夢想家
どうもどうも、夢見がちな者です。
「やあ。」
「やあ。」
「最近の調子はどうだい。」
「まあ、普通だね、変わり映えしない。」
「僕はさ、最近新しい夢を得たよ。」
「またかい。」
「六畳の部屋いっぱいの大きさのふわふわのベッドを買うんだ!」
「それはまた突拍子もない…。」
「部屋入ったらすぐふかふかだよ?!マジ天国だよ!!」
「現実問題として搬入とか廃棄とかさあ…。」
「夢は夢なんだからいいんだって!」
「相変わらずの夢想家っぷりだな…。」
「君は相変わらず夢がないのかい。」
「現実的と言ってもらいたいな。」
「ああしたいとか、こうしたいとか、そういう希望はないの。」
「苦痛のない穏やかな生活をしたいと思うよ。」
「それは夢というよりも、理想だね。」
「僕には理想しか追う勇気がないよ。」
「それはなぜだい。」
「理想だったら手に入る可能性があるからね。」
「夢だってかなう可能性はあるじゃないか。」
「どうあがいたって君は超能力者になれない、それが現実だよ。」
「君は何だ、夢を追う僕を否定するのかい。」
「そういうわけじゃないけど…。」
「叶わない夢ばかり追ってるわけじゃないんだけどな…。」
「叶わないからこそ、夢なんじゃないのかな。」
「願っていたらいつか叶う、それが夢なんじゃないのかな。」
「どれも叶わないと僕は思うけどね。」
「なんだい、僕を全否定するのかい。」
「そういう、訳では、ないんだ。」
「じゃあ聞くけど、君は僕の何を肯定するのさ?」
「…夢を持つこと、かな?」
「追うのはだめで、持つのはいいという事かい。」
「夢を無くしてしまったら、生きていくのはつまらないじゃないか。」
「君がそれを言うのか、ふうむ…。」
「夢を追えるのは、無謀だけれど余裕があるってことだと思うよ。」
「余裕って何だい。」
「現実に振り回されないってことだね。」
「君は別に振り回されてないじゃないか。」
「振り回されないように過ごしているからね。」
「君が夢を見てくれるから、僕は現実を見ることができるんだよ。」
「君が現実を見ているから、僕は夢を見ることができるんだね。」
「「僕たちは夢のそばにある、ただそれだけの事なんだね。」」
僕の中の二面性が穏やかに会談を終えた。
そうだ。
現実はただ、穏やかに。
多少の不満を抱えて、変わり映えのしない時間を過ごし。
多少の我慢を重ねて、暮らしていける賃金を得る。
叶わない夢を胸に秘めて、叶いそうな理想を口に出し。
夢に思いを馳せて、また現実の波にのまれていく。
夢は叶わないと決めつけている自分は確かに、夢想家だと思う。
叶わない夢を思い浮かべては、叶ったときの愉悦に浸る。
叶わないからこそ思い浮かべることができる、現実味のない想像。
夢が、僕の頭の中で様々な世界を構築する。
それはこの上なく贅沢な、自己満足の思考。
夢想家とは、「できそうにない事ばかり考えている人」。
できそうにない事ばかり思い浮かべる僕は、確かに存在、している。
けれど、どこかで。
「できそうもない事ばかり」の文脈に、できる可能性を感じていて。
…もしかしたら。
…できないと言い切っては、いないじゃないか。
そこに、僕は、夢を見て。
そこに、可能性を、感じて。
「さ!超能力トレーニング、始めるか!!」
今日も、地道に、努力してみる。




