歯ぎしり
歯を大切にしましょう。
※こちらの作品は、ノベリズムさんにて連載中の「誰かのため息は、ずいぶん蒼くて…重いらしい。」でも公開しています。
こちらの作品は、エブリスタさんにて連載中のショートショート集「引き出しの多い箪笥は、やけに軋みがちである」にも掲載しています。
ぎり、ぎりぎり。
僕の歯ぎしりが、誰もいない教室に鳴り響く。
授業が終わり、みんなが下校したこの教室で、僕はただ一人、後ろの掲示板の原稿用紙を見つめていた。
☆児童文学大賞☆
2-3選出作品
6/5(金)代表作品決定投票を行います
小林学人「学校戦隊チュニレンジャー」
大場花子「おばあちゃんとわたし」
外山千佳「かわいいのは誰だ」
文学者生誕の地として名をはせる僕の住む町は、年に何度か、物語のコンテストを開催している。町内在住の中学生を対象とした「児童文学大賞」は毎年開催されていて、小説家を志す僕にとっては絶対逃したくない賞レースだ。
去年応募したのだが、正統派のつまらない文学作品を書いてしまい、おちゃらけた物語に負けて落選してしまった。
今年は、去年の失敗を踏まえて、おちゃらけたものを書いてみた。幸い、僕は世界観の広さと語彙力には自信があるんでね、どんな世界だって書けちゃうのさ。
僕の力を見せつけるために余すところなく書き込んだ、原稿用紙五枚にかける、僕の意気込み。
本気で書いた僕の物語の横には、つまらない物語が、二つも並んでいる。
おばあさんと過ごす、普通の女子のつまらない日常を書いた「おばあちゃんとわたし」。
自信過剰な女子がモテて仕方ないことを嘆く「かわいいのは誰だ」。
応募者が多いこのコンテストは、優秀作品がクラスで一本選出されて、市役所へと郵送される。つまり、クラスで選出されなければ、コンテストに応募することもできない。
その、選出投票が、明日行われるのだ。
……何が腹立たしいかというと、外山だ。
こいつは、クラス中みんなと、仲がいい。
今日、散々、
「明日の投票、あたしにしてね!!私一回でいいから朝礼で名前呼ばれてみたいの、ねえ、みんな協力してね!!」
などと言って、頭を下げてまわっていた。
図々しくも、僕の所にも来た。
「小林君の面白いけど、あたしに譲ってくれないかな?ね、お願い!」
「あはは、お願いして回らなくても外山さんのは選ばれると思うよ。」
不正投票のお願いとかふざけんな、てめーのは選ばれるレベルじゃねえんだよと思いつつ、にこやかに返事を返しておいたけど、正直はらわたが煮えくり返って仕方がない。
大場はいいんだ、こいつは暗いし友達もいないからまず選ばれない。
内容も、さらっと文字見た感じじゃ、会話形式で原稿用紙がすっかすかの読み応えのなさそうなやつだったし。
ぎり、ぎりぎり。
正直僕の原稿用紙の横に二作品が並んでいることすら、気分が悪い。僕は苛立ちを押さえつつ、一人無言で、家に帰った。
翌日。
「では、開票を始めます。」
みんなが、投票した結果が、黒板に書かれていく。
すると。
小林学人「学校戦隊チュニレンジャー」――― 8
大場花子「おばあちゃんとわたし」――――― 12
外山千佳「かわいいのは誰だ」――――――― 12
あり得ない。そんな、バカな。
僕が……、最下位?
「よう、残念だったな!俺お前に入れたんだけどな、女子に入れたくなくってさあ!!」
「ああ、俺も入れたんだぜ?読んでねえから男に入れただけだけど、がはは!!」
「小林君すごかったのに!私入れたんだよ?今度一緒に図書館行こうよ!元気出して!」
何人かが僕を元気づけようと声をかけてくれたが、気分は、晴れない。同数だったので、決選投票が行われた結果、外山のものが、選ばれたんだけど。僕は、どうしても納得がいかなくて…。
「先生、投票の件なんですけど。」
授業が終わった後、僕は職員室の先生の所に行った。
どうしても、今回の不正が許せなかったのだ。
「ああ、小林君、ちょうどいいところに。あのね、ほかのクラスの作品が集まらなかったらしくて。急遽だけど、うちのクラスから三本出していいってことになったの。だから、小林君のと大場さんのも市役所に出しとくからね。」
「本当ですか!!わかりました!!」
これで僕の書いたものが入賞できる!!!
大喜びで、家に帰った。
……入賞者が、広報に、載った。
大場花子「おばあちゃんとわたし」
生徒一人一人に、忌々しい広報が、配られた。
ご丁寧に、フルカラーの挿絵付きで広報表紙に載ってやがる。
作品誕生秘話が、二ページにわたって書いてある。
うちの学校から初の入賞者だったとのことで、学校中がお祝いムードに包まれている。
僕は歯ぎしりをしながら、入賞した大場の物語を初めて頭から最後まで読み通して…。
僕にこんなおばあちゃんは、いない。
いつも僕のいう事を否定して馬鹿にする、話を聞いてくれないババアならいるけどさ。
僕にこんなの、書けるわけないじゃん。
いない人を書くなんてできるわけないじゃん。
こんなの、会話だけで場面とか表現してないじゃん。
簡単な言葉しか使ってないし、物語としてなってないじゃん。
小説家になりたいなら、もっと難しい言葉を使って書けよな。
ぎり、ぎりぎり。
大場はいいな、運が良くてさ。
ガリッ
奥歯が、少し、かけてしまった。
……僕は、本当に、運が悪い。
しばらく、物語書くのやめようかな。
…うん、やめよう。僕が選ばれないなら、意味がない。
それからずいぶん経って、大場が作家デビューしたことを知った。
あの程度で、作家か。ふうん。
僕は、再び、小説を書き始めて。
いまだ、世間は、僕を認めて、いない。
ぎり、ぎりぎり。
ガリッ。
…やっぱり僕は、運が悪い。




