雲間
空ばかりみてると、ねぇ。
あ。
あいつなにやってんだ。
梅雨真っただ中、貴重な晴天が広がる本日。
青い空には所々に積雲が浮かんでいる。
風は少々強めに吹いている。
流れる、積雲。
そうだよね、梅雨だもんね、変わりやすい天気だもんね、予測が付きにくいもんね。
雲間に見える、白い尻尾。
あれは龍だな。
昨日まで分厚い積乱雲が広がってて安心しちゃったのかね。
おそらく雲が流れる前に帰る予定だったのに、はしゃぎすぎて狂ってしまったに違いない。
…これだから若いやつは油断がならないというか、爪が甘いというかっ!
身を隠す雲がなくて少々焦っている様子。
焦るんじゃない、まずは雲を呼びたまえ。
小さすぎるわた雲は、見る見るうちにまあまあの大きさに膨らんだ。
よしよし、尻尾は隠れたから安心せい。
青空にぽっかり浮かんだ、不自然なわた雲。
周りの流れていく雲に紛れ込んで、空の端に消えた。
今頃晴れることのない分厚い雲の中で、年長者の龍にド叱られていることでしょう。
「なんで雲の出てるうちに帰ってこないんだ!!」
…空の覇者も意外とうっかりものだからなあ。
明後日からまた雨模様らしいからね。
雲の上は、さぞにぎやかしい事になる事でしょう。
梅雨を憂う人間の上空で、梅雨を楽しむ、龍がいる。
梅雨空の上は、大騒ぎ。
大丈夫、多少騒いでも豪雨と嵐がその音をかき消してくれるから。
心配なのは、お調子者のルーズなやつ。
遊び惚けて身を隠す雲がなくなっちゃって身動き取れなくなって、立ち往生。
青空にぽつりと浮かぶ雲は、そういう龍の、最後のあがき。
仲間が助けに来るまで、ぽっかり空に浮かび続ける。
たまーに、飛行機雲に紛れ込んだりも、してるけど。
なかなか空のかくれんぼうも、大変らしい。
ああ、いつのまにか、風がすべての雲を運んで行ってしまった。
もう、隠れる場所はどこにもない。
真っ青に広がる雲一つない空を見ながら、私は洗濯物を干し始めた。
 




