不知火
人は、迷いやすいものじゃ。
何か、道標を、見せようと思ったのじゃ。
あの日、迷った若者は、暗い海を進んだのじゃ。
あの日、迷った若者は、暗い道を我が道と思い込み進んだのじゃ。
あの日、迷った若者を、暗い道に行かせるべきではないと、思ったのじゃ。
時刻は闇深い丑三つ時。
日はまだ上がらぬ頃であった。
暗い海の向こうは、ただ、暗い海が広がっておる。
暗い海に出てしまえば、戻ってはこれまいて。
道を、違えるな。
道を違えて何も残さず消えるではない。
人に拘ることを良しとせぬものは多いのじゃ。
人に拘り存在をうすくしたものも多いのじゃ。
けれど儂は、光を映さぬ若者の目に、光を映す者の器を感じたのじゃ。
暗闇に不知火を放ち、辺りに儂の炎が舞い。
見えるか、若者。
誰も知らぬ、この明かり。
お前に見せた、この明かり。
この明かりを見てなお、お前は闇を行くというのか?
若者の目は炎を捉え、確かに輝きを映したのじゃ。
闇に向かう己を恥じて、目に炎を焼き付けたのじゃ。
儂の炎を目に焼き付けた若者は、迷うことなく、己の使命を全うしたのじゃ。
人はずいぶん、成長したものじゃ。
儂の炎をかき消す明かりを作り出してしもうたで。
人はずいぶん、成長したものじゃ。
儂が楽しむような明かりを作り出してしもうたで。
今でも時折、道に迷う若者がおるのじゃ。
儂は道を違えるなと、不知火を浮かべようとするのじゃが。
ド――――――ン…
パラッ、パラッ、パラッ…
ド――――――ン…
パラッ、パラッ、パラッ…
バ、ババババババ…
今年も火花を散らす祭りが開かれたのじゃ。
こんなにも明るく照らされてしもうては、何もできまいて。
こんなにも明るく照らすことができる世の中じゃ。
そんなに闇へと、向かわんでもいいんじゃないかい。
そんなに闇に、囚われなくてもいいんじゃないかい。
道は照らされているのじゃ。
照らした道から目を逸らすでない。
照らした道を行く気概を持つのじゃ。
その目に映すは、闇か光か。
選ぶは、己じゃ。
選ぶは、己じゃ。




