カラス
鳴き声はあれだけと、意外とかわいい顔をしている気もする。
げー!げー!
目の前の黒いやーつが威嚇してくる。
でっけえカラスだな、おい。
毎日ウォーキングで訪れる公園。
通路沿いには、三つのロングベンチが少し間隔をとって並んでいる。
いつものようにいつも座る真ん中のベンチに向かったら先客がいた。
――ここは俺の場所だぜへいへい!!
うーん、仕方がない。
私は隣のベンチに腰を下ろしコンビニで買ったおにぎりを出して…。
――おお、いいもん持ってんじゃねえか、へいへい!
なんだこいつは。
おにぎりのフィルムをはがし始めた私の手が狙われている。
…絶対狙ってるな、こいつ。
そもそも私は大変に狙われやすいのだ。
いつだったか、神社の中のフードコーナーできつねうどんを頼んだ時に、水を取りに行く十秒の間に最後のお楽しみにとっておいた油揚げをかっさらわれたり。
いつだったか、運動公園の芝生広場でお弁当を広げていた時に、リュックからおしぼりを出す十秒の間に一番好きな海苔おにぎりをかっさらわれたり。
いつだったか、フードフェスティバルで特大クレープを並んでやっと買えた時に、垂れたソースを拭う十秒の間にもりもりクリームを全部かっさらわれたり。
…ええ、わかってますよ、大変にとろいんですよ私。
一瞬たりとも、気を許してはならぬ!
十秒、十秒の気の緩みさえなければ、私はこのおにぎりを…食える!!!
ぺり、ぺり、ぺり・・・
カラスから目を背けることなく、おにぎりのフィルムをはがす。
ずば、ずば・・・
カラスから目を背けることなく、おにぎりのフィルムをおにぎりからはぎ取る。
ばり、ばり・・・
カラスから目を背けることなく、おにぎりをかじる、かじる、かじる…!
カラス、でっかいな。
もぐもぐしながら、カラスのでかさをしみじみ感じる。
カラス、黒いな。
もぐもぐしながら、カラスの黒さをしみじみ感じる。
カラス、なんなんだ。
もぐもぐしながら、カラスが飛び立たない不思議を感じる。
結局私がおにぎりを食べ終わっても、カラスは隣のベンチから飛び立つことはなかった。
なんだ、私が意地悪ばあさんみたいじゃん…。
これ見よがしに見せつけながらおにぎり食べるとかさあ…。
半分くらい分けないといけなかったかも…。
なんかごめん…。
居た堪れなくなった私はベンチから立ち上がり、ウォーキングコースに向かう…
「わあ!!」
おにぎりの入っていたコンビニ袋が、風に飛ばされて、私の手から逃げた!!
慌てて拾おうとしたら、一瞬でカラスが袋を奪って、飛び去った!!!
「ああー!何も入ってないのにー!」
カラスは袋が欲しかったのか?いやいやそれはあるまい、いやしかし。
…今後は食べた後すら気を抜いてはいけないという事ですね、わかりました。
見上げると、あんなにでっかく感じたカラスが大きな空によく見る大きさで羽ばたいていた。
青い空と、黒いカラスと、白いコンビニ袋。
なんという、色のコントラストの共演か。
がぁーあ!げえー!
獲物を得たカラスの雄叫びが、公園にこだました。
公園内の、いろんなところからカラスの声が返っている。
がー!げー!
なんだ騒がしくなってきたな。
何も入っていない袋をつかまされた怒りの声かもしれないな。
頭上から爆撃受ける前に退散しよう。
私は、幾分早足で公園内をまわることを決めた。
 




