靄
リフトが好きなんですよね~ヘ(≧▽≦ヘ)♪
日帰りバスツアーに申し込んだ初夏のある日、旦那と私、娘と息子で高原に出向いた。
冬はスキー場になるこの高原は、夏は花畑やミニプール、出張動物園などを開催していて人気を呼んでいるのである。
定員20人ほどのゴンドラに乗って高原中腹まで移動する。一家四人で乗り込んだ。ほかに乗客は5人ほど。娘がトイレに行ってる隙に、バスツアーの参加者たちはほぼほぼ上に行ってしまった模様。
「わあ!!すごい!!」
「おお!!すげえ!!なにこれ!!」
ゴンドラから山肌を見ると、あちらこちらに靄がかかっている。
雲があちらこちらに落ちている感じ。娘と旦那は大喜びではしゃぎながら風景を楽しんでいる。
息子は高いところが怖いようで、私のおなか辺りに顔をうずめている。
「もうついた?」
「もうちょっとだね、頑張れる?」
「がんばれる・・・。」
なんだ、気の毒だな。
中腹の駅でゴンドラを降りると、目の前には幻想的な風景が広がっていた。
広い草原の上をうすい靄がふわりと漂い、時折舞い上がっている。出張動物園の大きな馬が、靄で見え隠れしている。大きなバルーンの滑り台が、靄の中ぶるぶると震えている。靄の薄くなったところから、色とりどりの花が顔を出す。なんだここは。天国なんじゃないのか。
「あ!!あっちで手作りソーセージ売ってる!!食べたい!!」
「ふわふわかき氷だって!!俺イチゴにしよう!!」
娘と旦那は風景よりもまず胃袋を満たしたい様子。相変わらずだよ!!!
「あれやってみたい。」
息子がふわふわ揺れるバルーンの滑り台をやりたいというので、そちらに向かう。靄が掛かってるけど遊んでる子はいるみたい。近づいていくと、なんだかやけに、じめじめしてきた。滑り台につく頃には、全身がしっとりと!!!靄の正体が水蒸気の塊であると、まざまざと見せつけられた…。
息子は滑り台を大喜びで楽しんでいる。湿気が多くて、ビニールの表面がつるつるになって、スピードが増しているらしい。まあ、喜んでもらえて何よりだよ。
ひとしきり遊んだ後、馬さんにニンジンをあげてたら娘と旦那がやってきた。全身びしょぬれである!!何やってんだ!!!
「雲の中で遊んでたらこんなんなっちゃった!!」
「ねーねー、売店でTシャツ売ってるから記念に買っていい??」
「はあ?!着替え持ってきてないのかい!!」
「持ってきたけどリュックの中までびちゃびちゃでさあ!!」
「あたしピンクのやつがいい!」
私の返事も聞かずに売店に行ってしまった。なんというゴーイングマイウェイな親子なんだ!!!
「もう、じきに靄も晴れると思いますけどね。風も吹き始めたし、日当たりの良いところにいたらすぐ乾きますよ。」
馬の飼育係?のスタッフさんがニコニコして教えてくれた。そうなんだ、一応替えは持ってるから着替えてもよかったんだけどな。
ウサギと戯れ、花畑で写真撮影をする頃には、ばっちり晴上がって気持ちのいい風が吹くようになった。山の中腹から見る広大な風景が素晴らしい。見晴らし台に行って、世界の広さを楽しむ…けど息子は机に座って建物の壁の漫画キャラクターを観察してるな…うん、まあ、仕方ない。
「あ!!いたいた!!もうじき集合時間だよ!!」
げえ!!めっちゃ派手なTシャツを着た旦那!!蛍光黄色に背中一面広がる高原名のロゴ!!しかもカタカナ!!娘は…ピンクの、まあ、かわいい感じのキャラものか…。
「ちょっと!!ものすごいの買ってるけどどうしたん!!!」
「だって3Lこれしかなかったもん。」
「だから痩せておけとあれほどっ!!!」
帰りのゴンドラは、靄が晴れて行きとは全く違う風景を見せてくれた。色とりどりの花が咲き乱れ、絨毯のように広がっていた。写真を撮りたいと思ったけれど、息子が私のおなかを離さないので、目に焼き付けるにとどまった。
バスツアー中、旦那のド派手なTシャツは大変に役立った。どこにいても目立つので、ツアー客全員が目印にしたのである。昼食、ワイナリー見学、リンゴつめ放題、キノコ狩り。ツアー帰りに参加者の方々から飴を渡され、お礼を言われた。
あれからずいぶん経って、あの時のTシャツが今頃、タンスの奥から出てきたよ!!!
旦那はずいぶん膨れ上がってしまって、今では5Lでなければ着ることができない。
娘もずいぶん膨れ上がってしまって、いまではMサイズを着ることができない。
息子はLサイズを着ているから着れないことはないけど、見せたら渋い顔をしていた。
私がこの年でかわいいピンクのTシャツを着る?ビッグTシャツを着る?!
うおお!!勘弁してええええ!!!
…。よし、見なかったことにしよう。
私はそう決めて、発掘したTシャツを再びタンスの奥にしまい込んだ。
少々、もやもやするものの。
ま、いいでしょう!!!




