お城
今年は海に行くと決めています。
砂を、固めて。
城を、作る。
私だけの、お城。
スコップを片手に。
城を作る。
ぺん、ぺん。
表面を叩いて。
がし、がし。
端っこを削って。
ずいぶん不格好だけれど。
城が…できた。
頂上に、旗を立てる。
完成。
誇らしげに、後ろを振り返ると。
「うわあ!!何これ!!マジすげえ!!」
お父さんがはしゃいでいる。
「いやあ、たいしたことないですよ。」
私のお城とは全然違うお城があった。
知らない人と、盛り上がっている。
お父さんはものすごく人見知りしない人で、知らない人とすぐ仲良くなるんだよね。
足元には、筒や箱が散らばっている。
作った人は、自慢げに作り方を説明してる。
砂を、型に詰めて、それを積み重ねていったのかな?
相当な、大作だ。
自分の作ったお城が、小さく見える。
「おしろ、すごい。」
弟が、大きなお城に手を伸ばす。
「わあ!!!ダメダメ!!!」
お父さんは弟を抱き上げて、私の方に持ってきた。
「こっちのなら触っていいから!!」
「いいの?」
「いいよ!いっしょにつくろうか!」
弟は、まだ三歳。
スコップの使い方もよくわかっていない。
私のお城は、弟に、献上された。
私の作ったお城なんて、大したことないからね。
「おしろ、すごい。」
…すごかったらしい。
大喜びで、お城の周りに溝を掘る、弟。
バケツで海水をくんできて、そっと注ぐ。
お堀ができた。
今度は、お城の下に穴を掘る。
私も向こう側から、穴を掘って。
砂の中で、手が触れた。
トンネル開通、おめでとう。
お城の向こう側を見ると、弟がニコニコしていた。
テンションが上がった弟は、そのまま立ち上がり。
「あ、ああー。」
お城は崩れ去った。
ヤバイ、表情が、悲しそう。
「わあ!すごいね!きれいに崩せたじゃん!」
「うん…、すごい?」
「じゃあ、ここをきれいな砂浜に戻して、おしまいにしよっか!」
「わかった!」
ぼこぼこの砂浜を、二人で均す。
砂遊びは、終了だ。
向こうの方から、お母さんが来た。
「そろそろ帰るよ。あれ、お父さんは。」
「なんか砂の城褒めてた。」
「まただよ!!あのコミュニケお化けはもう…もういいや、ほっといて美味いもん食べよう。」
テラスのある海の家の二階で、具の少ないラーメンと、具のでかいカレー、かき氷を食べていたらお父さんがやってきた。
「ひどいよ!先に食べてるなんて!!」
「いや、忙しそうだったから。」
お母さんはいつも塩対応だ。
さすが海の町育ちだよねえ。
「あんなすごいお城褒めずにいられよか!」
足元のフェンス越しから、さっき見た、ものすごい砂の城が見える。
人だかりができてる…。
んー?
「なんか、もめてるよ?」
帽子かぶったお兄さんたちと、お父さんと話してたおじさんがもめてるみたい。
「あーあ。」
砂の城が、壊された。
なんだぁ、壊すくらいなら、さわらせてくれてもよかったのに。
食べ終わって、すごい城があったあたりに行くと、型が二つ落ちていた。
型すら片づけないで帰ってしまう、大人、ねえ…。
「わーい!!城の型落ちてる!!もらっていこう!!」
「置いてあるだけかもしれないじゃん!!すぐ拾おうとする!!!」
何やらもめ始めた夫婦が目の前に。
「もう帰ろうよ!!」
声をかけてみるけど、ぜんぜん聞いてない。
もういいや、先に行っちゃおう。
弟と手をつないで砂浜を歩き出したら、波が近くまで来た。
弟と作った城のあたりは、もう波がかぶっている。
海藻が、ザザーンと打ち寄せる波に浮いている。
この海は、いろんなものが浮いているんだよね。
「わかめ。」
ヤバイ、弟が海藻触ろうとしてる。
私は弟の手を取り、駐車場へと向かった。
砂浜から出て、堤防を歩いていると、お父さんとお母さんが手をつないで階段をのぼって来た。
なんだかんだで、仲いいんだよ、あの人たちは…。
車に乗って、駐車場を出て、窓を開けて、外を見ると。
あの大きなお城があったあたりまで、波にのまれていて。
すごいものを作っても、結局波に飲まれて平穏を取り戻す、かあ。
来年は型を持ち込んで、すごい城を作ってもいいかも?
弟も、手伝えるようになってるだろうし。
……そんなことを考えて、帰宅した、夏の日があったっけ。
今年の夏は、どうなるかなあ…。
うちの子がちょうど、あの時の弟と…同じ年。
波、怖がらないかな。
砂のお城、作るかな。
海、喜ぶかな。
……ふふ、楽しみ。
初めての夏が、もうすぐ、やってくる。




