図書館
雑誌コーナーの荒れっぷりがヒドいと哀しみを感じます…(。>д<)
物語の溢れる場所、図書館。
ここには文字が溢れている。
…いや、文字は溢れていない。
文字は本の中にしっかり納まっており、本は棚の中にしっかり納まっている。
物語からあふれ出る、世界がここにはある。
この静寂の広がる空間に、あふれ出した数多の世界。
世界は、文字という手段を使って本の中に納まることを、良しとしない。
世界は、本に姿を変えて人の心に触れる。
世界は、人の心の中で広がってゆく。
図書館はいわば世界の集大成。
文字が世界を支配していることを知らない人々。
文字に支配されていることを知らない人々。
文字の侵略こそ、世界の真実。
文字は人の使うツールではない。
文字は人を使うツールなのだ。
物語を読ませ人の心をつかみ。
物語を読ませ人の心を一定の方向に向かわせ。
物語を読ませ人の心は何かを得たと思い込む。
文字の知略に溺れる人間。
文字の知略のしたたかさを知らない人間。
いい物語ですよ、ここからあなたの得るべきことは。
いい物語ですよ、ここからあなたがすべきことは。
いい物語ですよ、ここからあなたは変われますよ。
読まされている事実に気づくがいい。
心を操作されている事実に気づくがいい。
文字の人類支配は止まることを知らない。
何とかして文字を読ませようと画策する文字。
紙に記された文字を読まぬ世代が増えたなら。
電子の文字を読ませればよい。
文字すら読まぬ世代が増えたなら。
文字を読ませた人間に物語の内容を伝播させればよい。
この世は文字が支配しようとしている。
この、静寂に包まれた図書館は、文字の楽園。
文字が着々と世界を支配するための、待機所。
小さな人間が、大切そうに絵本を抱え。
大きな人間が、文字を読み。
小さな人間は、世界を知り。
大きな人間になった時に、幼い日の物語を思い出す。
図書館の居心地の良さは、世界の意思。
ここで世界に浸りなさい。
ここであなたの進むべき道を見つけなさい。
ここで世界を構築する一部となりなさい。
ここは落ち着けるでしょう。
ここは時間を忘れることができるでしょう。
ここは貴方を虜にするでしょう。
物語を読んで、何かを感じて、何かを興す。
物語の策略に、素直にはまる人間。
物語を読んで、何も感じず、何もしない。
何もしなければ、何も変わらない。
その思考こそが、文字の策略だと気づかない。
何も変わることのない物語という認識が人に生まれる。
あの話は面白くない。
あの話は意味がない。
あの話は無駄だった。
あの話は、あの話は。
物語が、人に蓄積されていく。
図書館は、世界の支配者の総本山。
敵の本拠地に乗り込んでゆくなど。
図書館など。
図書館など…。
「すみません、ここで寝るのはちょっと…。」
「…すみません。」
日がな時間を持て余している僕は、図書館のソファの上で目を覚ました。
しまった、外が暑くなってきたからここで涼を取ろうと思ってそのまま寝てしまったようだ。
なんだかおかしな夢を見ていた、気がする。
やっぱり図書館って不気味だよ。
どこの誰の手あかがついたかわかんない古い本の、怖さ?
ここはそういう怨念が溢れてるとしか思えないね。
僕は本なんて好きじゃないからさ。
図書館なんて別に来たくないんだけど。
最近の図書館の設備の良さと言ったらさあ!
居心地よすぎてついつい足が向いてしまうんだなあ…。
図書館司書がこちらを窺っている。
まずいな、目を付けられたかもしれない。
とりあえず新聞でも読むか…。
…なになに、宝くじの当たる神社特集、フムフム。
ここから近いな、ちょっと行ってみるか。
僕は文字の溢れる図書館を後にし、文字の溢れない町中に繰り出し、神社へと向かった。




