第三話 旅立ち、東方の帝國へ。
コトコトと沸騰した熱湯を茶葉を入れたポットに注ぎ、紅茶の香りや渋みの成分を引き出す。爺ちゃんがくれた魔導具になっている背嚢には、野営具に始まりティーセットや葉巻など彼の趣向品まで入っていたのである。
折り畳みの椅子に座っている少女は、見る限りの年齢は14と言った所であろうか。黒髪を肩まで伸ばし、ハッキリとした顔立ちは西洋的に感じる。紅茶を差し出すと両手で抱え、物珍しそうに息を吹きかけている。自分もカップを手に取り桂皮と生姜の香りを楽しむ。
暫くは豊かな時間を楽しんでいると、猫が焦れったくなったのか少女へと向かった。
「お嬢さん、儂は緋染 洛、あっちの坊は緋染 篇ナと申す者。君はなんと言うか聞いても宜しいかのぅ」
熱いのか少しずつ少しずつ口にしていた少女は、ティーカップを置き応えた。
「弓月 叶女。叶女で良い」
小さな声だが、言葉一つ一つに唯ならぬ魔力が乗っていた。やはりこの子は只者ではない。
「叶女は何で此処に居るの?魔族が住んでいるのは、もっと南の方だと聞いているんだけど」
「......分からない。殆ど記憶が無い。でも多分ここに転移してきた。時空魔法の匂いがする」
魔法に匂いを感じるのか、それとも唯の比喩か......。魔族とやらの生態を知らない僕には区別がつけられない。視線を爺ちゃんへと向けると......。
「ごほん、魔族には魔力を感じる能力があるとは、聞いた事があるのぅ。だがしかし、彼らは他と関わるのを嫌う傾向がある為、正直余り記録には残っていないのが実際の所じゃ」
なるほど、人口も少ないらしいから尚更か。
「だがのぅお嬢さん。君程の力があれば、あの程度の人数一撃で蹴散らせただろうに。何故ふみ坊に助けを求めたんじゃ?」
「私はまだ力の制御が上手く出来ない。間違えると森ごと消し飛ぶ。木に恨みはない」
なるほど、だから代わりに僕に殺って欲しかったのか。にしても自然を大切にするとは、魔族のイメージとは違うな。
「ふぉふぉふぉふぉ、主.....その耳の尖りに自然を気にする様子。混血しておらんかぇ?珍しいこともあったもんじゃのぅ」
ギクリというSEを幻聴させるほどの、動揺具合だった。しかし、本当に爺ちゃんの勘は恐ろしい。こっちに来てからより精度がましている気がする。
「......私はエルフと魔族と人族のクオーター。だから闘争本能は無い......と思う。多分。だから殺さないで欲しい」
爺ちゃん曰く、亜人と人族、エルフと人族は稀にあるそうだが、魔族がそこに入ることは稀も稀で、数百年に一度報告されるかされないかの程合いらしい。それに魔族は危険視される風潮がある為、誰も言い出さないのだそう。魔族の長が魔王として君臨し、各国と対立関係にある情勢も絡んでいるのだとか。
「殺さないよ。僕は教会の信徒でもないし、何処かの刺客でも無く唯のはぐれだからね」
「ありがとう......篇ナ」
ポットが空になる頃には空が少し暗くなりつつあった。
さて、遺体を片付けるか。
素知らぬ顔で一服してはいたが、クレーターの中には遺体が山積みの状態である。夜まで放置すると魔物や獣が寄ってきて面倒なのだ。しかし、さすが魔族の血入りと言うか、血液や肉片への恐怖は見られない。ある意味不健全の極みだな。
使えそうな荷物をはぎ背嚢へと入れていく。略奪ではない、有効活用である。一応手を合わせて呟きながら財布を開け、懐を温めていった。しかし迷うのが散乱している銃器や刀剣である。正直、西洋風のロングソードやサーベルは切れ味が悪く、自分の剣術とは相性が最悪なのだ。最早使い物にならない。
「爺ちゃん、このサーベルって質に入れたら幾らになる」
