憂い
お父さんは心配性なんです((((;゜Д゜)))
「ああ、いやだいやだ、明日の役員会の司会が嫌で嫌で仕方がない…。」
旦那がずっとくよくよしている。
「引き受けなけりゃよかったのに。」
「誰もいないからって言われたんだってば!!」
「誰もいなけりゃ役員会やらなきゃいいじゃん。」
「そんなわけにいくかい!!」
引き受けたなら腹をくくるってのが男ってもんじゃないのか。
「ぶちぶちいうくらいなら引き受けんなよ。」
「あああ!!ミスったらどうしよう!!心配で心配で!!」
その割にはバクバク飯食ってんな。
「ミスってあいつに任せたらダメになるってみんなに知らしめてくればいいじゃん。」
「そんなわけにいくかい!!!」
大皿の上の青椒肉絲が勢いよく減っていく。
ピーマンだけよけているのはさすがだ。
「ああ、食欲がわかない、もうごちそうさまするわ。寝る…。」
ご飯三杯食ってんだから食欲がないもくそも。
私は肉のない青椒肉絲をモリモリ食べながら、憂いに満ちた旦那を見送った。
翌朝。
ダブルのスーツに身を包み、太ってはいるがげっそりした表情で旦那が支度をしている。
「ねえ!!俺がなんかやらかしたらさ!おかしな奇声あげてくんない?!」
「はあ?!」
「そしたらそっちに目がいってごまかせるじゃん!!」
「バカじゃねえの。」
自己中心的な人は、トーストをバクバク食べながらトンデモ理論をかます。
「はああ、うまくいくかな、堅物多いからさ、変なこと言って説教食らったらどうしよう。」
「参加者全員の前で堂々説教食らってきなよ。」
「そんなわけにいくかい!!!!」
コーヒーを取りに行って戻ったら…食べかけのトースト食われてるじゃん!!
私の朝ごはんのトースト!
「はあ、食欲ないけど行ってくるわ…。」
「トースト食われたけど私も後で見に行くから。」
今日の役員会は、町内会の新規役員を決めるための集会。
誰もが役員など引き受けたくないと思っている中で司会をこなし、推薦し、決定を下さねばならないという大役。そりゃ誰もがやりたくないわ、こんなん。
会場に行くと、町内会の皆さんがわんさか着席していた。
あ、三軒隣の小島さんがいる。
「こんにちは。」
「旦那さん司会なんでしょう、お疲れさま。」
町内で旦那のでかさとイイ人っぷりはかなり有名なのだった。
なんていうかこう、人懐っこくて人見知りしなくて、恥知らずというか、私と正反対なんだけどさ。
いつも以上にでっかい体をちょこまか動かして、ああ、あれはめっちゃ緊張しているな。
今にも書類全部をもってひっくり返りそうな感じだけど。
「それでは、令和二年度の役員会を始めます。よろしくお願いします。」
マイクをもって話し始めてしまえば。
スムーズに進行をし。
手の上がらない着席側を見渡して推薦をし。
推薦者の良いところを余すことなく伝え。
サポートすることを約束し。
前年決まるまで三時間かかった役員会を30分で終わらせてしまった。
そりゃそうだ。
町内いたるところに知り合いがいて、いたるところで声がかかる。
頼まれごとは二つ返事で引き受けて、いつもにこにこしてる。
そんな人に推薦されてお願いされたらいいよと言わざるを得ないではないのか。
しかも困ったらサポートを約束してくれているのだから、心配がない。
「いやー無事終わったわ!!良かったよかった!!」
「お疲れさま。」
旦那と並んで、近所の喫茶店へ行く。
ランチバイキングのあるお店。
「いやあ!!心配事がなくなると飯がうまいわ!!!」
あんなに憂い顔だった旦那はつやつやしながら食べ放題のサラダをもっしゃもっしゃ食べている。
「心配したところで結局うまくいくもんなんだって!!」
昨日あんだけくよくよしていたというのにこの自信に満ちた様子はどうだ!!!
「お願いしてみるもんだわ!みんないいよって言ってくれたし!」
ああ。これは…。
「やっぱ人脈作りってのは重要なんだって!」
心配性のくせに自信過剰の自分大好き人間、長い長い自己語りが始まるぞ…。
「そもそも俺ってのはさあ…!!」
私はげっそりして、このあとのやり取りを憂う。
ああ、食欲がなくなってきた。
目の前の旦那の前には、山もりのパスタと唐揚げ、コーヒーゼリーにシュウマイ、ええとそれからそれから…。
私の目の前にはコーンスープとサラダしかないというのに。
私はバイキング終了時間まで続くであろう自慢話を聞かなければならない状況に、そっと深い青息吐息をついた。
 




