魔法使い
よくある話ですヾ(@゜▽゜@)ノ
こちらの作品は、エブリスタさんにて連載中のショートショート集「引き出しの多い箪笥は、やけに軋みがちである」にも掲載しています。
魔法使いにあこがれた時代。
魔法があれば、無双できると信じていた。
巨大な敵に立ち向かい、炎の魔法でやっつける。
かわいい女子に立ち向かい、魅了の魔法で惚れさせる。
恐ろしい病魔に立ち向かい、回復の魔法で治癒させる。
憧れた時代があったからこそ、俺はイケると思ったんだ。
降って湧いた、異世界転移のお誘い。
俺は二つ返事で受けたとも。
つまらない毎日を送るのに飽きていた。
目標のない人生に興ざめしていた。
誰かに影響されることに辟易していた。
しかし。
魔法の世界は、普通の世界で生きてきた俺を拒んだ。
まず、魔法の基礎がわからない。
魔力の流れ?
てんでわからない。
それはまるで、日本語を知らない外国人が、わび、さびというものを理解できないのと同じレベルで。
そもそも魔力というものがわからない。
漂っている?
纏っている?
自分の中にある?
雲をつかむとはこのことだ。
魔力検査では、人とは思えない力を持っていることが判明した。
しかし、使えない。
魔力を外に出せないから、渡すこともできないらしい。
まるで、使えない。
魔法の常識に、ついていけない日々が続く。
ふとした時に魔法を使う奴らのもとでただただ孤立していく。
魔法の世界のやつらは、空気を吸うように魔法を使う。
俺には魔法を使うという常識が無い。
それはこの世界ではとけることのない呪いのようなもの。
頭のどこかで、いや、真ん中で。
魔法は常識外れだという認識があるのがまずいらしい。
精霊もいるようだが、それも厄介だ。
あいつらには嘘が付けない。
魔法を受け入れられない俺の心は曝け出されている。
信じないやつには近寄らないよ。
信じたふりしても無駄だよ。
詠唱呪文ですら、使えない。
それはまるで、どれだけ無双もの小説を読んだところで主人公にはなれないように。
そういう呪文があって、すごい威力を発揮する、そこどまり。
呪文の知識は溜まれども、どうしても発動しない。
異世界転移がいけなかったんだ。
異世界転生だったらうまくいってたのかもしれない。
赤ん坊から人生をやり直す七面倒臭さを考えたのが運のつき。
あの時俺は、間違えた。
…いや、赤ん坊になっていたとしても、俺の日本人の記憶がある限り無駄だったのかもしれない。
今日も俺は、魔法の世界で魔法を使わず、地味に生きる。
魔法の世界でただ一人、魔法を使わないで生きていく。
それはまるで、無人島で自給自足を貫いて一生を終える変わり者のように。
「俺は、本気を出したらすごいんだぜ。」
日本にいた時と同じセリフを、異世界でも吐くことになろうとは。
日本にいた時本気を出すことなく人生を終えた俺は。
魔法の世界でも本気を出すことなく人生を終えるに違いない。
ああ、そうか。
日本にいた時も、同じことだったんだな。
俺の出さなかった本気は、出せなかったんだ。
結局俺は、何につけても、出せない人生を生きていくしかないってことか。
ああ、でも。
この世界はまだ優秀だ。
俺に力があることを教えてくれたからな。
日本にいた時に比べたら、多少は気分がいいかもしれない。
用意された部屋に、毎日出てくる質素な飯。
膨大な魔力があるから、俺はここで暮らしていける。
出せなくても、俺が膨大な魔力を持っていることは周知の事実。
毎日何もしないでただぶらぶらと暮らす。
気が楽だ。
何も考えなくていい。
冒険にもいかず、悪者退治もせず。
ただただ毎日を、ひたすら過ごす。
つまらない毎日を送るのが心地いい。
目標のない人生の穏やかさに浸る。
誰かに影響されることもない。
俺の人生は、安泰さ。
このままぬるく、生きていくさ。
たとえ。
この扉の向こうで、誰かが俺を監視していようとも。
この扉の向こうで、誰かが俺を記録していようとも。