「そうじゃのぅ......断定は出来んが百マドカ程かのぅ」
一マドカが三十円ぐらいだから、約三千円か。やはり軍刀は人気ないんだな、これほぼお飾りだし。数本は叶女に渡して後は売り飛ばすか。
すると傍でガチャリと金属音が響き、次の瞬間爆音と共に数メートル先の地面に風穴が空いた。
「おー凄い。弾出た」
そりゃ出るでしょうよ......と言うかこの子存外頭弱いな。声色には余り出ていないものの、爛々と目が輝いている。
「それ持ってくか?」
「うん、これを通せば暴走もしにくい」
一応考えてはいるのか......掴めない少女だ。そんな事を考えながら遺体の山に小火弾を数個放ち、火葬を済ませる。
「それで、これから何処に行くの」
......どうしようか。特に理由もなく、爺ちゃんに馴染みのある帝國の街に向かっていたが、身寄りのない少女を抱える流れになっている。何処か教育を受けさせる場を設ける必要があるだろうし、僕自身の身分を証明出来る物も得なければならない。
「爺ちゃん、一番近くてギルドのある帝國の街まで、大体何日かかるかな」
「そうじゃのぅ、徒歩だと三、四週間はかかるかのぅ」
まぁまぁかかるな、少女には長過ぎる旅だろう。何か車でもあれば別だろうに......。あ、あったわ。
「よし、あのトラックを使わせてもらおう」
すくりと立ち上がり、教会のマークを手から出した炎で焦がし消していく。全くもって印象が悪いからな。
「ふぉふぉふぉふぉ、久し振りに曾孫とドライブじゃ。胸が高鳴るのぅ」
一見は機嫌のいい可愛らしい猫なんだが......中身がね。
「篇ナは運転出来るの」
「まぁ、これでも二十代半ばだからね。ほぼペーパーだけど」
「えっ」
目を見開いて驚いているな....冷や汗までかいている。何なら今日一の驚きざまだ。そこまで反応しなくても、と思ったがそう言えばまだこちらに来てから、自分の姿を確認していない。風魔法で広く地面を抉り、水を張る。
......確かにこれは驚くな。長めの銀髪に赤のメッシュ、顔立ちはまるで女児の様。角度がついているため、正確な身長は分からないが大体百五十cm程だろうか。うーむ、間違いなく成人しているようには見えない。
「小人族の血が入ってるの?にしては武器が刀。変わってる」
「あーうん、そうなのかもね。うん」
駄目だ、何と説明してもボロが出る気しかしない。変に話さない方が得策か......。
「誰にでも話したくない事はある。気にしなくていい
「あ、ありがとう」
この子、良い子だよな。基本。
「坊~、荷台にガソリンの予備があるのぅ、魔力とのハイブリット車じゃから目的地まで足りそうじゃ」
「爺ちゃんでかした!荷物を纏めて日が落ちる前に、街道へ出ようかね」
全員乗ったことを確認し、鍵を挿しエンジンをかける。外装内装共に昔の軍用フォル〇スワーゲンに似てるな。キュー〇ルワーゲンとかもあったなぁ、こっちにも似たのがあるんだろうか。
そんな無駄事を考えながらアクセルを踏み込むと、ハンドルから少量ずつ魔力が吸われているのを感じる。なるほど、これがハイブリットか。
「もっとスピード出して」
「無茶言うな、舗装されてない山道なんだよ。運転が難しい......んだ......っと、あっぶね」
地面の窪みにタイヤがあたる度に車体が上下に揺れ、飛びたした枝が窓枠を叩く。大きな道に出た頃には、日がすっかりくれていた。
+400000マドカ(12万円)
軍用サーベル(一般兵)×6
軍用レイピア(特注品)×1
MM1(ライフル)×12
MM7(擲弾銃)×3
MM2(備え付き機関銃)×2
フォル〇スワーゲン風の軍用トラック×1
アップロード時間帯20時~21時
6話から先、週二投稿(多分)