネが必要だ。


 寮で食べる朝食と夕食は無償だが、どうやら昼食は別料金らしい。


 私は、現在の手持ちとこれからの生活を考えて、コロコロモルグというパンを買った。

 手のひら大サイズのパンを、食堂のおばちゃんが素手で手渡してくれる。


 せめてトング使って!

 衛生面大事!


「あら、それだけで足りるのですか?」


 机に戻った私に、フローリリアが驚いて口元に手を当てる。


「う、うん。昼はあんまり食べると、眠くなっちゃうから」

「優秀ですのね」


 感心したように頷くフローリリアから、そっと視線を逸らす。

 本当は、おカネがないだけなんだよ。


 コロコロモルグにかぶりつく。

 懐かしい味がして、手元のコロコロモルグへ視線を向けると、甘い餡子がつまっているのが見えた。



 これ、アンパンだ。


 *



 午後からの授業は、社会科目の説明と、一般教養としての国語だ。

 まぁ、学校だからね。

 普通の勉強もしておかないと。


 社会科目は、歴史と地理があるらしく、この授業もまた、歴史と地理で教室が変わるらしい。


 教室移動多くない?


 フローリリアによると、属性科が広々と使っていることに対して他の学科がぶーぶー言ったのをきっかけに、各教科や教師へ使用する教室を与えたそうだ。


 属性科は、属性ごとに離れた教室を確保しているため、どうしても広範囲の使用になるらしい。少数精鋭を育てるため、生徒によっては生徒一人につき専用の教室を与えることもあるという。


 そりゃ、ほかの科が怒るよね。


「教室は余っているので、いくらでも使って頂いて構わないのですが、あまり自由に改造されたらあとが大変だから――と、父が唸っておりました」


 なるほど。

 借りたロッカーにシール貼っちゃって、撤退するとき確認に来た管理のおばちゃんにしこたま怒られる、アレに似た感じだろう。


 夕食を済ませて寮の部屋に引きこもると、今朝使っていたブレスレットに付け替えた。


「ありがとう、これ返すね」

「ブレスレットが原因ではなかったのですね。……不思議ですわ。こちらでも少し調べてみます。光属性は希少ですから、今後ベリル先生から接触があるかもしれません。闇属性に関しては、決して知られぬよう、気を付けてくださいませ」

「うん」


 色々なことがあった、国立特殊学園入学二日目の、初授業日。

 自分で思っていたより疲れていたみたいで、布団にもぐりこむと同時に眠りについた。


ここまで閲覧、ありがとうございます。

次は、18時前後に更新予定です。

基本不定期。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「りりあ〜な〜」。 名前はフローリリアなのでは? リリアナという愛称で呼んでいるのでしょうか? 読み間違い・読み落としでしたら、すみません。
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