先見の目
いい人が気の毒すぎて(。>д<)
私には、おかしな力がある。
なんというか、ふと、先が見えてしまうのである。
普通に会話していると、画面が重なる。
ああ、今分岐点だわ。そう思いながら、物事を無意識に選択している自分。
…選択は一瞬の判断が必要なのですよ。
…なのですがっ!
場の雰囲気と、先の出来事をつなぐ空気のようなものがあるわけでしてね。
空気を読まずに手を伸ばすと大変なことになっちゃったりするんだよね。
よくあるじゃん、空気読まない人の発言がさ、場の温度を氷点下に叩き落とすみたいなこと。
まあねえ、私も相当、空気読めないんだけどね!!
だが、それには理由がある!!
先見の明を持つ私、実は恐ろしく目が悪くてね。
先見の目が、目が、目がー!
…ド近眼なんですわ。
手の平の皺ぐらいしかはっきり見えないというのに、なんで先の出来事が見えるんだか。
おかしなもんだ。
「…今回のは、ちょっとやり過ぎたきらいがあったかもって思ってたんですけど。」
「いやいやいやいや…このくらい怖くないと震えあがってこないと思うよ…いい話書いたねー、さすがだ!うーん、恐れ入る。」
昼下がり、ファミレスの大きなテーブルを挟んで向かい合う、私の目の前には好青年。
お友達の息子さんなのだけど、実は趣味の仲間だったりする。
この人ね、こんないい人の皮被ってるくせにね、とんでもないホラー書いてんのさ。
怖すぎて化け物も震えるくらいの作品、ポンポン生み出してんのよ。
…私の目の前で震えてたからね、おばけの皆さん。
なんか新作できたって聞いたんで、見せてもらうって話から、ついでにお茶することになりまして。
テーブルの上には、読んで散々感想言って、誤字とか熟語のチェックした後が。
…これは本物の怖さだわ、間違いない。
いやあ、怖い話ってさ、ホント怖いよね!!!
よーし、今度口の裂けてる姉ちゃんに聞かせてマジ泣きさせたろ!!
好青年はテーブルの上の物語を丁寧に整頓して、プラスチックケースにしまっている。
「相変わらず几帳面だね…。私なんか小さいメモに汚く走り書きしてパソコンで打ち込んだら即ゴミ箱だよ…。」
「姐さんがガサツすぎるんだよ!!」
テーブルが広くなった。よし、水分厳禁だったけど、もういいよね。私はドリンクバーコーナーに向かって…炭酸水にウーロン茶、ぶどうジュースにオレンジジュース、野菜ジュースにジンジャーエール、ああ、あったかいのも欲しいな、ココアと緑茶もらってこよう!!
そう思って、テーブルを離れて三度ドリンクバーコーナーに向かおうとしたら!!!
がつん!!
「わあー!」
私はドリンクバーに気を取られてド派手に机にぶつかった。
がちゃん!がちゃん!!
「ひいー!えらいことになっとるでしかし!!!」
テーブルの上のドリンクバーのグラスがほぼほぼ倒れてー!!!ヤバイ!テーブルの上にスマホがだしっぱだ!!
「ああ!!それ僕のスマホ!!姐さんのはこっちです!!わあー!!」
広いテーブルの上はさながら豪雨の後のアスファルトの様だ!!!
騒ぎを聞きつけたウェイトレスの女の子がタオルを持ってきてくれた。
仕事のできる子は違うな。
おや。
場面が重なるぞ…。
タオルを青年が受け取ると…その手が滑って私のスマホが水没して、責任を巡って問題発生、そのやり取りの中で青年と女の子は仲良くなって、フムフム。
タオルを私が受け取ると…このあとかかってくる仕事の電話を受け取れるだけか。
まあ、スマホ水没くらいならいっか、そう思いつつ自分の白いスマホカバーを手に取り…ふわっ!
ん?!
「もう一枚、持ってきますね!」
私はド近眼が幸いして、女の子のタオルを、受け取ってしまったー!!
青年の横に女の子が立ってたからさ!白いタオルだったからさ!見間違えちゃったんだよー!!
♪~
私のスマホが鳴る、ああ、仕事の電話だー!
「姐さん!僕拭いとくから、出て!!」
青年からスマホを受け取り、電話に出る。
――この子25年彼女無しって言ってたよね…。
「お疲れ様です。」
――この子いい人過ぎて出会い逃してるんだよね…。
「祭り中止からのリモート祭り計画…フムフム。」
――この子の嫁は気が強そうなんだよね…。
「強気で行かないと負けますね、それ。」
――この子女の子に弱気すぎるんだよ、慣れてないから…。
「なに弱気なこと言ってるんですか…やったるわ!!」
プツ、プープープー…。
気もそぞろで適当な返事をしていた私は、鬼スケジュールの企画担当になってしまい!!
ずいぶん苦労する羽目になりそうなんですけど?!
目の前にはニコニコしている好青年(25歳彼女無し続行決定←NEW)がっ!!
「お仕事、忙しそうですねえ!さすがです!」
好青年の働きで机の上はきれいになっている。この几帳面さ、気の配り用、やさしさっ!!
たくさんの女の子と付き合って、女子慣れしてほしいのに!
その芽を!!潰してしまったー!!!
何やってんだ!私!!
…うん、とりあえず、眼鏡を買おう。
私は固く決心をし、温かい緑茶を取りに、ドリンクバーコーナーへと向かった。
 




